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MACHIKOI ~君と紡ぐ、この町のストーリー~  作者: MACHIKOIプロジェクト委員会
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私の出身地は、酒都(しゅと)西条! 著者:ねこた まこと

 広島県東広島市西条町(さいじょうちょう)



 それまで私は自分の出身地に誇りが持てなかった。

広島といえば、宮島と原爆ドームという二つの世界遺産。それに、映画やアニメの舞台になった尾道のように聖地になるような場所もない。 

誇れるものなんて一つもない。ただの田舎だ。そう思ってたんだ。

でも、それが間違いだって気づかせてくれたのは、担任のある一言だった。



 4月のある日。高校入学を機に仲良くなったクラスメートとお昼を食べてた時の事だ。


「ひなってさ、広島のどこらの出身なの?」


 自己紹介で広島出身である事を言ったからか、しばしばこの手の質問を受ける事が多い。目の前のクラスメートは、何か期待してるような目だ。

どうせ、有名な場所の近くで育ったとか期待してるんだろう。

でも、私。服部ひなの故郷は田舎だし。それこそ日本にどこにでもある田舎だよ。

でも、言わない訳にいかないしな。


「えーと、広島の真ん中あたり」

「えっ?それって原爆ドームとか近いの?」

「違う。広島()の真ん中あたり。東広島市って街」

「えっごめん。わかんない。広島市内じゃないって事?」

 

ーーもう、なんで理解してくれんのよ。

イライラするなぁ。

 私はお箸を叩きつけるように、弁当箱の蓋の上へ置いて怒鳴るように言う。


「うん。じゃけ、()うたじゃん。()広島市じゃって。その街の西条って酒造りさかんなとこで育ったんよね!」


 やっちまった。ついついイラつきから怒鳴ちゃったけど、皆んなシラケてる。そりゃ冷静に考えたらさ、イチイチ怒る事じゃないんだけどね。

 でも広島って言ったら、必ず広島市内の事しか訊いてこんのじゃもん。それ以外だと、宮島か尾道って訊いてくる始末だ。あんたらの頭の地図には、広島市内と宮島、尾道しかないんか!って言いたくなるのと、地味な田舎に生まれたというコンプレックスからつい怒ってしまった。

 どうにかしなきゃ。笑って誤魔化そかな。それとも理由話して謝ろうか? 

そんな事を考えつつ、シラけた空気の中黙々とご飯を食べてたら、のほほ~んと担任の新井先生が声をかけてきた。


「さっきの会話聞こえてきたんだけさ、服部って、しゅとの出身なんだね〜」

「新井先生、ひな東京の出身じゃないですよ」


 とクラスメートがツッコミを入れる。先生は、自分の説明不足に気づいたらしく、笑いながら答えた。


「あぁ悪い。首都のしゅとじゃないんだよ。酒の都で、酒都。広島県東広島市西条町は、酒都西条って称してるんだ。京都の伏見、兵庫の灘と並ぶ日本酒の三大酒処として有名なんだよ、なっ服部」

「えっ、そう。先生の言う通りなんよ。てか、先生、よくご存知ですね」

「うん、俺の趣味の一つに酒蔵めぐりてのあるんだ」

「え〜、おっさん臭い趣味じゃん。先生、まだアラサーでしょ」

「うるさいな。おっさん臭いとはなんだ。いいんじゃないか地理好きが高じた結果なんだよ」


 とボヤく新井先生は、地理の担当だ。

地理好きが高じたってどんだけ好きなのさ。多分、皆同じ事を思ったんだろうな。

多少シラケた目を新井先生に向けてるし。


「今はさ、インターネットでお取り寄せなんてのもあるけど、やっぱり現地に行ってさ。蔵見学したり、作ってる人から話聞いて、試飲して自分好みのお酒を買う。これが醍醐味なんだよな」


しみじみと語る先生。その反応に少し嬉しくなった。



「それはさ、先生は好きだからっしょ。ウチら行っても楽しくないよ」


と一人のクラスメートがそんなふうに言う。他の娘もその意見に同意して頷いたり、「だよね」なんて言ったりしてる。なんだよ。楽しくないって行ってもないのに、そんな事言わないでほしいな。


「そんな事言うなよ。行ってみなきゃ楽しいかどうかなんて、わからないだろ?

有名な観光名所だってさ、行ってみなきゃなきゃ、どんな所かわからないだろ?」

「まあーそうだけど」


 正論を言われて「楽しくない」って言った娘は少し拗ねてる。

先生はその事に気づいたのか、ニンマリ笑ってこう言った。


「じゃあ、行ったらお前らにも、楽しくなるような情報を一つ」

「ええー!!何?教えて!教えて!」


さっきまで否定してなのに、すっかり手のひら返してるし。私は少し呆れた。


「酒蔵通りにはな、酒粕を使ったスイーツやコスメを買える場所があるんだ。

あとな、美酒鍋!鶏肉や豚肉と野菜。味付けは日本酒と塩コショウだけだ。それを深めの鉄板を使って調理するんだよ。

火でアルコール分飛ぶから、お前達でも、食べれるぞ」

「先生。その美酒鍋てのは、食べれるお店あるの?」

「ああ、確か」


先生の話を遮り、私が答えた。



「私知っとるよ。お父さんがそのお店好きで、帰省する度に食べに行っとる」

「ええ!マジで!ねぇひな。夏休み行こうよ」 

「えっうん。いいけど」


 ホント、さっきまで興味ないって感じなのに、何なんだろう?

スイーツだ。コスメだと、自分達が興味持てそうな物が、話題に上がった途端に態度変わり過ぎだよ。現金な子達だ。


でもちょっと嬉しい。ただの田舎だと思ってた街だけど、見方が変わっただけで、実は誇りを持てる魅力的な街だったんだ。

よし。今度出身地を訊かれたら、こう答えよう。


「私の出身地は、酒都(しゅと)西条です」って。


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