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第48話  赤魔族

 其処に居た人を見て、まあ、想像通りだったから別に驚きもしなかった。けれど。

 まず、最初に目に入ったのは、黒いローブを着た集団。顔はフードの陰に隠れて分からない。足元まである長いローブを纏った集団は、まさに、想像していた通り。

 だけれど。その集団が一斉にフードを取った時。私は声を挙げそうになった。


 みんな、この村の住人だったから。


 だって、そんなはず……。軽くパニックになる私を見ても、彼らは表情を変えなかった。予想通りなのか。

 未だ足には上手く力が入らない。今逃げるのは不可能。でも、逃げたい気持ちでいっぱいだ。恐怖を押さえつけることなんて出来るはずない。やられた事、一つ一つが思い出される。

 って言うか、私、なんでこの村の火を消そうと思ったんだろう。大好きな故郷、なんかじゃないのに。後悔したってもう遅い。魔力は返ってこない。


「リーナちゃん……。良かった、無事だったのね!」

(え……?)


 青い瞳と、キャラメルブロンドの長い髪を持つ女の子。嗚呼、嘘だ、嘘だ。

 『あの子』じゃないか。


 無事だった、なんてよく言える。『私、リーナちゃんの事好きなんかじゃないし』って言われた時、私がどれだけ傷ついたのか、分かってない。

 冷たい目で、私を見て。突き放す様に言ったの、よく覚えてる。忘れるはずがない。あれがなければ、村から逃げ出そうなんて思いもしなかった。

 まあ、その御蔭でラザールお兄様やみんなに会えたんだけどね。それでも……。まだ、傷跡、消えてない。


「とにかく、家に来て」

「……燃えてるじゃ、ないですか」

「こっちに村の別荘があるの。お茶出すよ」


 此処は、大人しく従う事にした。ってか、この状況じゃ、抗う事なんて、出来ないし。




 入れられたお茶に毒でも入っていたら困るから、一応レアに鑑定して貰った。彼らは、それを嫌がる事も無く見ていた。こういう事をされるのも、分かってたのかもしれない。

 まあ、まっすぐ歩く事も出来ない様な私を支えながらここまで連れて来てくれたんだし。お茶で殺そうとしないでも、もっと手っ取り早い方法があったのは事実。だからまあ、これは一応、程度。

 にしても、村、こんなに小さかったんだな。みんなが集まっても、一クラス分くらいしか居ない。


「まずは。私達の村の火を消してくれて、ありがとう」

「いえ」

「それで……。どうして、此処に?」


 私は一枚の手紙を取り出し、みんなに見せる。二日前貰ったもの。真っ赤な封筒の手紙だ。中から便箋を出して、テーブルの真ん中に置く。


「っ! これって、あの人の字じゃない!」

「知って、るんですね?」

「ええ……。ってことは、赤魔族ロートの事、知りに来たのね」


 赤魔族ロート。まあ、間違いじゃない。でも、私が知りたいのは、どちらかといえば『運命の支配者デスティネ・ドミナシオン・ユマン』だ。……どっちでもいいか。私は一つ頷いた。

 でも……。やっぱり、知ってるんだ。そして、彼らも、そう、なんだ。


「んー、まず、何処まで知ってるのか、教えてくれるかな?」


 私が知ってる事。赤魔族ロートが出来るまでと、『運命の支配者デスティネ・ドミナシオン・ユマン』の存在と何故出来たのか。あと……。『赤い記憶』か。

 そんな事を考えながら知っている事を全て言っていくと、ざわめきが起こる。なんでか。こんなに知識があるとは、思ってなかったんだろう。あのノートの事、知らないだろうし。


「わかった。じゃあ、知りたいのは何?」


 知りたい事。私達・・が何故『赤い記憶』の保持者に選ばれたのか。魔王とは一体誰なのか。あと……。私の両親の事と、この村の事だろう。

 そう言うと、ざわめきは増していく。耳が痛い。こういうの、苦手なんだ……。


「ああ、みんな静かにして。知りたい事は、わかった。でもね、全部に答える事は出来なそう」

「……何故?」

「禁忌が混じってる。あと、単純に知らない」

「じゃあ、言える事だけで良い。教えて、欲しい」


 彼女は頷く。と、急に立ち上がって言う。


「あっ、もしかして、リーナちゃん、私の名前知らないっけ?」

「……うん、知らない」

「ごめん、忘れてた。私、アレクシア」

「アレクシア」

「うん。じゃあ、答えられる事には答えていくね。まず……」


 アレクシアはちょっとだけ目を伏せて話し始めた。






 私は驚いて何も言えなかった。思っていたより、ずっと重くて、知っちゃいけない事だった。こんなこと知っても……。仕方ないから。

 私が俯くと、アレクシアは苦笑いをする。全部、想像通りだったらしい。

 まあとにかく……。謝らないと、かな。


「うん、まあ、そうだね。知りたくない事も、あったよね」

「ご……、ごめんな、さい」

「ん?」

「今まで……。誤解してた。謝らせて……」

「いやいや、誤解してくれてたなら願ったりかなったり。気にしないで」

「う、うん……」


 それでも……。謝らずには、いられない。まさかそんな事だったなんて思いもしなかった。眩暈を感じて目を瞑る。こんなの、誰にも言えない。


「でもね、その代わり。あとは、任せた」

「……」

「私達に出来るのは、リーナちゃんにこれを伝える所までだから」

「うん、わかった」


 今すぐ家に帰ろう。そうして、もう一度ノートを読み返すの。


「え、でも、もうこんな時間だよ? お昼食べて行きなよ」

「えっ? あ……」

「気付いてなかったんだ? もう、三時間も喋ってたんだよ。ね、お昼ごはんくらい、食べてこうよ」

「うん、分かった。あ、でも、何にも言ってこなかった……」


 すると、レアが伝えてくるというので、任せる事にした。一緒にお昼ごはんを食べる事にする。

 懐かしいな、この空気。この村の空気。そっか、確かに、白魔族ヴァイスとは違う。だからか。


「リーナちゃん、今は何処に?」

「ラザールお兄様の所に……」

「ラザールって、あのグリフィン? じゃあ丁度良かった」

「あと、アンジェラさんにミレ、ユリア、ベルさん、エティも同じパーティだよ」


 それを聞くなりアレクシアは笑いだした。ひとしきり笑い終わってから、涙を拭って言う。


「なんか、凄い強運じゃん! なるほどね、そう言う事」

「そう言えば、言ってなかったね」

「うん、聞いてない。はぁ、なるほど。だからあの人が」

「多分」


 まあ、多分というよりかは、絶対、だけど。言っても仕方ないし。

 久しぶりに食べた此処の料理は、グリフィン家で食べるものよりずっと粗末な物ではあるけれど、とても美味しかった。こういう、庶民の食事、懐かしい。

 そんな風に思ったら、思わず涙が零れた。


「えええっ、どうしたの?」

「なんか、色々、思い出しちゃった」

「え、あ、ご両親……。ごめんね」


 ふるふると首を振る。そう言えば、私、アレクシアとしか喋ってない。


「あ、あの、みなさんも……。すみません、誤解、してて」

「えっ、あっ、いえいえ。此方こそ、すみませんでした」


 うーん、なんか違うけど、なんだ? ……あぁ、そっか。


「ただいま……。私、村に、帰ってきました」

「! お帰り、リーナちゃん!」

「ありがとう」


 そう、これだ。私、まだ、ただいまって言ってなかった。帰ってきたのに。

 話を聞くまで、あんまり、此処が故郷だって思ってなかったからかもしれない。グリフィン家からも近いし。でも……。間違いなく、私は、此処で生まれて、育った。

 いろんな事が、あった。でも、全部理由を教えてくれたから。私はもう、大丈夫だ。




「お帰り、リーナちゃん」

「! ラザールお兄様。た、ただいま」

「なんか、機嫌良いね?」

「え? そ、そうでしょうか? そう、かも、しれません」

「? そう」


 さて。あとは私に任せて貰おう。その為に、情報を整理しないと。あとは、みんなに伝えるタイミングか。んー、今なら言える、って思った時がタイミング、かな。

 準備、しておかないと。強くなろう。あと……。私が覚醒しない事には、どうにもならないから。それも。まあ、基本運だけど。

 忙しくなるな。でも、嫌じゃない。こういう忙しいのは、気持ち良い事だから。


 みんなの為だ。私、ちゃんとやって見せるから!

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