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第44話  誘拐

「リーナ様っ! 助けてください!」

「エティ? そんなに慌ててどう……」

「姉様がっ! 姉様が誰かに攫われたって!」

「ノーラっ!?」


 九月のある日。ノーラが私の部屋に飛び込んで来て、こんなことを言うのだった。

 この事は、すぐにユリアに伝えられた。ユリアは話を聞くなり真っ青な顔で立ち上がり、ハッとしたようにその場に座る。多分、私の顔を見て、あの事、思い出したんだろう。

 あれから、ノーラとユリアが一緒にいたところ、一回も見てない。私のせいで……。二人とも、バラバラになっちゃった。

 ユリアの顔には、明らかに葛藤の色が浮かんでいた。迷ってるんだろう。ノーラと私、どっちを取るのか。


 こういう時、私がしてあげられるのは何?


「ユリア、良いよ」

「えっ?」

「私、もう、気にしてないよ。ノーラ、探しに行こ」

「っ! わかった」


 それを聞くと、エティはこれから家に行くから一緒に来て欲しいと言われた。怖いらしい。ずっとずっと、家に帰っていなかったから。

 エティは例の、恋人が自殺してしまって以来、家に帰って居ないのだそうだ。両親がエティの事を心配して、ちょっとでも気を紛らわせる事が出来るよう、奉公に出したのだそう。

 でも、多分違う。どうしていいのか、分からなかったんだろう。多分、パニックだったんだ。だから、縋る気持ちで、きっと……。

 まあ、ともかく。もしかしたら、みんな、変わってしまって居るかもしれない。それが怖いって。一緒に来てくれた方が安心するって。

 エティの気持ちは良く分かるから。一緒に行く事にした。




「エティ! 久しぶりね、元気だった?」

「お母様! お久しぶりです」

「ユリアちゃんにリーナちゃんも。取り敢えず、入ってくれる?」


 そう言えば、前回此処に来た時はドロシアさんにしか会ってないっけ。ノーラのお母さんに会うの、初めてだ。なんで名前知ってるのか分かんないけど。

 でも、エティ、大丈夫そう。来る前は怖いなんて言ってたのに、今は表情も多少柔らかくなったし。やっぱり、家族ってこういうものだよね。会うと安心する。一緒にいると、あったかい気持ちになれる。

 私には、こういう人、もう、居ないから……。


「リーナ?」

「えっ?」

「ううん……。一緒に居るから、ね」

「え……」

「寂しいよね。分かってる。だから、私、出来るだけ、一緒に居てあげる」

「ユリア……」

「こんなんじゃ、足りないよね、ごめんね。でも、お願い……。出来る事、何でもするから、そんな顔、しないでよ……」


 思わず泣きそうになっちゃった。ユリアって、本当に優しくて、いい子だから。勉強はあんまり得意じゃないけど、頭は良くって、こういう事に、とっても敏感な子だから。本当に、良い友達だ。

 私の髪をちょっとだけ撫でて、「ね?」と小さく囁く。私は頷いてから、前を向いてエティについていく。

 そう、本当に、良い子なの。だから……。

 ノーラの事で、ユリアがどれだけ大きなダメージを受けたか、私には、分からない。




「じゃあ、ドロシーが付いてたのに、ノーラ、攫われちゃったの……?」

「私の力不足です。申し訳、ございません……」

「ドロシアにも余るほどの相手だったのよ。向かった方向と目撃情報から合わせて、多分、火山に」


 空気は重い。ノーラのお母さんは虚ろな目をしているし、エティは両手をキュっと握りしめて泣きそうな表情。ユリアは俯いちゃったし、ドロシアさんは酷い怪我を負っていて、見てるだけで痛い。

 にしても、ちょっと驚いた。攫われた時、ノーラとドロシアさんはただ街を歩いていただけだったらしいのだから。

 ノーラは誰かに手を掴まれ、狭い路地に引き込まれた。ドロシアさんが追いかけたけれど、強力な攻撃魔法の雨に、手の打ちようがなかったらしい。

 不思議なのは。ノーラは結構強い呪術師だし、ドロシアさんもユリアが尊敬すると言っていたくらいだから、相当だろう。それなのに? どれだけ、強いんだろう。

 相手の情報は、黒いローブを被っていると言う事のみ。……ちょっと、嫌な予感がする。

 そんな私の思いには気付かず、ユリアは俯いたままポツと呟く。纏う魔力は、怒りに染まっている。私の一番苦手な、真っ赤な色した怒りの魔力。


「助けに、行くわ。絶対」

「ですが……。流石に危険です」

「じゃあ、私が、一緒に行く」


 私はそっとユリアの手を取る。驚いたように顔を上げたユリアに、私はちょっとだけ笑みを向ける。まだ、あんまり表情を作るのは得意じゃないから、ぎこちなかったかもしれないけれど。ごめんね、これが精いっぱい。

 多分だけど、私が行くって言えば、みんな、ついて来てくれる気がした。ラザールお兄様、アンジェラさん、ミレ、ベルさん。大好きなグリフィンのみんな。

 それに、おんなじパーティのユリアとエティがこんな状態なんだ、みんな、来てくれるよ。

 そんな事を伝えていくと。ユリアの瞳からは涙が零れ落ちた。


「ありがとう、リーナ」

「大丈夫、だよ。ユリア」

「うん……。大丈夫!」




 目的地のレベルは相当高い。生半可な気持ちで行くと、全滅するかもしれない。

 作戦を練って、準備を整え、出発はあれから二日後。ユリアはすぐにでも飛び出していきそうだったけれど、何とか止めた。そんなの、自殺行為だから。

 ユリアの気持ち、よく分かる。一刻を争う状況かもしれないし、そうじゃなくても、怖い思いしてるはず。早く救ってあげたいよね。でも、だからって私達が死んだら、何の意味も無いんだ。だから、ちゃんと、準備しないといけない。


「じゃあ、行こうか。いい? 凄く強いからね? ちょっとでも危険だと思ったらすぐ言って、下がって」

「絶対に危ない事はしないでください。助けようとして死んでしまっては意味がありません」

「分かってるわよ……。無茶するつもりはないわ。それ、全部私に向けて言ってるでしょ?」

「怖いんだよ、ユリア、何するか分かんない」

「大丈夫よ。ノーラを悲しませるような事、しないから」

「そう。……じゃ、行こう」


 結構高い山。それに、道はぐるぐると螺旋状だから、距離は高さよりずっとずっと長い。また、魔物も多く、その上強い。道幅も狭いから、戦いに夢中になって落ちたりしても危ない。この火山では命を落とす人が結構いる。

 並びは前からミレ、ラザールお兄様、アンジェラさん、ベル、エティ、私、最後にユリア。いつもとはちょっとだけ違う。

 確かに、魔物が多い。今のところ全部ミレが瞬殺してるけれど、何処かで疲れるかもしれない。そうしたら、ラザールお兄様と交換かな。

 あ、因みに、私の出番というのはまずない。付いて来ただけみたいだけど、仕方ない。私は、ユリアに行くって宣言しちゃったんだもん。もしかしたら、レアとかネージュとか召喚する事になるかもしれないけど。


 ちょっと道の広い所で休憩中。随分登ってきた気がするけれど、頂点は遥か上。何時到着するんだろう。遠くから見てた時は、こんな大きいなんて思ってなかった。


「暑い。山登って行って暑いってなかなか体験できないわね」

「この山、結構特殊だからね。しかも……。あ、言わない方がいかな」

「? 何よ」

「じ、実は……、噴火が近い」

「……、嘘でしょ?!」


 そんな危険な状態の山に登ってたの?!

 ああそうか、それで魔物が活性化してたんだ。って言うか、私たちが此処に居る時噴火したら、一体どんな事になるの?


「とにかく、噴火しない事を祈ろう!」

「対応策はないのね?」

「だってどうしようもないじゃないか。飛び下りる?」

「死ぬわよ」

「どっちにしろ一緒だって」

「そうだけどそうじゃないわ」


 結局、全部運か。神様が味方してくれる事を願おう。

 それより、一つもう問題が起こってる。はぁ、と小さく溜息を吐く。足が痛い。このままじゃ割とすぐに歩けなくなる。この足を恨むのは何度めだろう。

 恨んだって仕方ないのは分かっているけれど、こうやってみんなに迷惑を掛ける事になるのは嫌だから。恨まずにはいられない。


「リーナ、ごめんね」

「え?」

「足、痛いでしょ。辛いよね」

「え、いや、そうでもないよ?」


 ほら、こうやってまた嘘を吐く。こんな、騙せるはずのない嘘、何の意味も無いのに。

 そう、私は偽って、偽って。本当の自分を、隠してる。みんなに心配かけられなから、なんて言って……。嘘ばっかり。

 ユリア、ごめんね。私、一つ大きな嘘吐いちゃった。


 まだ、私、ノーラの事……。


「……、っえ?」

「リーナ軽い。あ、これくらいなら全然大丈夫だ」

「ユリア?」


 ユリアは私を抱き上げたままくるくると回る。幾ら軽いって言ったってそんな……。

 結構ごつごつして、凸凹の道を歩いて来た。こっからも多分そう。そんな道を、私を持ったまま歩くなんて、無理に決まってる。

 それに、いま私はユリアに対して罪悪感でいっぱいだ。更にこんなの……。流石に断……。


「何、私、結構力あるけど? 任せてよ」

「……うん」


 そんな顔されたら、断れるわけ、ない。ユリア、なんて悲しそうな……。私の足は、ユリアのせいじゃないのに。

 あぁ、大丈夫、かな……。心配な事、増えてく一方なんだけど……。

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