公爵令嬢は紫の瞳に閉じ込められる
初投稿です。分かりにくい言い回しや、誤字脱字も暖かい目で宜しくお願い致します。
広大な大地に大小さまざまな国があるが、その中でも特に力を持つシューエン国とアムールノ国。その間に挟まれた国がフルール国。フルール国は豊穣の女神様が降り立った伝説があり、豊かな国である。豊穣の女神様は初代フルール国の王と結婚し、子孫には女神様の美しい紫の瞳が受け継がれている。
国は豊かだが、軍事力に欠けるフルール国はシューエン国とアムールノ国に平和条約のため政略結婚という形で100年に一度婚姻をしていた。今年はアムールノ国と政略結婚する100年目。アムールノ国は若き王がいる。しかし、フルール国には嫁に出せる王女がいなかったので、王姉で公爵令嬢、16才のビオラが隣国にお嫁に行くことになった。
「はじめまして、わたくしフルール国から参りましたビオラと申します。宜しくお願い致します。」
緩やかに波打つ銀髪に少したれ目な紫の瞳、魅惑的な身体、美しい所作。ビオラはフェロモン系美女でフルールの花と呼ばれていた。
しかし、それ以上の美形が目の前にいる。アムールノ国王、ロゼアムである。185㎝の長身に艶やかな黒髪、切れ長の黒目。一度は拝みたいくらいの美形である。若いが王になれただけあり、頭は切れ統率力もある。そんなロゼアムは隣国からきた花嫁を冷たい目で見ていた。
「平和条約のための政略結婚だからといって、王女でもないお前が王妃になれるとは考えないように。これからはアムールノ国のやり方に従ってもらう。これからあまり会うこともないだろうから、願いがあるなら今のうちに言うように。」
「ええ、理解しております。ところで後宮の隅にフルール国花嫁専用の花の館があるはずですが、まだありますの?」
にっこりと笑顔でロゼアムの冷たい瞳を見つめ返す。
「わたくし、そこに今後は住みたいと思いますわ。」
さすがにそのような発言がでると思っていなかったロゼアムは驚き、一瞬だけ不機嫌な顔になるがすぐさま無表情に徹した。
「普通の女なら俺の寵愛や宝石などを欲しがるものを、あの誰も立ち入らない花の館に住みたいなどと、やはり思った通りだ。」
と誰にも聞こえないように呟きながら。
「あ~無事に終ったわ。陛下が無駄に美形なのだから緊張してしまったけど、ちゃんと花の館が残っていて良かったわ。」
ビオラは花の館を目の前に緊張が解き放たれたのを感じていた。
「ビオラ様、まだ掃除が済んでいませんので、後宮の一室でお待ち下さいませ。」
フルール国から連れてきた侍女のエマにお願いされる。
「あら、でもわたくしも一緒じゃないと入れないわよ。昔聞いたの。ここは歴代のフルール国の花嫁にしか入れないように、紫の瞳が鍵となっているのよ。わたくしこの見た目のせいでいつも派手好きだの、夜会好きだの色々言われるけど、基本家でゆったり過ごしたい派なのよね。」
ビオラは扉の前の飾りである百合の花に瞳を近付け扉を開けた。
フルール国とアムールノ国との婚姻は100年に一度。前回の鍵となった花嫁は60年前に没したはずである。つまり、60年以上は花の館は開くことが出来ない。
しかし、ビオラのいる花の館は生活感のある、手入れの行き届いた空間であった。
「ビオラ様、掃除の必要がないほど綺麗ですわ。」
エマは不思議な様子でビオラに向かって声をかけた。
ビオラは考えた。紫の瞳は特別でフルール国の女神の色である。もし、この国に鍵となる紫の瞳があるとすれば…
「遅かったな。どこか寄り道でもいていたのか?」
扉を開けたままのビオラに向かって、階段からロゼアムが降りてくる。
「陛下。どうしてこの館に入れたのですか?」
ビオラは驚き、後ずさる。しかし、近くまできたロゼアムに腰を引かれ顎を持ち上げられ、無理やり瞳を合わせられる。
「よく見てみろ。俺の瞳は濃い紫だ。濃すぎて黒に間違えられるがな。」
少しもがくが、力の差かびくともしない腕に諦め大人しくなるビオラ。口では負けじと言い返す。
「ここは、わたくしの館のはず。あまり会うこともないと陛下も仰ったので、もう帰っていただけますか?」
ロゼアムは美しい笑顔を浮かべる。笑顔を見たビオラは背筋が氷ような感覚になる。
「ビオラの館ではない。ビオラのための館だ。仕事がある日中は会えない。だからあまり会えないのだ。本来ならかわいいビオラと一日中一緒にいたい。」
「何おっしゃってるの?先ほど冷たい目で王妃になれると思うな。アムールノ国のしきたりに従えと仰ったじゃありませんか!」
ロゼアムの笑顔が恐ろしくなり顔を背けながら言った。
「王妃となれば必要な仕事が出て来る。ビオラはそんな事せず、この館でゆったりと過ごし、俺を癒す仕事だけをすればいい。」
顔を背けたビオラの頬を赤い舌がゆっくりと舐める。
驚き、固まり赤くなるビオラを満足気に眺めるロゼアム。
「花の館とは、フルール国の美しい花嫁を隠すための館。先ほどは、かわいいビオラを前に緊張で無表情になってしまった。かわいいビオラ。この館を何処で知ったのだ?」
「幼きころに…城の図書館である男の子が…」
展開についていけず、しどろもどろになる。
「その子は言ったはずだ。花の館の鍵の秘密を。鍵がなければ誰も立ち入らない場所。そして、花の館で待つと。ちょうど100年目で幸運だった。花嫁候補の王女に別の結婚相手を見つけるのは苦労したが、かわいいビオラのためだ。」
先ほどから自分よりも美しい人にかわいいとずっと言われている。腰に回る腕の力が強くなる。赤い舌が頬から首筋へ、肩を甘噛みされる。怯えながらも約束の男の子かともう一度顔を戻すと
、濃い紫の瞳に捕まる。あの男の子の瞳と一緒。
「わたくしがかわいいからって閉じ込めると嫌いになりますわよ。」
ビオラは敵わないと思いつつも虚勢を張る。
「閉じ込めないと、外は危険がたくさんあるぞ。」
ロゼアムは肩から唇を外し、額をビオラの額にくっつけて幼き子に言うように優しく諭す。
「わたくしはフルールの花。花は光を浴びないと枯れてしまうわ。」
「仕方ない、俺の許可があれば外に出てもいいだろう。しかし、約束が守れないなら二度と館から出れないと思え。」
目の前にある濃い紫の瞳から本気だと伝わる。背中を汗がつたう。
「だっ大丈夫ですわ。わたくしは家でゆったり過ごしたい派ですから。」
「さっきもそう言っていたな。では、俺も今日はゆったりと過ごそう。」
ロゼアムはビオラを抱き抱え階段を登り始める。
「陛下は日中お仕事があるはずですわ。」
ビオラは日中は会えないと言っていたのを思い出し、降ろしてもらおうとする。
「若い王にはまだ世継ぎがいない。後継ぎをもうけることは重要な仕事と思わないか?」
「なっなっ!?」
ビオラは突然のことに言葉にならない。再び瞳が合う。ロゼアムは愛しそうにビオラを見つめている。
嗚呼、花の館はフルールの花嫁の専用の檻なのか。紫の瞳は女神の色。ロゼアムがわたくしに執着するように、私も濃い紫の瞳から逃れられない。