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第52話  リーナの告白

 昔、それは、本当に大昔の事。魔族は『魔族』で、白や黒の様に分かれてはいなかった。何故分かれたのかというと。それは、白黒モノクロ戦争という魔族の戦争、内戦の影響だった。

 その昔。魔法は人の為に使うものだ、と主張した人たちは白魔法を極め、白魔族に、自分の為に使うものだ、と主張した人たちは黒魔法を極め、黒魔族になった。

 そういう言う訳で、魔族は二つに分かれた。それによって、種族は全部で六つになった。

 と、思われていたのだけれど……。


 まあ、それはともかく。そのずっとあと、でも、今からすると、ずっと昔。世界大戦が起きた。

 戦争は長引き、世界はぐちゃぐちゃ。今まであった戸籍なんかも全てなくなるし、親が不明な子供で溢れた。人々は奴隷としてあちこちに連れて行かれるし、女性は人口が減ったせいで次々に子を孕まされた。一夫多妻も認められる事に。

 そのせいで。世界の人々は混血だらけ。純血の人はごく人握り――例えば王族や上級貴族なんかだけになった。


 さて、一度戻して、白黒モノクロ戦争。この時も、激化して収拾がつかなくなっていた。そんなとき、登場したのは赤魔族ロート。この赤魔族ロートというのは、白と黒、どちらの味方もしなかった人々。結局、どちらも自らの為に、魔法を使っていたから。そうでなく、いつもみんなの為に、と魔法を使っていた赤魔族ロート達の魔法は、誰にも劣らなかった。

 という訳で、実際の種族は六つではなく七つ。しかも、今では純血はほぼ居なくて、みんな沢山の種族が混ざってしまっている。自分の種族が何であるか、証明できるものは、何一つないのです。私もそうですし、ラザールお兄様も、ミレも、アンジェラさんも、ユリアも、ベルさんも、エティも。それをまず、覚えて置いて下さいね……?


 さて。赤魔族ロート達は、自分の存在を隠していた。それは、知られてはいけなかったから。

 彼らは白魔法や黒魔法ではなく、ある『人物』を信じていた。それが、魔王と呼ばれていた『少女』。

 少女の言う事は絶対だった。たとえ誰かを殺す様な命令であったり、国を滅ぼす様な命令であったとしても……。

 でも、少女はそのような事をする人ではなかった。人を愛し、世界を愛す、神の様な人だった。彼女こそが、自律的自立人だった。


 悲劇が起こったのは、少女が十三歳になった時。双子の妹が殺された時。

 少女は同い年の妹を非常に可愛がっていたから、部屋に引き籠って出て来てくれなくなった。少女を信仰していた人々(ロート)は、いきなり指導者を失い、どうしていいのか分からずうろたえた。

 そんなとき、何気ない彼女の呟きが、全てを狂わせた。


「許せない……。世界が滅茶苦茶になればいいのに」


 そう、少女の言う事は絶対だった。


 戦争が始まった。全ては、計算し尽くされ、仕組まれたものだった。起こるべくして起こった戦争。そんな事を知らない他の種族の人々は、戦争に夢中になった。

 少女は狂った世界に目を輝かせた。これこそ私の望んだ世界……。

 少女自身も狂っていた。しかし、彼女の言う事を聞く赤魔族ロートの人々は、それに気付いているにも関わらず彼女の望み通りにした。


 世界は、益々ぐちゃぐちゃになった。


 赤魔族ロートの一部の人々は、ようやく世界を見回して、気が付いた。これじゃ駄目だと。その為には、どうすればいいのか。

 そう、魔王である少女を殺すしかない。でも、少女は相当強い。だからこそ、魔王として慕われてきた。

 その少女を倒すには、少女のイメージカラーである『赤』を越える必要があると考えた。彼女のイメージカラーから赤魔族ロートと名付けられたのだけれど、それは今は良い。

 『赤を越える』から。赤=魔王、『魔王を越える』へ。

 そんな事で、と思うかもしれない。けど、そう、そんなことなの。魔法は願いの力。イメージが重要。こんな事で、良いの。

 赤魔族ロートは、一番それを知っていた。だからこそ、この方法で挑んだ。そうして、勝った。


 でも、彼らは殺せなかった。魔王である少女を。今まで慕って来た少女を。だから、彼らは、飛ばす事にした。彼女の人格を飛ばす。そうして、いつか、誰かに宿った時、その子を殺すように。

 因みに、その少女は新たな人格を与えられ、普通の少女をして育ったらしい。

 ともかく、此処で重要なのは人格が飛ばされたという事。その人格は、赤魔族ロートのみに宿る事がある。だから、赤魔族ロートの規律として、魔王の人格を持つ子が産まれたら、その子を殺さなくてはいけないというものが出来た。

 因みに、魔王の人格はは力を付け、子供が殺されてももう一度復活出来る時にのみ、宿るようになっていった。その為、宿る度に殺す事になっている。

 そして、万が一に備え、魔王と戦った人々は『運命の支配者デスティネ・ドミナシオン・ユマン』となった。彼らだけが魔王を倒すその『すべ』を操る事が出来る。


 そうして、今まで魔王を復活させることなく過ごしてきた。


 でも。十六年前、魔王の人格が宿った子供を、殺せなかった人が居た。親は少しでも弱める事が出来たら、と『聖』と呼ばれる家に少女を送った。

 そんな期待も虚しく。魔王は復活した。本当のその子の人格を殺し、魔王として生活するようになった。

 それと同時に、『運命の支配者デスティネ・ドミナシオン・ユマン』が動き出す。彼らは『素質』を持つ人を操り、能力が覚醒するようにした。

 その素質というのは、ある記憶を持っている事だった。

 それは、身近な人の、大好きな人の、『死』の記憶。そして、その記憶には印象的な『赤い物』がある事が条件で、また、その事件によって何か、『能力』が制限された事も挙げられる。

 そう言った限られた条件に当てはまる人々を『勇者』として育て上げる。それが、『運命の支配者デスティネ・ドミナシオン・ユマン』の役目。


 そう、その『素質』を持つ人こそが、私達。今、私達は、勇者として育てられているところなの……。






 みんな、驚いたような顔をしていた。そりゃ、そうだよね。自分たちが勇者として育てられてるなんて。

 でも、嘘じゃない、本当の事。私達は、勇者。そして、私以外のみんながもう覚醒してる。


「私、焦ってた……。みんな、覚醒するんだもん、私だけ、まだで」


「一人で焦ってても、どうしようもないって。みんなに話そうって思った」


 覚醒の目印は『赤い瞳』。最初はアンジェラさんだった。それから、ラザールお兄様、ベルさん、ミレ、エティ、ユリアって順で覚醒してる。

 つまり、これはもう間違いない。私達が、勇者候補だって。


「えっと……。じゃあ、魔王が復活してる……?」

「そう、いう、こと」

「そう、なんだ……。じゃあ、あの……」

「ベルさんの、思ってるとおりだと。あのフードの人は『運命の支配者デスティネ・ドミナシオン・ユマン』。三人を覚醒させる為に、行動した」

「なるほど……」


 ああ、疲れた。魔力が……。


「リ、リーナちゃん、大丈夫? 顔、青いよ……?」

「喋り過ぎて、魔力が……。疲れました」

「あっ、じゃあ、僕達はもう帰るね。怪我してるし、無理させちゃ駄目だよね。じゃあ、また明日。お休み」


 多分、みんなも整理したいんだろうね。だったら、このまま帰した方が良いに決まってる。引き止める必要もない。


「お休みなさい」




 次の日。その『素質』についてを整理したくて、みんなで紙に向かっていた。今のところ、分かってるのは……。


 私は……。死んでしまった身近な人は、両親だろう。『家族』。でも、あとは分からない。

 ラザールお兄様は『人の血』が苦手。これが赤いものだろう。能力は能力って言っていいのか分からないけれど『殺人』が一番それに近い。死んでしまったのは双子の妹リアナ。『家族』。

 アンジェラさんは剣、というか、『血塗られた剣』で、これが赤い物。制限されてた能力は『剣術』、死んでしまったのは『恋人』。

 ユリアは赤い物は『赤い髪』。死んでしまったのは親友……、いや、『恋人』か。制限された能力が分からない。

 ミレは『赤薔薇』。能力は『魔法』。死んでしまったのは弟、『家族』。

 ベルさんは『炎』。『瞬間移動』が使えなくなってた。死んでしまったのは両親、『家族』。

 エティは『夕焼け』。能力は『蘇生魔術』。死んでしまったのは『恋人』。


 みんな、その時の事を思い出しちゃって、泣きそうになりながらも、一生懸命話してくれて、こうやって書きだす事が出来た。強い、よね。ほんと。

 うーん、埋まってないのもあるけど、まあ極端に少ないのは私くらいで、みんな間違いなさそう。

 因みに、死んでしまった人なんだけど、身近な人というのが家族の事で、大好きな人というのが恋人だと思う。だからユリアも恋人にしとく。

 ……もうちょっと整理しよう。書きだしただけじゃ見づらい。表にしようか。名前、赤い物、能力、死んでしまった人で。


 私から。リーナ、不明、不明、家族。

 ラザール、人の血、殺人、家族。

 アンジェラ、血塗られた剣、剣術、恋人。

 ユリア、赤い髪、不明、恋人。

 ミレ、赤薔薇、魔法、家族。

 ベル、炎、瞬間移動、家族。

 エティ、夕焼け、蘇生魔術、恋人。


 ……なんで、私だけこんなに違うのかな。不安になるよ……。私だけ、勇者候補じゃない、とか? そんなの、やだよ……。

 私だけ違うなんて、嫌だ。違うよね、私も、みんなと一緒だよね? ねえ、誰か、肯定してよ……。

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