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第73話  魔王戦攻略5

 朝だ。ふかふかの布団で寝ていた私は、一瞬、此処が魔王城の途中であるという事を忘れていた。隣を見れば、ミアとレアが。可愛い寝顔に、思わず笑みが零れる。

 何となく布団から出たくなくて、そのままミアの寝顔を見ていたら、ミアはそっと目を開いた。数度パチパチと瞬きをして、私を見る。


「おはよぉ、ご主人さま」

(おはよう、ミア)


 ミアは私をギュッと抱きしめる。私の胸の辺りに顔を当てると、「大好き」と言う。甘えんぼさんだな、もう。本当に可愛い。頭を撫でながらそう思う。

 そういえば、昨日の夜もこんなことしたな。久しぶりに一緒に寝たからか、ミアはいつも以上に甘えて来て、凄く可愛かった。

 あ、そうだ。昨日、ミアとこんなような事をしてたら、レアに襲われかけたんだった。どうも嫉妬してたらしい。さて、布団に行こうか、というところで後ろから抱きつかれ、ソファに倒された。「リーナ様ぁ!」と言いながら上に乗られた時は、もう駄目かと思った。なにが駄目って、そりゃ、色々と。

 でも、特に何もすることなく、私の顔を見て満足げに布団に行くんだから……。なにがしたかったのかな。最低でもキスくらいは想像してたんだけどね。


 ミアの髪は柔らかい。寝起きで髪を結んでないから、余計に思う。あまり乱れてはないな。温かくて、触り心地が良い。それに、良い香り。私も開いた手でミアを抱き締める。嬉しそうに声を上げた。可愛い。

 顔を上げたミアは、私の頬にそっと口付けをする。ミアの頬をつつくと、楽しげに笑って片目を閉じた。あまりにも可愛すぎるその表情。他の人には見せられない!

 と、ふと思い出したかのようにミアが口を開いた。


「レアお姉ちゃんは?」

(まだ寝てるよ)

「ふぅん?」


 私がレアの方を向くと、ミアはベッドを下りてぐるっと回りこみ、レアのすぐ傍に立つ。と、レアは少しだけ体を動かして目を開ける。起こしちゃったみたい。

 レアは寝ぼけた目で私を見て、「おはようございます」と言いながら笑った。乱れた髪がレアの色っぽさを助長。他の人には見せられない!


「おはよう、レア」

「レアお姉ちゃん、おはよう」

「あら、ミア、おはよう。もう起きてたんですね、すみません」

「いやいや、まだ早いし、良いんだよ。ただ、レア可愛いなぁ、と」

「起きます起きます、すみません! な、なんて恥ずかしい事を仰るんです!」


 レアったら顔を真っ赤にしちゃって、可愛い。ほんと、いつ見ても私の使い魔は可愛い。

 さて、こんなことをしていても仕方ないので、私は洗面所に向かい、準備を整える。歯を磨き、髪を梳かし、服を整えてペンダントをつけ、完成。

 帽子を抱えて部屋に戻ると、レアとミアが何やら言い争いをしていた。珍しい。っていうか、さっきまで仲良かったのにな。


「あれ、どうしたの……」

「何言ってるんです、ラザール様を落とすにはやはり色気で攻めるべきでしょう!」

「なんで! ご主人さまかわいいから、かわいく攻めた方がいい!」

「待て待て待て待て、何の話をしているの」

「「ご主人さまがラザール様を攻めるなら、どの方法で行くか」」

「そうじゃなくて、何故そうなった」


 はぁ、と溜息を吐くと、急に視界が揺れた。慌てた私の視界に入ったもの、それは艶やかな黒髪。レア……?

 気が付けば、壁に追いやられていて。私の視界の両端には、レアの腕が映っていて。澄んだ黒目が、私の事をじっと見つめている。

 な、なに? 私、レアに襲われてるの? まさか、続きもやる気? それは流石に止めようよ、ね、ねえ、え、レア……?


「じゃあ、リーナ様、ラザール様を逃がしちゃっても、良いんですか」

「え……」

「此処から無事、帰還出来たら。もう、早く捕まえましょうよ」

「そ、れは」

「だから。リーナ様には、目一杯大人になっていただきます」


 これはもう逃げられそうにないな。レアの目、本気だし。首の裏に手を通され、レアの方に引き寄せられた。

 柔かな感触。ああ、キスされちゃった。不覚にもドキッとする。それを感じ取ってか、レアは少し強い力で私を抱き締める。漂うは、大人っぽい、甘い香り。

 そのとき。扉が開く音がした。


「ねえ、リーナ……、ごめんなさい、お取り込み中だったようね」


 この声、ユリア? レアを押しのけ扉の方を見ると、顔を真っ赤にしたユリアが扉を閉めようとしているところだった。待って、折角助けて貰えるかもしれないのに、帰すわけにはいかない!


「ち、ちが、お願い、ユリア、扉閉めないで!」

「え、あ、そう? ……朝食の準備、出来てるよ」

「そう、ありがとう!」

「い、一体何があったの……。とにかく、早くおいで?」

「うん、分かった」


 危なかった。あの香り、理性を吹き飛ばされるかと思った。もう、レアったら、本当に何考えてたんだろ。

 あ、他の人を待たせる訳にはいかないね。早くみんなのところへ行こう、と扉の方に向かっても、二人は付いて来なかった。不思議に思って振り返ると、ミアがレアを叱りつけているところだった。違和感が……。


「ミア、もう良いんじゃない? ほら、行こう?」

「あ、うん!」

「はい」




「で、今日はどうすればいいのかしら?」

「扉がピッタリしまってるんだよね。どうすればいいんだろ?」


 そう。ベルさんの言う通り、扉は閉まって開きそうにない。やっぱり、時間で開くのかな。少し待ってればいいのかも。

 という事で、待ってみた。十分くらい待って、部屋に掛けられた時計の針がぴったり九時を指した時。音を立て、扉が開いた。


「開いたね」

「うん、行こう!」


 扉の先は、螺旋階段だった。私達は階段を上った。とにかく上った。いつ着くんだろう、と言いながら進んでいくけれど、頂上は全く見えない。

 一体何処まであるんだろう? もう疲れたんだけど……。

 すると、一番前を歩くミレが叫ぶ。


「あ! 一番上、見えたよ!」


 みんなはその声で一気に元気を取り戻したかのようだった。階段を上りきり、其処に居たのは……。


「ミリアム……」

「おはよう、とは言えませんかね。ゆっくり休めましたか?」


 にこりと微笑む赤髪のメイド、ミリアム。此処で、彼女と戦うのか。魔力からして強そうだしなぁ、ちょっと不安だ。

 彼女は笑ったまま手の上で魔力を具現化、ボールを作る。パタパタと羽が動き、宙を浮く。

 スペースが少ないから、ちょっと危ない。落ちたりしたら、死ぬんじゃないの? こんなところで戦いたくないよ……。


「心配しないでも、此処で戦うつもりはありませんよ」

「え?」

「私はみなさんを中に招く為に此処にいるわけで、戦う訳じゃありません」

「じゃあ、その魔力……」

「あ、これですか? これ、こうするんです」


 ミリアムはにこりと笑うと、ボールを扉に向かって思い切り投げつけた。呆気にとられているうちに、大きな爆発音が響く。


「きゃあっ?!」

「あ、すみませんね。この扉の鍵を解除するには、こうするしかないのですよ」


 煙が無くなると、私達はもっと驚いた。扉には、傷一つ付いていなかった。さっきと同じようにキラキラと輝いている。な、なんて頑丈な。

 ミリアムは扉の取っ手に手を掛けると、ゆっくりと引いた。重い扉がゆっくりと開いていく。


 ミリアムは恭しくお辞儀をする。それを見て、私達は扉を通り、部屋の中に進んでいく。

 とても大きな部屋だ。真ん中には玉座の様な物があり、ドレスを纏った女の子が足を組んで座っている。

 この子が、魔王……。私の……。

 コツコツと音を立て、ミリアムが魔王の隣に行く。そっと手を出すと、魔王は彼女に空のカップを手渡す。ミリアムは空のコップを近くのテーブルに置くと、魔王に声を掛け……ようとした。

 それは、ラザールお兄様の言葉によって、遮られたのだった。


「え……。――――?」

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