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【第一章】第一話

【プロローグ】

人間が自分の持っているものを次の世代に伝える本能的手法が遺伝子。

ごくまれに、人間は心底から来る怒りを覚えると、別次元に飛ばす能力を発揮する。飛ばされる遺伝子は、最小単位の電子となり時空を移動することから、『移電子』と呼ばれていた。

しかし、遺伝子と移電子は違う。移電子は飛んで入り込んだ先で、何か失ってしまう。

それも入った先の大事なモノを喪失させる。いいとこ取りは許されないのは世の常である。


【第一章】

中世ヨーロッパを想起させる少しグレーがかった大きな城。天を切り裂くような尖塔を両脇に侍らせて、悠然とそびえ立っている。

建物に囲まれた広い中庭に幼い男女が見える。ふたりは立ってお互いを見合っている。女の子は薄いピンク色の優雅なドレスではあるが、丈は短く、幼さによく似合っている。

 男子は純白のズボンと宝石のようなボタンの着いた白いシャツ姿でスタイリッシュな王子様としか見えない。黒く短い髪、漆黒で鋭い目とシャープなラインの鼻筋の超イケメンである。

女の子は、ドングリを横にしたような大きなピンクの目と不釣り合いに眉間にシワを寄せ、男子は苦虫を噛んだような表情で、幼児らしからぬ様子である。

「シロはお兄ちゃんの許嫁なんだから、もっと一緒に遊んでよ!お兄ちゃんは、この国の王子様で、血の繋がらない赤の他人の貴族である娘シロを、嫁取り物語する過酷な運命レールに乗ってるんだから。」

「なんだよ、俺のそのプロフィールは!お前は、白雪姫って呼ばれてる割には、ガサツなんだよなあ。だいたいシロって言うのは、安っぽい犬の名前みたいだし。オレはもっとおしとやかな、巨乳女子が好みなんだよ!」

「やっぱり、お兄ちゃんは浮気者だ!シロだけを見てくれればいいのに。もうアタマに来た。こうしてくれる!ハグ、ハグ、ハグ~!」

「避け、避け、避け~!」

 王子はバスケのサイドステップを軽やかに踏んで、白雪姫の抱きつきをかわした。

「またお兄ちゃんに逃げられた!」

「ふふん。白雪の攻撃なぞ、お見通しなのだよ。ワハハハ。」


それから数年が経過した。

薄桃色のドレスを身に纏った白雪姫と、いかにも高級そうな白いシャツとズボンの王子はゴングを待つボクサーのように、身構えている。

「お兄ちゃん!シロの胸、こんなに大きく実ったよ。おいしく熟してるから、味わってね!ハグ、ハグ、ハグ~!」

「避け、避け、避け~!」

「おかしいなあ。シロは『継続は力なり』を信じて、日夜努力して、ハグのスピード・パワーを着実に上げてきたのに。お兄ちゃん、避けるの、うまくなったね。」

「懲りないヤツだなあ。同じことを何年やってるんだよ。もはや、条件反射の領域だぞ。俺だって、同時に成長してるんだよ。こんなムダ成長するのに、どれだけ時間と労力を消費していることか。この捨ててきたエネルギーを他に転用したら、どれだけ省エネ社会を構築できたことか。」

「シロの努力を産業廃棄物扱いしないでよ!」


その日の夜。自分の部屋で目に力を込めている王子。

思春期の闇は巷の健全な青少年にも、ちょっとアレな王子にも例外なくやってくる。

「毎日白雪相手で、しかもハグ避け地蔵リフレインじゃ、飽き足らないよなあ。よし、明日から、世間に蔓延るギャルたちをウォッチング並びにハンティングするぞ!」

立ち上がってトンデモ宣言を布告した王子様。

それは有言実行となった。

「やっぱり好きモノこそモノが上手になるだな。」

不健全な青少年邪念パワーを見事に開花させた王子は、白雪姫の目を盗んでは、街に手掛けては、女子たちを次々とナンパしていき、女子の恋心を盗んでいた。そもそもイケメンでかつ王子様という伝家の宝刀を持っているのだから、遊び放題であった。

「せっかくナンパした女子の姿を忘れないために、残して置こうかな。」

 王子は幼い頃から絵画を習っており、画力に秀でていた。その能力を生かして、手込めにした女子の絵を描いて保存していた。その絵の多くは王子がキスしたり、あるいはそれ以上のことをしたりしている卑猥な画像であった。

王子は一度征服すると、すぐに飽きてしまい、描いた絵を二度と見ることはなかった。それだけ、王子を本気にさせる女子には出会えていないことの証左でもあった。


 王子の隠密行動を露とも知らない白雪姫は、能天気に王子の城を訪ねた。

「こんにちは。お兄ちゃん、シロと遊ぼう!」

「申し訳ありません。殿下は所用で外出しておりやがります。」

細目でぶっきらぼうなメイドから、あっさりと王子不在通知を受けた白雪姫。

「今日もいないの?お兄ちゃん、最近、外出が多いねえ。年頃の王子様は公務に励むんだね。これも将来、シロを王妃に迎えるための、大婚活なんだね。ダイコンは真っ白で、シロの花嫁衣裳に似合うかな。」

オヤジギャグを飛ばしながら、白雪姫は少し引きつった笑顔を見せて、自分に言い聞かせるように、呟いた。

しかし、その後もなかなか会えない日々が続き、白雪姫もさすがに不審に思ってきた。

「何か、お兄ちゃんがおかしい。きっと、どこかで女子を漁りに行ってるよ。これはもうお兄ちゃん探索活動をするしかないよ!JK間で流行りのストーカー行為に勤しむ季節到来だよ!」

無論、そのような流行は存在しない。

そんな白雪姫の行動に気づかない王子は、アサリ女子の潮干狩り作業にせっせと勤しんでいた。

この日も街中でナンパした制服姿のショートカットの女子高生に、建物の裏で壁ドン状況を構築していた。

「俺の眼に映るのは、キミだけさ。ほら、よ~くごらんよ。うっ、眩しいなあ。キミの瞳が輝き過ぎて、俺の眼が眩んでしまったな。」

 テンプレな口説き文句では靡かない女子も王子様というブランドの前には、瞼を屈して、唇の受け入れ準備をするしかなかった。

「お兄ちゃん!こんなところで、いったい何をしてるんだよ。」

「白雪!どうしてここにいるんだ。」

「だって、お兄ちゃん、お城にいないから、探していたんだよ。その女の子に、いったい何をしようとしてたんだよ。」

「い、いや、これは壁を通じて、地球の呼吸を聞いていたんだよ。どうやら地球が風邪をひいたらしい。」

「そうなんだ。お兄ちゃんは、王道だけでなく、医者の道も目指しているんだね。さすがに王家の人間は勉強のスパンが広いんだね。」

「そうなんだよ。勉強が忙しくてなあ。あははは。」

「あははは。・・・そんなことあるか!お兄ちゃんの浮気者!」

『ぶちゅう。』

 王子が白雪姫の開いていた口を強引に塞いだ。

「・・・。・・・。・・・。えっ。お、お兄ちゃん。これって。」

「そうだよ。俺の初めては白雪だと決まっていたからな。許嫁だけの特権だろう。」

「・・・。うん。シロ、うれしい。シロもこの日のためにずっと取り置きしていたんだから。」「賞味期限の来そうな食べ物みたいに言うなよ。でもこれで俺の気持ちがわかっただろう。」

「うん。お兄ちゃん、一生愛し続けるからね。お兄ちゃんはシロだけのものなんだから!」

 王子は視線を逸らして、少しだけ頷いた。


 その日の夜、王子は自分の部屋で、ベッドに座ってブツブツとひとりごちていたが、やがて、何かを決心したように、立ち上がった。

「よし、これで白雪との約束を完全に果たしたぞ。俺は白雪の独占欲に負けない。一念発起して、浮気をするぞ!どうせ、許嫁がいて、ゴールが決まっているなら、それまで全力で青春を謳歌するんだ。」

 もちろん、王子は白雪姫との約束を果たしたわけではない。浮気はすでに絶賛実施中であって、自分の非道な行動を自ら擁護・追認しただけであった。


「今日もお兄ちゃん、いないの?こんな時間なのに。」

「はい。今日も帰宅時間はかなり遅くなると伺っております。何時に帰って来やがれるのかはよくわかりません。」

 夜の王子のお城玄関で、細目メイドに王子外出という現実レッテルを何枚も貼られて、視野を失ってしまった白雪姫。

「お兄ちゃん、どこで何をしてるんだよ。何って、言うまでもないよね。UWAKI、略してUKだね。植民地拡大目的で海外進出している大国と同じだね。お兄ちゃんもどんどん外に展開して、外国人女子とイチャイチャなんてね?ははは。・・・はあ。」

 白雪姫は昼夜を問わずいなくなっている王子のことが気にかかり、眠れない夜が続くようになった。ストレスによる不眠症である。


 そんな白雪姫の屋敷に薬売りの老婆が訪ねてきた。茶色のローブを被っていて、顔がよく見えないのが不気味である。

「これは不眠症にすごく効果のある薬じゃよ。本来10セット8,000円のところ、20セットで8,000円。さらに、この毒リンゴをつけてやるよ。毒リンゴは、毒はないけど、スゴく固い石製だから食べない方がいいけどな。フフフ。」

「これはお得感満載だね。それならもらうよ。毒リンゴなんて、すごく効き目がありそうだね。」

 元気のない白雪姫は判断力もほとんどなくなっていた。さすがに石製毒リンゴを食べることはなかった。

睡眠薬の方は確かに効いて、白雪姫はどんどん服用していった。

いちおう、薬の但し書きに『飲み過ぎに注意しましょう。飲んだら乗るな!』とあったが、それを無視して、白雪姫は服用継続して、ついに、眠ったままになってしまった。

 眠れる白雪姫のことを聞きつけて、驚いた王子はさすがに心配になった。なんだかんだ言っても白雪姫は自分の許嫁である。

王子は薬売りの老婆をお城に呼びつけた。

「貴様が毒薬を売りつけたおかげで、こんなことになってしまったじゃないか。」

「こちらに責任はないよ。睡眠薬は劇薬だから、用法用量に注意するようにきちんと説明したし、薬の袋にも但し書きがあるだろう。これは使用した方の責任だよ。」

「使い方の問題じゃない。毒を盛られたんだ。そっちが譲らないなら、出るとこに出るぞ。」

「言いがかりをつけるだけのクレーマーじゃな。こういう客がいるから商売がうまくいかないんじゃ。まあ、眠ったままという現実はここにあるんだから、対処方法を教えてやるわ。」

「白雪を起こす方法はあるんだな。いったいどうすればいいんだ。」

「これが睡眠薬の効果を相殺する薬じゃよ。解毒剤とは違うけどな。」

 老婆は小さな茶色のビンを取り出した。『ファイト一発!』という白地に青い文字で書かれたラベルが貼られているが、剥がれかかっている。

「これが薬?医薬部外品と書かれているぞ。ただの栄養ドリンクにみえるけど。本当に効き目があるのか?」

「大丈夫じゃ。これこそ、薬じゃないんだから、飲んでも苦情受付はしないからな。この滋養強壮ドリンクの飲み方はこうじゃ。」

「今、滋養強壮ドリンクって、言ったよね?」

「それは空耳じゃ。これを飲むには人間の体温まで上昇させる必要がある。つまり、口移しで飲ませるのがいちばんということじゃ。」

「口移しだと?」

 老婆の言葉に怯んだ王子に対して、細目メイドはきっぱりと言った。

「衆人環視の中でありますが、これは王子様がやりやがるしかない、公然わいせつな行為でしょう。」

「犯罪前提の物言いをするな!でもし、仕方ないな。まあ、星の数の半分ぐらいはやってる中の一回だしな。」

「さりげなく、大いなる犯罪スレスレな臭いがしやがりました。」

「ほっとけ。ではやってやるさ。」

 王子は力を込めて、ビンの蓋を開けて、ドリンクをぐっと口に含んだ。

「「ぐッ。」」

 老婆と細目メイドは息と唾を飲み込んだ。

 王子はベッドで横たわる白雪姫の唇へ自分のそれを合わせた。

「ぶちゅーーーーーーーーーーーーー。」

「「きゃああああああ~!」」

 老婆とメイドは顔を真っ赤にして、似つかわしくない悲鳴を上げた。こういうシチュエーションには縁遠かったらしい。

「ぷはー。昨日の夜以来か。誰とでもいいものだなあ。」

「まさに鬼畜にふさわしい感想を言いやがってます。・・・でもこのメイドも。」「そうじゃ犬畜生じゃ!・・・でもわしも」

 仏頂面のメイドと老婆。しかし、モノ欲しそうな眼をしており、全員を鬼畜認定できる状況である。

「う、う、う。ここはどこ?シロはどこまでもお兄ちゃんだけだよ。」

「白雪!目覚めたか。よかった!」

「お兄ちゃん。シロはずっと眠ってたんだね。そのシロを起こしてくれたのが、お兄ちゃんなんだ。さっき、口があったかい感じがしたけど、まさか、お兄ちゃんがシロの唇を盗んだの?これで2回目だね。もうシロはお兄ちゃんのお嫁さん認定受けてるから、何回でもいいけど、みんなが見てる前での破廉恥行為はちょっと恥ずかしいなあ。」

「破廉恥なんかじゃない。眠りから覚める栄養ドリンクを口移ししただけだ。これはキス回数カテゴリーではノーカンに分類されるから安心しな。」

「いやだよ!カウントしてよ。」


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