再会
一昨日の夜9時過ぎ
一人の男が、都営浅草線の高輪台駅から品川プリンス方面へ急ぎ足で歩く姿が在った。
彼はプリンスシネマでレイトショーのチケットを購入すると7階に在るらしい喫煙所へと向かう。
しかし、探し回るも喫煙所が見当たらない。ホテルのスタッフに場所を教えてもらい指示通りに進んだが喫煙所らしい場所が見つからない様子だ。
まるでホテル内遭難。。。
肩を落とし寂しそうに踵を返す男。。。
哀愁を感じる。
その男は、プリンスシネマ5に入りチケットの表示された座席に着く。
開演前数分だと言うのに他には誰も居ない。
そうしていると、後ろの方から一人の足音が寂しく館内に響く。
深夜11時45分終了の映画だ。いくら都会のシネマでも平日のど真ん中。寂しい位静かな館内に男が読んでいる単行本のページを捲る音だけが寂しく響く。
突然館内の照明ダウン。上映開始。
どうやら観客は二人らしい。
映画は、今話題の邦画。休み前や休日は混んでいるであろうシネマが贅沢にも静かに鑑賞できる様だ。
上映終了。館内にはその男の他に女性が一人座っていた。
男は、誰も居ない閑散としたロビーを出て、桜満開の坂道を登り始めた。
男は、閑散としたシネマを出て桜の花弁が舞い散る静かな坂道を登り始めた。
人通りは無く、道端に程好く配置されたベンチに若い男女が愛を育んでいた。
暫く花弁舞い散る桜の道を歩いていると、後ろからカツッカツッカツっと一人寂しい足音が近付いて来る。
足音の感じでは、ピンヒールの靴音だ。
カツッカツッカツ 其の音は段々男の耳に近付いて来るように大きくなってくる。
心なしか、最初に靴音を気付いた時より早歩きをしているような感じだった。
男の歩くペースは変わらない。なのに靴音が近付く。
ピンヒールの持ち主は急ぎ足で男に近付いているのであろう。
男は、其の靴音の主が急いで帰ろうとしているんだろうと別に気にも留めない。
そう思っている時、靴音は男のすぐ後ろでペースを落とし男と同じペースで歩き始めた。
あれ?男は考える。。。
暫く男の真後ろを同じペースで靴音が付いて来る。
突然、ピンヒールの足音が止まった時
後ろから女性の囁くような声で「あのぉ~」
男は振り返ると、二十代後半痩せ型、バーバリーチェックのセーターにセミロングの髪形。可愛いっと言うより美しい女性がうつむきながら男に向かって恥ずかしそうに声を掛けて来た。
男は、歩を止め振り向くとシネマで同じ映画を見ていた女性だった。
「はい。どうかされましたか?」
男は女性に優しい声で言葉を返す。