第65話 戦争 ユリア
私、もう、泣きそうだわ。一体、どうすればいいっていうのよ!
ソロは久しぶりだからうっかりしてたわ。周りを見回せば、敵、敵、敵。どうしろって言うのよ、もう、信じられない! 誰か助けてよぉ!
それでも、呪文を唱える口が止まっていないのだから、私は根っからの魔術師なのね。なんて言ってる場合じゃないのだけれど。
これじゃ一瞬で魔力不足になっちゃう! 一回休憩したいけれど、この人たちを何とかしなくちゃいけないし……。っていうか、なんでこんなことになったんだっけ?
確か……。私は、普通に歩いていたの。そうしたら、前に人が見えて。どうしようかな、って迷ったんだけど、この量なら大丈夫だろう、って攻撃したら、凄い人数呼ばれて、今に至る、か。自業自得じゃない。
半泣きで魔法を乱射していると、何とかなりそうな感じになったわ。これなら大丈夫かも。ラストスパート。呪文を唱えていく。
「は、はぁ……」
何とかなったわね、よかった。とにかく休憩しましょう。足早にテントに戻る事にした。
木の下で休んでいると、少しずつ魔力も戻ってきたみたい。でも、また同じような事がないとも限らないし、もう少し休んでいようかしら……、って、んん?
向こうから悲鳴が聞こえた? 何となく聞き覚えが……、嘘だといいのだけれど……。とにかく、行きましょうか。
「っ! ドロシー!」
「ユリアお譲っ!」
やっぱり、ドロシーだったわ。さっきの私みたいな状況になってるわね……。しかも、ドロシーの魔力はもうないわ。仕方ない。援護しましょう。
呪文を唱え始める。けれど、何故かしら? 何か、変な魔力が……。一体、これは何?
それは、魔法を使ってみると分かった。魔法を使う時、倍魔力を使う。そういう魔法がこの辺りに張られているのね。だから、ドロシーが。まずい。ラザールか誰かがいれば……。でも、ラザールは体調悪そうだったわね、駄目だわ。じゃあ、ミレ……。何か悩んでるようだったわね、駄目だわ。アンジェラ……。さっきミネルヴァと居たわ。あの二人は仲が良いみたいだから邪魔出来ないわね、駄目だわ。べル・・・…、も、さっきお取り込み中だったわ。
(誰も呼べない?!)
剣士が呼べなくちゃ、意味がないわ。どうすればいいのよ……。レアでも良いのだけれど、リーナは無理しがちだから、出来れば呼びたくないわね。仕方ない、私が何とかするわ。
まず、ドロシーにバリア魔法。それから、自分に使用魔力を減らす魔法を掛ける。取り敢えずはこれで良いわね。さ、戦い始めましょう。とはいっても……。一発で終わらせるわよ。私は両手を上に向ける。魔力を集め、魔法を放つ!
ドン、という音とともに大爆発。思っていたより強い衝撃に、思わず目を閉じる。うっかりしたら飛ばされちゃいそうだわ。って、状況が分からない。今、どうなってる?
目を開けると、人影は無くなっていた。よかった、何とかなったわね。ドロシーのもとに行くと、彼女は半泣きだった。
「なんて怖い魔法を! びっくりしました!」
「ああ、ごめんごめん。取り敢えず、一回帰りましょ?」
「はい」
にしても、驚いたわ。私とドロシーが同じような目に会うなんて。それと、私が、ドロシーを助けるなんて。ドロシーは、とても強いイメージだったの。私なんかじゃ、到底及ばない様な。そう思ってたから、本当に、驚いた。
……、私とドロシーが初めて会ったのは、ずっと昔の事。と言っても、十二歳? そんなに前じゃないのね。ずっと昔な気がするわ。リーナが来てから、色々な事があったから。一年が、とても長く感じたのね。
ともかく、その時は、私、まだ弱かったから。とても強く感じたのよね。そっか、私、こんなに強く、なっちゃったのね。何となく、寂しい気がするわ。近くにいた人が、みんな、遠くに行っちゃうみたいで。そんな事、ないのにね。
「ユリアお譲? どうしたのですか?」
「ううん……。なんだか、寂しいわ」
「ふぇ? え、あ、え?」
「ああ、ごめん。違うのよ。何でもないから」
ふぅと溜息を吐くと、ドロシーは不安そうな表情をする。私、表情作るの苦手なのよ。だから、ドロシーを騙す事は出来ると思ってない。だから。話す事にするわ。
私の、思ってる事。
「ねぇ……。ドロシーは、私の事、どう思ってる?」
「え、ユリアお譲の事、ですか? ノーラお譲様のご友人、ですか?」
「……」
「え、あ、訂正しますッ! ノーラお譲様と同じくらい、大切なお譲様です」
「そう……」
本当かしら? まあ、それもどうでもいい事。そういう事にして話し進めるだけだから。
さ、て。何から話そうかしら?
「私ね、不安なのよ。急に強くなった気がする」
「良い事じゃないですか?」
「あのねぇ、分かってるのに業ととぼけないでよ」
「ああ、ごめんなさい。ええと、距離が開くって?」
「そう……。他の人と、はなれちゃう気がしてね。だって、私、これだけの力がれば、一人で生きていけるじゃない」
一人で生きていけるなら。わざわざ、近くにいてくれる? リーナ見てれば分かる。ああやって、一人で生きてく力のない子には、沢山の人が集まってくる。使い魔も、同じ。でも、私は? 近くにいようって、思ってくれる?
確かに、一人だって大丈夫だとは思う。でも、それはとても寂しいわ。昔は平気だったのだけれどね。リーナと出会って、人と触れ合うのが楽しいって、前よりずっと深く思うようになったから。今、一人にされたら、私……。
「怖いのよ。一人にされるの。そんな事はないって思ってるけれど、それでも」
「……、そう、です、ねぇ」
「ドロシーは……。一緒に、居てくれる?」
「! それは、出来ません」
「え」
顔を上げると、ドロシーは小さく笑っていた。嘲笑うかのような笑みに、思わずたじろぐ。どういう、こと……? さっきまでのドロシーと、違う。
「ユリアお譲と一緒に居るのは、私じゃないでしょう?」
「え……?」
「ユリアお譲と一緒に居るのは、ルージュのみなさんと、ノーラお譲様。違いますか?」
「あ……」
「だから。私は、一緒に居られません。ユリア様は、もっと、大切にすべき人がいますし、大切にしてくれる人がいます」
本当に、みんな、私から離れない? ずっと、一緒にいてくれる?
でも……。今まで、一緒に居てくれた。急に、離れないはず。大丈夫、だよね。信じよう。
今まで、信じるなんて、やった事、あったっけ? 人を信じられなかったから。だって、誰が裏切るのか、分からないし。もし、分かってれば、あの子だって……。
いや、考えるのは止そう。もう、私は、過去には捕われない。蜘蛛の巣から、抜け出せたの。
「ごめん、ドロシー、そうよね。分かったわ」
「いえ。それより、そろそろ行きましょうか。魔力ももう大丈夫です」
「そうね! それじゃ、行きましょう!」
足取りが軽い。さっきまでは、気付かなかったけれど、随分いろいろな物が纏わりついていたのね。こういうの、自分じゃ気付かないのね……。
今だったら、みんな倒せる気がするわ! 全部私に任せなさい!
魔法の威力が高い。あは、楽しい。良く考えてみれば、最近、戦いが楽しくなかったのよ。余計な事考えてたからね。今、凄く楽しい!
でも、容赦しないわよ。特に、大切なものを傷付けたりしたらね。ドロシーが私を見る。任せなさい。
「赤薔薇王魔・怒ノ業火!」
必殺技は、いつもより紅く、紅く燃え上がった気がした。




