己《キ》
目を瞑り、暗闇に移ろう景色に意識を投ずれば、自ずと己の静脈を情脈を常脈を感じ取れるもの。瑠璃の川に心を流して息を整えて、亦候、暗闇に一息を吐き胸に手を当てれば命の鼓動が身の底から奮い立たせる。それが、生きている証。そして、いつか死ぬという証。目の中で迸る血流。光なしの真っ暗闇。鼓膜が震い、伝える音。全ては生きている故に感じるものであり、感じるべきものなのである。
故に、功徳を果たさねばならぬ。
物事は相当にしてくどくある。そして、これを供養するものされるもの。生き死に、生きる者死ぬ者。生きし者が死した者を供養する事の必然さ。普遍的世界の在り方に沿って我は刀を抜く。
ここ一つ。功徳を果たすと言う言葉。真、功徳を積む、ではなく果たすとなるとやはりこれは己の自己満足というものになるのだが、ここは一つ功徳を果たすとする。刀を抜き、断ち切る。悪霊を断ち切る。
それが、目の前にある全てであり善良を尽くす結果であるが為。
其方は死す。
ただ、それだけ。其方は死に切れなかった、ただ、それだけなのだ。
そして我は、其方を愛した思いの数だけ楽に天へ弔ってやろう。
さぁ、我は刀を抜く。
妖狩りの家業に費やし、そうして長年使い古したこの刀。修繕にして鍛錬の賜物。其方の屈託のない笑みを守る為、今期、醜きその邪気を打ち払って見せようではないか。明るき其方の振る舞いは、今でも忘れまい。
別れ方、天寿真っ当では無かったが、最後まで共に居れて嬉しきもの。
息子は妻と孫を連れ、ここから遠くに離れておる。安心しなされ。途中の峠までは見届けた。
だから、安心しなされ。残すは其方を見届けるだけだ。最後まで家業に専念するとは考えも見なかったが、これはこれで良きものでもあるさ。
さぁ、我は其方を斬り、我もその後を行こう。
少しばかり其方の方が早いものだが、ほんの少し遅いだけ。其方なら、待っててくれるだろ。
我には後悔はない。この人生をまっとうに生き、どのような形であろうと愛する者と死ねるのだから、後悔はやはりない。
だから、我は___