琴と初夏の海 著者:斎藤秋
グリーンラインを走るのはいつの日以来だろうか。
あれはまだ君がいた時だろう。曲がりくねった道を走る隣には君がいた。
早朝、展望台で彗星を探したこともあった。通行禁止時間がすぎるのをコンビニエンスストアの前で待ったことを覚えている。
結局、彗星は見つからなかったけど展望台の背後に見えた沈む満月が美しかった。
あれから何年が経ったのだろう。
君はこの日本。いや、この地球上で今何をしていますか?
私は福山でまだ頑張っているよ。都会に出たけど、結局私にはこの町が似合っているんだ。
君との出会いは学校だったね。君は音楽室で琴を弾いていた。
曲は聞き覚えがある曲だった。お正月によく流される曲だ。その曲のモチーフは鞆の浦であることを後に音楽の授業で知った。
同時に福山は琴の町であることにも驚きを感じた。全国の琴の生産量の七割がこの福山の地で作られるという。そのため、学校に琴が置いてあったのだろう。
琴を弾く君に美しさを感じたのは不思議だった。
もしかすると、君はまだどこか琴を弾いているのかもしれない。
初夏のグリーンラインからは瀬戸海の海がよく見える。あれは鯛網の船だろうか。威勢の良い声がここまで聞こえそうだ。
君と結局、鯛網を見に行くことはできなかったね。それだけが私の心残り。
この初夏の海に想いを馳せる私がいた。




