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第2話  召喚魔法

 お父さんも、お母さんも。

 私の目の前で、殺された。

 どうして、殺されなくちゃいけなの?

 分かんないよ、どうして、どうして……っ?!


 私の両親の職業は、はっきり言って『変』だった。とはいっても、私もよく分からないのだけれど……。詳しい事は、何も教えてくれなかったから。

 外に出るときは黒いローブを被っているし……。私、黒いローブが好きじゃなくて。嫌だって駄々こねて、桃色のローブを着せられてたっけ。それでも嫌だったけど……。仕方なかったから。小さかったけど、困った顔の親に、渋々着る事にしたんだったはず。


 家の中では、ローブも脱いで、みんなで笑い合う。そう、この時はまだ、私、喋れてたから……。みんなでお喋りをして、笑って……。

 私の親は、二人とも、とても頭が良い人だった。いつも、色々な勉強を教えてくれた。学ぶ事は嫌いじゃない。色々な国の言葉に、難しい計算。この国、この世界の歴史に、植物や魔物の事。魔法とか、武術は、危ないって、それに、私、足が悪いのもあるから、やった事ない。でも、そんなの、どうでもよかった。教えてくれる事を学ぶ。それでだけで、楽しかった。


 いつからだったかな。外に出ると、囁かれる事に気が付いたのは。子供達に、土を投げられたりするようになったのは。

 でも、出来るだけ気にしない様にしてた。お父さんも、お母さんも、優しい人だから。悪い人なんかじゃ、ない、から……。だから、私が我慢すれば、何も起こらないはずなの。今の生活を、壊したくない。


 もし、二人が知ったら、自分たちを犠牲にしてでも、私を守ろうとする。

 嫌だ。二人が居なくなったら嫌だ。

 そうならない為には、どうすれば?

 私が我慢すれば、いいの。そう、私が、私が……。


 自分がコワレテいくのに、気付けない。


 だから、二人が何をやっているのか、気付けなかったのかもしれない。

 気付いた時には、もう遅かった。家の中に沢山の人が入って来て、二人を連れて行ってしまった。私の手の届かない所に、連れて行かれてしまった。


 真っ暗な牢屋の中に入れられたと聞いた。

 仕方のない事だと言われていると聞いた。

 二人が、死刑にされると聞いた。


 なんで、なんで処刑されなくちゃいけないって言うの?!

 一体、何が悪いっていうの……ッ!


 叫び声は、誰にも届かなかった。

 スゥッと空に溶ける様に消えて行って、それ以降、私の口から言葉が出る事はなくなった。


 私は、壊れていた。

 笑顔が消えて。言葉も減って。

 自分がそんな風になっている事すらも、知らなくて。

 二人は、そんな私を守るために……。


 私ノセイデ、処刑サレタ?


 もう遅い。今から何を思っても、二人が帰ってくる訳はない。でも、思わずにはいられない。

 もし、私がいつも通りだったら、二人は今でも此処に居たの? 私のせいだ。私を守る為に。二人は。きっと。


 益々壊れていく事に、気がつけないのは、どうしてだろう?


 そんな、弱みに付け込まれた事。今だったら、分かるけど。あの時は、分からなかった。


 唯一味方をしてくれていた『あの子』に裏切られた時。私は、村から出ることを決めた。






「……っ!」


 汗の雫が、肌を伝ってベッドに落ちる。荒い息と早い鼓動を押さえつけようと、胸に手を当てて深呼吸をしてみる。

 怖い夢を見るくらいなら、寝たくない。でも、そういう訳にもいかないから。なんでこんなに辛いんだろう。こんなの、嫌だ……。


「リーナちゃん?!」

(ラザール、お兄、様)

「どうしたの?! ……大丈夫?」


 涙なんか、見られたくない。きつく目を閉じる。でも、それでも、止める事は出来なくて……。

 ラザールお兄様は、震える私を、黙って抱きしめてくれた。




「落ちついた、かな」


 小さく頷くと、ラザールお兄様は私から手を離す。ずっと触れていたいと思うような温もりを持ったラザールお兄様は、何となく、両親を思い出させるところがある。

 もし、魔法が使えたら、あの時、二人を助けられたの?

 もし、ラザールお兄様くらい強ければ、二人を助けられたの?


(強く、なりたい)


 今よりも、ずっと、ずっと。強くなりたい。

 そうしたら、もう、大切な人が殺されるのを、見なくて済むはずだから。






「ねえ、アンジェラ」

「はい、どうされましたか、ラザール様」

「リーナちゃんが……」

「なるほど、だいたい分かりました」

「う、嘘だ! まだ何も言ってないよ」


 私、アンジェラは小さなステッキをメイド服の中に忍ばせると、くるりと後ろを向いてラザール様を見る。

 怖い夢でも見て泣いていた? まあ、だいたいそんな感じだろう。リーナ様は、随分怖い目にあって、此処まで逃げてきたようだから。


「リーナちゃんって、表情がないから……。心配」

「ああ、そうですねぇ」

「家族、居ないんだよね。僕と一緒。独りぼっち」

「でしょう、ね」

「だから、一緒に居たいと思ったんだよ。一緒だから」

「……はい」

「でもさ。リーナちゃんは、僕の事。どう、思ってるのかな……」


 ラザール様の、綺麗な淡い桃色の瞳が、微かに揺れた。






 悪夢を見る。

 何度も、何度も、二人が殺された時の夢を見る。

 眠るのが怖い。でも、真っ暗な中に居るのも、怖い。

 寝ても、寝なくても、怖くて。もう、どうするのが正解か分かんないよ……。


 悪夢を見て、真夜中に跳び起きて。

 頭痛と吐き気に襲われて、明るくなるまで蹲って。

 何もかもが怖くて、いっそのこと死んじゃおうかって、でも、それも怖くって、出来なくて……。結局、泣き明かして。


 いつもいつも。結局、まともに眠ることができない。もう嫌だ……。誰かに、助けてほしいけど……。それは駄目。だって、迷惑を掛けちゃいけないもの。私が我慢すれば、みんな、何とかなったのに。

 だから、今度は。誰にも迷惑はかけない。


 ラザールお兄様、驚いた、かな。私はベッドに横になる。今日は随分と気分が悪い。良い日の方が少ないくらいなんだけど、今日はいつも増して悪い。

 やっぱり、曇っているから、かな……。空がどんよりとしていたら、やっぱり気分は晴れない。


(弱い、な)


 一人じゃ嫌だ、なんて、お子様じゃないんだから……。そうは思っているのだけれど。

 この場に、もう、誰だっていい。来て欲しかった。隣に寄り添って、何もしなくても良いから、其処に居るだけで、良いから……。

 震える手で、顔を覆う。嗚呼、何もかもが怖くて堪らない。


 誰でもいいから、此処に来て……!


「召喚、ありがとう! ご主人さま」

(え……?)


 キラリ、と、何もないところが光ったかと思うと、其処には一人の女の子。

 茶色の髪をツインテールに纏め、白とピンク色の、フリルとリボンが沢山付いた可愛らしい服を着ている。でも、緑色の瞳は、何だか、覇気がないような気がする。

 そんな瞳でにこりと笑うと、私の手を取って顔を覗き込んできた。


「ミアだよ、よろしくね」

(ミア……?)

「うん! よろしくね、ええと、リーナさま、だね!」


 そうか、これ、召喚魔法。人型悪魔を呼びだしちゃったんだ。

 魔法は、魔力によって使う事が出来る。魔力は無限の可能性を秘めていて、術者しだいで、何でも出来る。

 その魔力を動かすのは、『願い』の力。

 今、私は、本気で願った。誰か来て、って。

 呪文って、本気で願う為の『手助け』だから、なくてもよかったんだね。

 でも、呪文無しで魔力を動かすほど本気で願える人なんて、そうそう居ないと思うんだけどね……。


「ああ、わかってるよ。召喚したかったわけじゃないんでしょ? でも、来ちゃった以上契約は絶対でね?」

(え、あ、うん……?)


 ミアはそういうと、そっと目を閉じた。自分の右と左、両方の掌を近づけて、その上に光の球を作る。

 何かを呟くと、その光は私に近づく。そうして、光が私を覆ってしまうと……。ミアは呪文を唱えながら、右足を軸にしてくるりと一回、『空中』で回った。

 その瞬間、私を包んでいた光はパッと弾け、全て消え去っていった。


「よし。じゃあ、名前呼んでくれたら、すぐかけつけるよ」

(え、でも、どうやって……)

「ミアたち使い魔は、ご主人様の心が読めるんだ。だから、心の中で思ってくれればいいよ」

(そう、なんだ。よろしくね)

「うん、よろしく!」


 その時、コンコン、と言うノックの音がした。


「リーナちゃん、お昼ご飯の時間だよ」


 その時には、もうミアは居なくなっていた。

 随分早い帰りだな、と思いつつ、私はドアノブに手を開けた。




「あ、そうだ。リーナ様、書斎、見てみます?」

(書斎……)

うちの書斎、大きいんですよ」

(……。行って、見よう、かな)


 二人で廊下を歩く。ラザールお兄様は、さっき出掛けてしまっていない。何をやってるのか知らないけど……。居ないのは、寂しいな。それに気付いたから、アンジェラさんは、誘ってくれたのかな?

 扉の前に来ると、アンジェラさんは沢山の鍵が付いた束を取り出す。その中から、一つ、アンティークものみたいな、銅色をした鍵を選ぶ。良く見てみれば、みんなおんなじような色をしてる。形も大して変わらない。

 鍵穴に差し、回すと、カチッと良い音がした。タグも付いていないのに、よく分かるなぁ。


「さ、どうぞ」


 仲に入って、私は驚いて立ち止まる事になった。凄く大きい。図書館みたい。

 棚にはぎっしりと本が詰まっている。でも、届きにくくならない様にか、本棚の高さはあまり高くない。で、でも、私じゃ一番上は届かなそう。正面にはまっすぐ伸びた階段があって、二階がある。そっちにも沢山の本があるみたい。

 ちょっとだけ埃っぽいこの空気、嫌いじゃない。こんな書斎、憧れてた。


「二階まであるなんて、凄いでしょう? 私も、初めて入った時は驚きました」

(す、凄い……)

「色々な種類の本がありますから、是非、読んでみてください。なんなら、部屋に持って行きますか?」


 私が頷くと、アンジェラさんは「ならそうしましょう」と微笑んだ。その後、アンジェラさんは本を見に歩いて行ってしまったので、私も本を探す事にした。折角来たんだから。

 ええと、此処は魔法の呪文書。一冊、手に取って開いてみたはいいけれど、読めない文字は並んでいるし、呪文は唱えられないんだもん、意味がない。すぐに棚に戻した。

 さて、次。これは、武術の教本。剣術、槍術、短剣術……。とにかく沢山ある。その中でも、割と新しいものが一つ。『魔法剣士入門』だったけれど、それってなんだろう……?

 で、その隣が魔法の教本だった。様々な種類の魔法が並んでいる。


(あ、これ)


 『召喚魔術入門』。入門と言っても、もう召喚まで終わっちゃってるんだけど……。まあ、良いよね。それと、『魔法の基本』も一応。欲張りかな、他の魔法も、出来れば使ってみたいって思ってる。

 その後も、魔物についての本だったり、錬金についての本だったり、興味のあるものを幾つか手に取って机に並べてみた。これ位なら、持っていけないほどじゃないかな。そう思って重ねていると、丁度、向こうからアンジェラさんが来たところだった。頭に埃乗ってる。


「あ……。魔法、やってみたいのですか?」


 私が少し頷くと、アンジェラさんは微笑んで、自分の持っていた数冊の本を、私が机に置いていた本を重ねて持った。


(あっ……)

「気にしないでください。私、力仕事は得意なんですよ?」


 アンジェラさんが笑顔でそういうので、黙って任せておいた。私は力の方の自信は全くないし……。

 ただ。アンジェラさんの手は塞がるわけで。私は見分けがつくはずもなく。鍵が閉められなくなってしまったのは、まあ、言うまでも無いか。

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