突然の非日常
短めですが、一応投稿いたします。
「…………っううん…………」
目を覚ました私が感じたのは頭部の痛みと、固い床の感触でした。視界に入るのは更衣室の床とロッカー、それと血に濡れたダンベルでした。
「!!」
それを見たとき、私は気絶する前に見た光景をはっきりと思い出しました。そうです、さっきの生徒は……!
急いで身を起こし、周囲を見ると、さっきまでと同じ光景がありました。
頭部から流れる血、うなだれ、全身に力が入っていない身体。とても生きているようには見えませんでした。
「……そんな……。こんなことがおこるなんて……」
先ほどまでの日常は急に姿を消し、私はただ、目の前に広がる非日常を呆然と眺めることしかできませんでした。
「…………っいけません! こんな時こそ冷静に対処しなくては!」
そうです。幸い私はこういった状況に少しばかり慣れているんです。まずは落ち着いて現状を把握しなくては……。
時刻を確認してみると、先ほど私が部屋のカギを忘れたのに気が付いてからおよそ二十分ほど、ここまでの移動時間も考えると、気絶していたのはおよそ五分ほどでしょうか?
更衣室内は、生徒の死体と、血に濡れたダンベル以外は特に変わった様子はありません。今日の体育の時間の後のままです。
「あれ? この人、もしかして二宮先輩でしょうか?」
次に、死体となってしまった生徒に注目してみると、私が知っている人でした。とはいっても、私が一方的に知っているだけなのですが。
二宮元姫。異常者ではありませんが、二年生の中ではかなりの有名人です。女の子ながら背はかなり高く、髪もバッサリとしたベリーショート。レスリング部に所属しており、かなりの怪力だとか……。そんな人が、殺されてしまうなんて……。一体何が……。
「はっ!? いけません、つい考えてしまいました! まずは警察に連絡をしなくては!」
うう……。お母さんの手伝いをしているうちに、こういったことに躊躇いがなくなってきています。今の私は一学生。市民の義務として警察に知らせるべきです。
「おい、なにがあった!?」
そう思い、携帯を取り出そうとしたその時、一人の男子生徒が女子更衣室に入ってきました……。って、えっ!?
「ちょ、ちょっと! なんですか? いきなり入ってこないでください! ここ、女子更衣室ですよ!?」
いきなりの闖入者に驚いてしまった私は、思わず飛び下がってしまいます。というか、この人って……。
「ん? ああ、済まない。たまたま通りかかったら、更衣室の扉が開いていて中に死体が見えてしまったからな。つい、入ってきてしまった」
強面、短髪、高身長。鋭い目つきにかなりの威圧感。ま、間違いありません。この人は……。
「しかし、またこのようなことが起こってしまったか、あいつらにも知らせないとな……」
ボクシング部のドーベルマンこと、城ケ崎竜士郎。この学園の異常者の一人です。
どっどどどどう、どうしましょう!? 彼にはありとあらゆる噂が絶えないと聞きます! 曰く、目線だけで人を殺せるとか、拳でコンクリートに穴が開くとか! 下手をすれば殺されてしまうかもしれません!
はっ! まさか!
「も、もしかして、二宮さんを殺したのもあなたなのですか!?」
「はあ?」
「とぼけないで下さい! 犯人は現場に戻ってくると言いますし、先ほど私を殴って気絶させたのも邪魔者を始末するためなのでしょう!? で、私を殺し損ねたことに気が付いて、それで戻ってきて息の根を止めるつもりなのですね!!?」
ああ……お父さん、お母さん。私は十五年という生涯をここで終わりにしなければならないようです……。
なんて、心の中で遺書を作成していると城ケ崎君が呆れたように言いました。
「何のことだ? 俺はただたまたま通りかかっただけだ」
「…………本当ですか?」
「うう……信用無いな、俺……」
な、何やら落ち込んでしまったようです。どうやら、見た目よりメンタルが弱いようですね……。まあ、完全に信用したわけではありませんが、少し警戒を弱めましょう。
「ま、まあ、それはそれとして、とりあえず先生に知らせて警察に連絡を……」
「いや、その必要はない」
先ほどまでの落ち込みがなくなり、張りのある声で、城ケ崎君は言いました。
「お前も異常者になりたいか?」
「……え? ちょ、ちょっと、何を言ってるんですか?」
どういうことでしょう。異常者になる? ですが、冗談を言っているようには聞こえませんでしたし……。
「今は気にしなくてもいい。そうだな、とりあえずお前は保健室で待っていろ。後で、迎えをやる」
「え、で、でも……」
「いいから行けぇ!!!」
「は、はいぃぃぃぃぃぃぃっ!!?」
ド、ドーベルマンです! ドーベルマンがいました!
半泣きになりながら、私は保健室に向かって駆け出したのでした。
「ふぅ……もしもし、桐木か? いつものだ、場所は二階の女子更衣室、現場に倒れていた女子が保健室にいるから話を聞いておいてくれ」