【第三章】第十八部分
『ピンポーン。』
夜の9時に新堂家のチャイムが鳴った。
「夜遅くに人が来るなんて珍しいわね。誰かしら。遼斗、確認してきてよ。」
「いったい誰だ、こんな時間に。」
そもそも機嫌がよくないところに、不測の客が来たことで、ますます気分が悪くなった遼斗。訪問者の顔を見て、目が血走った。
「王子、いや元王子。実にいい格好じゃな。孫にも衣装じゃ。」
「貴様の孫になった覚えはないぞ。そんな年増区だったんだ。ビックリだよ。」
「いや違うぞ。ワシはまだJK、いや、Jリーガーなんじゃから。」
「Jリーガー?」
「そうじゃなくJリーガーの愛人だったりするんじゃが。」
「ますますワケがわからないぞ。よくもヌケヌケとやって来れたものだな。飛んで火にいる夏目漱石。あ~!言葉で千円札を燃やしてしまった。もったいない!」
「元王子。そこまで貧しく、卑屈になってしまわれたか。悲しいことじゃ。こんな貧民家庭に染まってしまったからじゃな。よよよ。」
凛子は目薬を差しながら泣いている。
「オレをコケにするのもいい加減にしろ!」
「これでワシと対等に話せるだけのテンションになったな。」
「き、貴様、わざと?」
「鍋のあくは取らないと、マズくなるでな。どうじゃ、底辺の生活を楽しんでいるかな。思わぬ発見もたくさんあるじゃろう。さて、ワシがここにやってきた理由じゃが、元王子が隠し持っている薄い本をよこすんじゃ。」
「「薄い本⁉」」
遼斗と玲羅が見事にハモった。
次の瞬間、玲羅が遼斗をガン睨みへとシフトした。
「ワシは元王子が屋敷を出てから、中をくまなく探したが、薄い本は出てこなかった。よって元王子が持ち出したに違いないと踏んだんじゃ。薄い本がよほど大事なんじゃろうと思ったが、どうかな。」
外見のみ少年っぽい高校生探偵のように、目を眇める凛子。
合わせて玲羅も蔑む視線ビームを遼斗に照射した。
「うわあああ~、苦しい、イタい~!」
大袈裟にのた打ち回る遼斗。
「ちょっと、そのポーズ、あまりにわざとらしくてイタいわよ。」
呆れ顔で床に転がる遼斗を見下ろす玲羅と凛子。
「ゴ、ゴホン。」
バツが悪そうに立ち上がった遼斗は、隠し持っていた薄い本をふたりに見せた。
「べ、別にこの本を使ったりしてないんだからなっ!」
「「使ったんたんだ。」」
玲羅と凛子は共感した。
「これに特定の用途を除いて、何の意味があるんだ?」
「薄い本の機能を説明してやろう。これを使えば人々から徳リンゴジュースの秘密を消し去ることができるんじゃ。さすれば徳リンゴジュースは元通り普通の健康飲料として売ることが可能となる。それで大王寺製薬は再生できるぞ。」
「そんな魔法のようなことがあり得るのか?」
「信じなくてもいいが、ならばこのままここで、没落王子としての固定生活、いや安定生活かもしれないが、その道を歩むならばそれでもいいがのう。」
遼斗は黙っていた。




