表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/39

後日談:また明日から、あの場所で。

政宗からの手紙・音声版はコチラ(https://mqube.net/play/20170829250544)

水樹さん、本当にありがとうございました!!

ユカがその手紙を見つけたのは、快気祝いをしてもらった日曜日の夜。

 久しぶりに一人暮らしをしている自室へ戻り、政宗の部屋で過ごしていた時の荷物を整理している時のことだった。



『結果へ


挿絵(By みてみん)


改めて……この2週間近く、本当にお疲れ様。

正直、今でも俺は結果に何が起こったのか、ちゃんと理解出来ていなくて。

自分自身を整理する意味でも、この手紙を書くことにします。


あの日、結果は仕事の途中で倒れて、地下鉄仙台駅の医務室に運ばれたんだ。

俺は分町ママからそのことを聞いて、結果を迎えに行って。

そこから、統治や伊達先生、富沢さんの助けをかりながら、何とかここまで過ごしてきた。

結果は過労から体調を崩して、更に風邪も併発していて……『生命縁』が危険な状態だったこともあることは、少し話をした通りです。


これは本当に、俺のミスです。俺がもっとしっかり、結果と向き合っていれば……こんなことにはならなかったから。本当に申し訳ない。


ただ、結果が体調を崩している間、統治と3人で、久しぶりにゆっくり話をすることが出来たんだ。

結果は覚えていないと思うけど、10年前のことを振り返ったり、他愛もない話をしたり……その全てが、俺にとっては本当に大切な時間でした。

またこんな時間を作りたいと思っているから、その時はちゃんと付き合ってくれよ? 悪酔いしないように気をつけるからさ。


結果が仙台に来てくれて、もう3ヶ月。

色々なことがあったし、本当に大変な思いをさせてしまったけれど、俺は結果や統治と過ごす時間がとても大切で、かけがえのないものなんだと思ったし、俺が『佐藤政宗』でいられるのは2人のおかげだと、改めて感じた3ヶ月でした。


生きていてくれて、本当にありがとう。

あの時俺と繋がってくれて、そこから『縁』を繋げ続けてくれて、本当にありがとう。

今、結果と同じ街で生きていけることが、俺は本当に嬉しいです。

これからも、宜しくお願いします。



佐藤政宗』




 手紙を読み終えたユカは……床の上に座り込んだまま、苦笑いを浮かべた。

「なんね、改まって……こげな……」

 政宗から手紙を受け取ったことなど、今までなかった。

 これまではメールや電話でのやりとりのみで、ハガキの年賀状をもらった記憶もないし、何よりも……。

「政宗……」

 丁寧な筆跡で書かれた手紙、それを持つ手が震えているのがはっきり分かる。


 頬に、涙が伝ったのが分かった。


 どうしてだろう。

 胸が苦しくて、苦しくて――はりさけそうで。


 逢いたくて、たまらない。


挿絵(By みてみん)


 脳裏に浮かぶのは、とても穏やかな、優しい顔でユカを見つめる政宗。その顔は泣いているようにも見える。


 そんな彼に……伝えたい言葉がある。



 でも……どうして、言葉が浮かんでこないのだろう。

 どうして、涙ばかりが浮かんでしまうのだろう。



「あたし、なんで……」



 涙の理由が分からないユカは、とりあえず手紙を自分の脇において、両手で涙を拭った。

 そして、思い出す。


 こんな気持ちになったことが、1度だけあることを。



 約10年前の寒い冬、確か、バレンタインデーだったかと思うけど。

 ユカのことがあってから、『縁故』から距離を置いていた政宗。

 そんな彼のことが気になって、ユカから電話をかけたことがあった。

 瑠璃子や一誠からのメールにも反応がなかったので、電話に出てくれるかどうかも不安だったけれど……麻里子が自分の電話を渡して、これならば確実に出ると言ってくれた。

 ユカは右手に携帯電話、左手に彼からもらったSuicaを握りしめて、意を決して電話をかける。

 先にコチラからかけた時は、出てもらえなくて落胆した。でも、すぐに折り返しの電話がかかってきて。

 そして……政宗と、久しぶりに話をすることが出来た。


「ケッ……カ? ケッカか!?」

 久しぶりにそのあだ名で呼ばれて、どこかくすぐったかったけど、思わず笑ってしまった。


「――本当に心配したんだ!! 俺が……俺と統治が、どれだけっ……!!」

 つい楽しくなって、不謹慎なことを言って怒らせてしまった。


「……ああ、悪いな、心配かけて」

 そして、彼が離れようとしていることを、電話越しにはっきりと感じ取ってしまったから。


 だからあの時、自然とこんなことを言ってしまった。


「政宗……あたしはここで、『縁故』として生きていくよ」


 本当は、まだ今後について迷っていた。恐怖心は消えない、自分がどうなるか……明日、1時間後、1秒後、生きているかどうかさえ分からない、そんな、不安定な自分。


 でも、政宗や統治と繋がっていれば……2人が少し先を歩いて、ユカを導いてくれるような気がしたから。


 追いつきたい、そして――追い越したい。

 こんなところで、立ち止まりたくはない。


「政宗……あたし、いつか、また3人で何かしたい。働く、っていうのはちょっと難しいかもしれんけど……でも、いつかまた、3人で集まりたい。約束した仙台観光にも行かんとね」

「……そうだな」

 心の中に残っている希望を呟くと、電話の向こうで政宗が楽しそうに同意する。

 ユカは左手のSuicaを握りしめて、泣きそうになる自分を必死にこらえた。

「ちゃんと持っとるよ、政宗から貰ったSuica。これ見ながら頑張るけん……だから……」

 これだけは、はっきり伝えておきたかった。


「だから……政宗は、あたしの前からいなくならんでね。ずっと、ずっと……『関係縁』、繋いどってね」


 いつか、もう一度会える時まで。

 それまでに……必ず、追いついてみせるから。


 そして、電話の向こうで呼吸を整えた政宗が、しっかりとした声で返事をくれた。


「……当たり前だろう? 俺達は、ずっと一緒だ」


 その時は、本当に嬉しかった。

 政宗が立ち上がってくれたことを、ちゃんと実感することが出来たから。

 本当はこのまま、統治にも電話をかけたかったのだが……ユカは電話を切った後、急に、政宗に会いたくなって。

 戸惑いに押しつぶされた彼女は、その場で泣き崩れてしまったのだ。

 瑠璃子が彼女の背中をさすり、優しい声で問いかける。

「ユカちゃん、大丈夫? どこか痛い?」

 心配する瑠璃子の声に、ユカは何度も首を横に振った。

「違っ……違うんです……あたし、政宗と話せて嬉しかったのに……なんで……」


 嬉しかったのに。

 これからまだ頑張ろうと思って、笑うはずだったのに。


 どうして自分は泣いているんだろう。

 何が……そんなに、辛いのだろう。


 困惑するユカをそっと抱きしめた瑠璃子は、「よく頑張ったね」と、彼女の頭を撫でる。

 そして、こんな提案をした。

「ねぇユカちゃん、政宗君に……この間撮影した写真、送ってもよか?」

「え……?」

「きっと政宗君も、今のユカちゃんの姿を見たら、もっと頑張ろうって思ってくれるんじゃないかなーって。どう?」

 そんな瑠璃子の言葉に頷いたユカは……気持ちが落ち着くまで、Suicaと一緒に瑠璃子の体にしがみついていた。



「……そげなことあったなー」

 久しぶりに目尻に浮かんだ涙を拭ったユカは、机においていた自分のスマートフォンを手繰り寄せ、画像フォルダを開いた。

 その中にある、1枚だけサイズも小さくて、画素数も荒い写真。その数日後、瑠璃子がこっそり横流ししてくれた、政宗と統治の写真だ。

 機種変更をする度に、何度となくデータ移行をしてきた一枚。思い出とともにこの写真の存在も思い出して、画面の中にいる2人に、思わず目を細めて吹き出してしまう。

「……若っ」

 約10年前の、中学校の制服を着ている2人。政宗は笑顔で、統治は仏頂面で……でも、合宿のときよりもたくましくなった、そんな気がした。

 その後、政宗や統治と再会するまでの間……ユカを支えてくれた、大切な1枚だ。

 今の政宗と統治は、この画像を持っているのだろうか?

「今度見せて、からかってみようかな……」

 ユカは、手紙に書いてあった宴会を頭のなかで思い描き、無意識のうちに、口元に笑みを浮かべる。

 心のなかに浮かぶ確かな気持ち、それは――


「政宗、だい――」



 ――……。



 ここまで言って、はたと我に返った。

 今、自分は……無意識のうちに、何を呟こうとしたんだろうか。 

 つい数秒前まで口の中にあった言葉が、一瞬で霧散して消えてしまった違和感。でも、消えてしまったものは、そう簡単に思い出せない。

「だ、い、だい……代休……?」

 明日、仕事に復帰したら、何だか色々書類を書かなければならない気がする。今から考えると軽く頭も痛いが、それだけ休んでしまったのだから甘んじて受け入れなければと諦めつつ……ユカは手元のスマートフォンに視線を落とし、少しだけ思案した。


 電話を、かけてみようか。


「……ま、いっか」

 ユカはすぐにその選択肢を打ち消すと、代わりにLINEを起動して、軽くメッセージを送っておいた。

 そこまで終えてからスマートフォンの電源ボタンを押して画面を消灯すると、それを机の上に戻して、再び、政宗からの手紙を手に取る。

 正直、まだ腑に落ちないことは多い。具合が悪かったときのことは記憶から抜け落ちたままだし、今のようにふと浮かんだ言葉を思い出せなかったり、たまに心がざわついて、感情が制御できなくなりそうになるし。

 でも、きっと……少し時間が経過すれば、またもとに戻るはず。

 だって……。


「……明日、会えるけんね」

 明日『仙台支局』へ行けば、2人に会える。

 明日から……また、いつもどおりの日常なのだから。

 ユカは政宗からの手紙をどこへ片付けようかと思案しつつ、明日からの日常を思い、気合を入れ直すのだった。

結局長く続いてきた『エンコサイヨウ第3幕』も、これで本当におしまいです。

イラストや音源が更新する度に増えていくという、色々な奇跡を引き連れた、本当に大切な作品になりました。


これからも作品は続いていきます。引き続き、宜しくお願い致します!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ