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第55話  朱色の武術

 私はそっと目を閉じる。結局、覚醒出来なかった。でも、たくさん戦って、私、戦い慣れはしたと思う。


(ミア、レア、おいで!)


 ツインテールが現れる。少し浮いたそれは、ミアが完全に現れるのと同時にストンと落ちた。

 そして、黒髪を振り回しながら一回転して現れたのはレア。キラキラと紫色の光が軌跡を作っていく。


(よし。レア、行って!)

「了解!」


 レアは瞳を輝かせた。愛用してるカタナを引き抜き、敵に向かって走り出す。私はミアに守って貰う。前の、狂った女の子の時みたいにはなりたくない。

 うーん、ちょっとこっち方向じゃない方がいいかも。教えた方がいいかな。

 目を閉じ、レアに回線をつなげば、レアと同じ視界が体感出来る。こんな風に見えてるんだ。凄く速い。で、この状態だと会話がしやすい。


(レア、右に向かったほうがいい)

「? 何故ですか?」

(多分左側にミレが居る。このままだとぶつかりそうだから)


 レアはスピードを落とさず足を踏み込むと、ぐっと右に体を回す。視界がぐらっと揺れる。目の前に黒い服を纏った剣士たちが見えてくる。真っ白で透き通ったようなレアの手がとても近くで見える。赤い血飛沫があがる。

 と、レアが急に体を回す。後ろ側に敵が居たみたい。金属がぶつかり合う鋭い音がした。


「くっ、ご主人様、援護をください!」

(わかった。エク、良い?)

「了解した」


 目を開け、召喚魔法を使う。金髪の狼獣人。エクレールだ。手を上に向け、下に降り降ろすと同時に大きな雷が降ってくる。

 もう一度レアに回線を繋いでみると、周りは雷で焼け野原になっていた。レアはまた走っているところだ。

 流石エク、レアを避けて雷魔法を使うなんて、なんて高度な事が出来るんだろう。あ、魔力の関係もあるし、一旦帰しておこう。

 因みに、あの本はもう使ってない。正式に、私の使い魔として契約を結んだ。私の魔力量が増えたから。


(レア、大丈夫?)

「ええ。今度は、一人で大丈夫だと思います!」


 前方から黒い服の集団が。レアは地面を蹴って跳びあがると、魔力を発動させる。横に透明の小さな壁を作った。その壁を蹴ってもっと高く跳び上がると、上から斬撃を喰らわせる。

 視界が黒っぽくなる。まるで夜のような景色。その中、黒い服だけが真っ白で良く目立つ。どういう、こと? 全てをモノクロ化して反転したみたいだ。

 と、急に視界が動く。レアが飛びあがったらしい。ぐるぐると回りながら敵の中へ。真っ赤な血が飛び散っていく。悲鳴が響く。そして。レアからは吐息のような笑い声が漏れる。


「あは……。楽しい。次は?」

(え、と、ちょっとまってね)


 目を開ける。急に色が戻って来て一瞬クラっとした。ええと……。レアは今何処?


(えっとね、そのまままっすぐ進んで)


 目を閉じると、了解、という小さな呟きの様な声が聞こえる。きっと、笑ってる。

 真っ黒な中、白い色は良く目立つ。ちょっとスピードを緩めて走ってたから、敵を見つけると急に速度を上げた。


「きゃははははっ! 良いわ良いわ良いわぁッ! もっともっと楽しませなさぁい!」

「ひゃあああっ」

「かかってきなさい、ほら、ほら、ほら! あはははははっ!」


 悪魔のレアちゃん発動中…………。

 はっ、レアはもともと悪魔だった。や、でも、これは本当に悪魔だなぁ。女の子の魔術師メイジ達逃げてっちゃった。男の人たちは慌てた様子。

 視界がじんわりと赤に傾いていく。黒かった部分が真っ赤になる。結局、白が目立つ事に変わりはない。


「よし、来た来た来たっ! ご主人様、借ります」

(えっ?)

「朱色の武術・鎖鎌!」


 レアの手の中に、鎖鎌が現れた。先に付いた分銅は大きく棘が付いていて、明らかにそれ単体でも殺傷能力がある。また、鎖も無数の棘があり、簡単に肉を削ぎ落とす事が出来る。

 そんな鎖鎌は、今、一瞬の間に魔力で作られたものだ。レアは鎖をびゅんびゅん回すと、敵に向かって投げつける。鎖はレアの手から離れた途端、それだけで意思を持つように自由に動き回り始める。っていうかまず、鎖の長さ変わってない? これが、魔法で作られた武器、か。

 レアはただ立っているだけ。鎖が相手を攻撃していく。逃げ惑う敵兵をただ眺めるだけ。きっと、微笑を浮かべてるんだろう。


「ふふ……。ごめんなさい、ご主人様」

(え?)

「さっき、いいましたよね? 『借ります』って」

(え、え? あ……っ?!)


 慌てて目を開く。ちょっと待ってよ。


(透けてるんだけど?!)

「だから、借りるって言ったじゃないですか。鎖鎌消せば戻るんで、ちょっと待って下さいね」

(なにそれ……)

「そういうものなんですよッ!」


 楽しそうに走りだした。敵に向かって一直線。鎖はもう大人しくなってる。それを見てから、またびゅんびゅんと回し始める。

 投げれば、さっきと一緒。自ら敵に襲いかかっていく。鎧すらも打ち砕く分銅と、肉を削ぎ落としてしまう鎖。そんな武器を前に成す術はなし。


「あ、そろそろ限界かも」

(え?)

「ご主人様の体。返さないと駄目みたい。それっ!」


 鎖鎌は消え去った。それでも、レアは微笑を湛えてカタナを抜く。余裕そう。もうレアは良いかな。

 目を開くと、目の前に人が居たからびっくりした。その間にはミアが居て、バリア魔法で私を守ってる。


(ミア……?)

「あ、帰って来たんだ。ちょっと下がって」


 言われたとおりにすると、ミアは大きな衝撃を伴ってその人を吹き飛ばす。反動で近くまで飛ばされてきたミアを受け止め、前を向く。

 なんだろう、凄く邪悪な感じ。これが、黒魔族シュヴァルツ。ところで一体私になんの用? 余計に声出して魔力を使わない様に、ペンダントは魔力の届かない様な布に包んでポケットの中。手だけポケットに入れて布から取り出す。


「お前、あの忍者の悪魔の主人か?」

「ニンジャ? ……ん、レアの事?」

「まあ、多分そうだろうな。このレベルの悪魔を使役する白魔族ヴァイスは初めてだな」

「種族なんて、関係ないでしょ」

「そうだとしても。あのレベルの悪魔はそうそうお目に掛かれないな」


 目深にフード被ってる。一瞬赤魔族ロートかと思ったんだけど、魔力の感じが違う気がする。

 顔は分からないから年齢も分からない。一体何がしたいんだろう……。


「勧誘しよう。此方に来ないか」

「……、は?」

黒魔族シュヴァルツの方が、その才能を伸ばせる」

「何、言ってんの」


 いつからだか知らないけど、殺気ってものが出せない。だから、私が何かしたところで怖くないんだけど。それでも、ちょっと睨んでみる。

 フードの人は小さく鼻を鳴らすと、大きな鎌を取り出した。刃が紫色で禍々しい。あれ、私、戦うの?


「来い」

「っ! エリュ」


 真っ赤な髪の猫獣人。ポニーテールが大きく揺れる。ついでに胸も。まあそれはともかく。

 楽しそうな表情でフードの人を見る。エリュは戦いが好きで、その上炎魔法は対人に強い。一番向いてると思う。


「にゃんだか分からにゃいが、殺っていいってことなんだにゃ?」

(もちろん。好きに暴れて)

「了解にゃ!」


 ちょっと体勢を低くすると、地面を蹴り、素早く突っ込んでいく。武器はない。自分の体だけ。

 炎を纏って、フードの人へと近づいていく。が。


「にゃにっ?!」


 なにがあった? エリュは何かに跳ね返され、私の近くまで飛ばされてきた。擦ってしまったらしい、左肩から血が滴る。

 右手を左肩にかざすと、さっきまであった傷は綺麗になくなる。もう一度構えを取った。

 バリア魔法に一番精通しているのはミアだ。


「うーん……。魔法をはねかえすものだと思うけど、だんていはできない、かな」

(そう。エリュ)

「試してみるにゃ」


 今度は炎纏わないで走る。けど、結果は同じだ。遠くから魔法を撃って見たけれど、それも跳ね返された。

 一体どうすれば? 何なら効くんだろう。エリュがイライラして来てるのが分かる。このままだと、我武者羅がむしゃらに走って行きかねない。


(崩せない?)

「きびしいかな。ミアと同じくらいのせいどだもん。自分よりよわい魔法しかこわせない」

(そう……)


 じゃあ、どうしよう。エリュで駄目なら、他の子だって無理だよね。そうしたら、私には成す術なし。殺されるのを待つだけだ。そんなの……。嫌に決まってる。

 フードの人は動かない。考える時間はある。どうすれば、この状況を打開できるか……。


「?! ご主人さま……、本気?」

(うん)

「失敗したら、どうしようもなくなっちゃうよ?」

(大丈夫……)


 どうせ倒せなければ殺されちゃうんだろうし、だったら抗って殺された方がいいから。


(おいで……。リア)

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