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第4話  アフタヌーンティー

「で。仲直り、出来たんですね?」

「えっ? あ、うん!」

「なら良かったです。リーナ様も、随分と機嫌よさげでしたし」

「あ、そうそう! それなんだけど!」

「?」


 僕はそっと溜息を吐く。リーナちゃんの機嫌、と言うか、表情について、かな。

 って言うのも。機嫌が良いのは、ほら、なんとなくわかるんだけどね。でも、笑ってはいなかったから。

 リーナちゃん、感情が少ないのか、感情が顔に出ないのか、どっちだか分かんないけど、とにかく常にポーカーフェイスなんだもん。どうしたら笑ってくれるのかな……。


「何か問題でもあるのですか?」

「う、え、ええと、リーナちゃんの笑顔が見たい」

「そういう事ですかぁ? じゃあ、諦めて下さい。無理に笑わせようって言ったって、そういう訳には行きません」

「う……。わ、分かってたよ、や、分かってる!」


 何にしろ、リーナちゃんが居るってこと、それだけで僕は嬉しいんだから。






 なんで、どうしてだろう。

 昨日のあの魔法だけれど、一切使える予感がしない。どんなに頑張っても、召喚魔法以外の魔法が使える感じはない。


(まあいい、か)


 其処で、ミアと遊んでいる少女を横目で見ながら思う。

 さっき、新しく召喚した少女。名前はティア。薄ら桃色の入った茶髪に、桃色の瞳、頭には猫耳、後ろからは尻尾が生えている。つまりは猫耳少女。し、正直に言うと、可愛くて当然だ、なんて思っちゃった……。


「リーナ様。どうかなさいました?」

(いや……。って、何考えてるのか、わかってるんじゃ)

「そうですけれど、でも、勝手に心を読むのも悪いですし」

(読まなかった事にする)

「そう、それです!」


 ティアは優しく微笑んだ。ミアとはまた、だいぶタイプが違う。優しくて面倒見が良いのが特徴だから。

 戦闘の時のタイプで言うなら、回復系。また攻撃できないや。

 でもまあ、ティアはいい子だし、この子が召喚出来て良かったと思ってる。


「ミア、お姉ちゃん欲しかったんだ! 嬉しい!」

「あら、私の事、お姉ちゃんだなんて……。ふふ、じゃあ、ミアが妹ですねぇ?」

「うん! ティアお姉ちゃん、大好き!」


 早速仲良くなったようでなにより。本を置いて立ちあがろうとしたところ、ノックの音が聞こえる。


「私です、アンジェラです。紅茶とお菓子の準備が出来ました」

「アフタヌーンティーですね。リーナ様が入っていいと仰っております」

「おかしっ!」


 アンジェラさんは、特別驚く様子も無く二人を見る。

 ミアはともかく、ティアは今初めて知ったはず。召喚したのは今だし、誰にも見せてない。

 それでも全く慌てないのは……。ちょっと尊敬する。


「大丈夫です。二人増えたところで問題はありません」

「やたっ!」

「ふふ、良かったですね、ミア」


 ぴょんぴょんと跳ねるミアを、ティアは微笑ましげに見つめる。

 ミアはニコッと笑うと、アンジェラさんに付いて部屋を飛び出した。




 向かったのはダイニング、だと思ってたんだけどそうじゃなくて、一面がガラスになっていて、庭が綺麗に見られる部屋だった。

 真ん中にはまるい、木で出来た白いテーブルがあって、椅子は全部で四つ。端にもう幾つかが置いてある。

 何となく、カフェのテラスなんかみたい……。屋内だけど。

 こんな部屋もあったんだな、なんて思っていたら、ラザールお兄様が声を掛けてきた。


「リーナちゃん、こっちおいで」


 ラザールお兄様が椅子を引き、私に座るよう促した。隣にミア、その隣にティアが座る。

 テーブルの真ん中を見るなり、ミアは嬉しそうに笑う。私もまた、その視線を辿ってみる。

 綺麗な白に、金の縁取りがある食器の上に、綺麗なお菓子が乗っている。


「ほら、ミアちゃんも、ええと……、君も、遠慮なんてしないで良いよ」

「あら、自己紹介が遅れましたね。私、ティアです」

「ティアちゃんか。新しいリーナちゃんの使い魔だね。僕はラザール。よろしくね」


 ラザールお兄様も、特に驚く様子はない。本当は驚いたかもしれないけれど、至って普通の反応を返す。だけど、ちょっと慌てたように、ラザールお兄様とティアの間にもうひとつ椅子を持って来たけれど。

 アンジェラさんが、綺麗なカップに紅茶を注ぐ。ふわりと上がる湯気に、ティアは静かに目を細める。夏だけど、この部屋は少し寒い。温かい飲み物、美味しそう。


「では、リーナ様も、ミア様にティア様も、ごゆっくり」


 そう言って、アンジェラさんは一礼し、部屋を出て行こうとする。

 と、ラザールお兄様が慌てて呼び止めた。


「ええっ?! 待って、アンジェラ、君も此処に居てよ」

「いえ、そういう訳にもいかないでしょう?」

「……。何のために、わざわざ僕が五個目の椅子を準備したのか、分かってる?」

「……。仕方ありませんね」


 アンジェラさんは空いていた、ラザールお兄様とティアの間に座る。

 ティアはアンジェラさんが座ったのを見てから、にこりと微笑む。返すように、アンジェラさんは小さくお辞儀。それから、黙って自分のカップに紅茶を注いだ。


 私は、もう一度視線を真ん中のお皿に向ける。何が乗ってるのか、確認しようと思って。

 ココアクッキーとチョコレートケーキ。それから、スコーン、フルーツケーキにフルーツタルト。

 どれも小さくて、一口サイズ。凄く可愛い。特に、タルトなんて宝石みたい。


「ん、このクッキーおいしい!」

「あら、本当……。これを作ったのは、どなたなのでしょう?」

「では、後で此処のスティルルームメイドを紹介いたしましょう」


 そんな会話を聞きつ、私は、誰がどんなお菓子を食べるのかを観察していた、お菓子は結構、性格が出る、なんて、昔、お母さんに言われた事があるから。

 まあ、お茶会なんて、数えるほど位しかやった事ないんだけど……。まあ、ともかく。自然に人を観察する様になってた。


 ラザール様は甘党。紅茶はミルクたっぷりミルクティー。甘いものばっかり選んで食べてるし……。分かりやすい。

 ミアは、こう見えて結構苦い物とか食べるみたい。ミアが気に入ったらしいココアクッキーは、結構苦め。紅茶はストレートで飲んでる。

 ティアは、どちらかと言えば、だけど、甘い方が好きみたい。まあ、基本的には普通、ってところ?

 私? まあ、あまり甘いものは得意ではない……、かな? 食べれないほどじゃないけど、好き好んでは食べないかな。

 周りを見回しながら、昔お母さんに教えて貰った情報と照らし合わせて行く。


「よく食べられるね、ミアちゃんも、リーナちゃんも」

「? 何を?」

「チョコレートケーキも、ココアクッキーも、苦くないの?」

「ん、でも、美味しいよ?」

「そう……。そう、か」


 美味しい紅茶に、私はそっと息を吐く。

 紅茶一つにとっても美味しいんだから。何も侮れない。あ、入れ方も上手いのかな……。

 とにかく、此処の紅茶が気に入った。


「ラザール様は、甘い方が好きなんだ?」

「え、あ、う、うん、美味しいでしょ?」

「う、うーん……。もうちょっと甘くない方が好き、かな?」

「えー……」

「でも、好みもあるよね! 美味しいもの食べるのが一番だもん」

「あ、そ、そうだね!」


 ミア……。無自覚なんだろうけど、上手い具合に操ってるね……。

 その後も楽しい談笑をして(私は聞くだけだけど)、お菓子がなくなった頃に終了になった。

 ミアとティアはちょっと私が疲れてきたので帰して。長い時間だと、やっぱちょっと疲れる。




 自分の部屋に戻ってから。私はすぐに本を開く。そうでもしないと、一人だから。

 さっき魔力を使い過ぎて、ちょっと待たないと召喚出来ない。だから、必然的に、一人になるわけで……。

 ゾクッとするんだ。フラッシュバックする、あの映像。処刑のシーン。

 なんで処刑されたのか、いまだに分からない。一体、あの優しい二人が、何をしたって言うんだろう。でも、多分、私のせい……。

 唯一の心の拠り所だったの。一体、誰をその代わりにすればいいの……?


 つい数日前までは、居たの。私にも、友達と呼べるような子が。

 でも、全部、全部嘘だった……。

 あの子に、私は踊らされてるだけだった。

 だって、二人を殺した村長の娘なんだもん。

 あの子、村長に言われて、私を上手く操ってたの……。


 そうやって、上手く操って、少しずつあの子に縋るようになって、そんなときに、酷い裏切られ方をした。

 私、村に居場所は、もう、なかった。みんなが敵。誰も味方なんていなかった。

 みんなが、武器を構えて私に襲い掛かってくる。……かも、知れない。


 一体、私は何のために生まれたんだろう。

 一体、私は何をするのが正解なんだろう。


 私の事を見てくれる人なんて、居なかった。

 私の事は、私が守るしかないって気付いた。

 誰一人として、頼る事は出来ない。


 そんなときに、救いの手を差し伸べてくれたのが、ラザールお兄様だったから。だから、縋ってる、の、かな?

 唯一、私の事を、見てくれたから。あの子と同じでも、もう良いよ。少しでも、一緒に居て。笑いかけて。今だけでも、幸せにして。

 誰も、信用できない状況で、助けてくれた。私に優しくしてくれる。……あの子と、一緒だ。


 だけど、ラザールお兄様は、違う。何となく、そんな感じがする。

 そして、此処では。みんなが、私に優しくしてくれる。守ってくれる。

 きっと、此処が私の居場所なんだ。みんなの事、大好き。


 でも、それでもまだ消えない恐怖は、一体何?


 真っ赤な鮮血の色が、頭から離れない。

 鋭い視線が、殺意が、頭から離れない。

 裏切られた時の事が、頭から離れない。


 そういう時、私はベッドに体を預ける。そう、今みたいに。小さく息を吐き、無意識に、額に手を当てる。

 眠ったら眠ったで、怖い夢を見る事は目に見えてる。それでも、こうやって、怖い時に眠ろうとするのは……。


 起きたらみんな夢でした、なんて言うのを、期待してるからかもしれない。

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