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第10話  クラス分け

 一カ月なんて、本当にあっという間だった。

 それもこれも、何をするでもなく過ごしていた時と違って、忙しくも楽しい日ばかりだったからかな。

 さて、もう八月の終わり。私は真新しい制服に身を包み、玄関に立っていた。

 白が基調で、セーラー襟のブラウスに、プリーツのないスカート。白いオーバーニーとローファー。色々なところに、二年生の学年色らしい。桃色の線が入っている。

 着慣れない制服に、ちょっと重い鞄。緊張は高まっていく一方なんだけど……。大丈夫かな。


「似合ってるよ、リーナちゃん」


 ラザールお兄様はそういってくれたけれど、だからって何かが変わるわけでもなくて。

 そんな風に、いろんな意味でドキドキしながら、玄関の前に立っていた。

 あ、なんでこんなことをしているかと言うと、通学が馬車で、それを待っていると言う訳。なんか色々あったみたいで遅れてるんだよね。早くして欲しい。

 と言うか、まず、馬車で通学って……。どんなお金持なの……。


 と、カポカポと蹄の音が聞こえてくる。あっ、向こうから真っ白な馬が歩いて来てる!あまりにも綺麗なその馬に茫然としていると、目の前に大きな扉が止まる。

 エスコートする様にラザールお兄様が扉を開け、私の手を取る。

 椅子に座ると、馬車はゆっくりと動き出した。中は結構涼しい。揺れも少ないし、酔う事もなさそう。

 窓の外を眺めていると、急に左側の髪が少し持ち上げられた。少し驚いて目だけ動かしてみると、ラザールお兄様が何かやってるみたい。


「ほら。どうかな」


 ラザールお兄様は、私に鏡を向ける。

 中を覗いてみると、左側の髪が、大きな桃色のリボンで結われていた。サイドアップとか言う?


「それから、これ」


 そういうと、ラザールお兄様は私に顔を近づけた。何かと思ったら手にはペンダント。これを付けようとしてるみたい。

 ペンダントには、面の形が三角形をした八面体の、赤い、少し大きな石が付いている。

 それを、さっきの鏡で眺めてみる。制服にギリギリ隠れるか隠れないか。


「少し、魔力を注ぎ込んでみて」


 言われた通りにしてみる。この夏休みの期間で、魔力の使い方はだいぶ上手になったんだ。だから、これくらいは簡単。

 でも、なんでそんな事を? ペンダントに一体何が?


「これで、合ってる、かな?」

「あっ! 良かったぁ」

「え……?」


 ラザールお兄様が嬉しそうな顔をする。

 それに、思わず声を出して、それで気が付く。


「えっ?! 声が……」

「そう。それは、魔力によって声を出す為の物。でも、凄く魔力使うから気を付けてね?」


 鏡の中の私の頬が、ほんの少しだけ、紅潮する。そんなものがあるなんて、知らなかった。魔道具って、凄い……。

 それと、ラザールお兄様からの贈り物だって気付いたのもあるんだけど……。

 ラザールお兄様は、少し照れたように私のクリーム色の髪を弄ぶ。


「あ、あの……。そんなに、心配しないでね? リーナちゃんなら、大丈夫」

「はい……。ありがとう、ございます」

「うん。あ、え、えと、頑張ろうね!」


 ラザールお兄様の頬が赤くなる。恥ずかしいのか、少しだけ俯いて。

 何故だかわからないけれど、とにかくそれが嬉しかった。




 今日はまだ学校は始まってない。明日から。じゃあなんで来たのかって言うと、私が試験を受けるから。ラザールお兄様は、どうしても一緒に行きたいって言って……。心配性だから。

 入るだけだったらまあ、お金積めば誰でも入れる。だから、これは入試じゃなくて、クラス分け用のテスト。

 この日の為に、私はどれだけ勉強した事か。


『今日から勉強を教えさせていただくミネルヴァです。ラザール様の専属家庭教師だけれど、今日からは二人を教える事になりました』


 そう言って、長い茶髪の女性は頭を下げた。赤縁の眼鏡をかけた人だ。

 ラザールお兄様は今Bクラスに居る。私は、何が何でも同じクラスに入りたかった。

 だから、勉強を教えて貰う事になった。


 此処では、学力と戦闘能力を点数化し、上からA、B、とクラスを分けられていく。因みに、全部で十二クラス、Lまである。

 で、学年とクラス、名前の書かれたバッジが貰えるんだけど、これは『ブランド』になる。

 つまり、上のクラスのバッジを持っているだけで、何かと優遇されたり、みたいな感じだ。


 勉強だけじゃない、戦闘についても教えて貰った。それは、ラザールお兄様に。短剣の使い方を一から習った。

 だって、戦闘能力もクラス分けに重要だから。


 そういう事で、先生に連れられ、テストを受ける。

 すらすら解けて楽しい。勉強はもともと、嫌いじゃない。お母さんに教えてもらの、楽しかったから。

 時間はどの教科も余るくらいだった。と言う事で、特に問題も無く全部終わって、問題の戦闘試験に移ることとなった。


 戦闘試験は、ある魔法道具で行う。

 それは疑似戦闘が出来るもの。魔法道具、と言っても部屋なんだけど、その中に入った人は、『実際は存在しない』魔物と戦える。実際は居ないから、死ぬ事はない。でも、傷は受ける。

 なんだか変わってるけど、中に入って戦う方は本当に其処に魔物がいる様に感じるし、傷を負えば痛い。

 また、モニターで魔物との戦闘の様子が見れるから先生はそれで点数を付ける。

 この試験のルールは簡単。現れた魔物を倒すだけ。武器、防具の持ち込みは二本まで可能。だけど、服装は制服。魔法は全て使用可能。それがどんな魔法だったとしても。

 レベルは1~50まであるらしい。あ、でも、50は本当に倒せないって聞いてる。

 それで、何処まで倒せたかをメイン、其処に、戦闘の様子などで加点を入れる。

 全部と戦わないでもいい、つまり、飛ばしても良いんだけれど、倒せなかったら、その前に倒したのが試験の結果になっちゃうから、それだけ注意。


 そんな説明を受け、私は部屋の中に入ってみる。思っていたより、ずっと広い。

 と、正面にあるスピーカーから先生の声が聞こえる。


「もうちょっと進んで貰える? うん、其処。まずは一番弱い魔物からで良いのかしら?」


 私が頷くと、何か機械を操る音がする。

 それから、カウントダウンの音が聞こえる。それが、零になった時。

 激しく目の前が光り出した。

 そうして現れた魔物は、兎の様な魔物、ハーゼ……じゃ、ない?

 色が反転してる。これもハーゼ、なのかな?

 ともかく、最弱の魔物。大丈夫、倒せる。


 ラザールお兄様から貰った短剣を握り締める。柄に、少しだけ装飾の入った剣。でも、それも控えめで、初心者用だけど、私にはこれくらいが良い。

 手入れの仕方もちゃんと教わって、ちゃんとやっていたから、刃はキラキラと光っている。

 それをギュッと握りしめ、ハーゼに向かう。

 飛びかかってきたハーゼを軽く避け、短剣で突く。

 その動きに、躊躇いはもうない。最初こそ、魔物が倒せなくて、苦労したものだ。

 だって、刺せば血が出る。それが、怖かった。血は、私の親の事を、一番強く思い出させるものだから。

 最初、倒した時。眩暈と少しの恐ろしさを覚えた。でも、思った。生き物を殺すって、こういう事。それに見合う生き方をすればいいんだ、って。

 沢山練習を重ねて、今ではもう大丈夫。私は、この道を選んだんだから!


「まあ、これくらいは問題ないわよね。次、どうする?」

「レベル3で、お願い、します」


 この空間の不思議なところは、殺した魔物が跡形もなく消え去ってしまう事。スカートに掛かった血さえもなくなった。

 あと、負った傷も、部屋を出ればすべてなかった事になるんだから凄いよね……。

 さて、また、さっきと同じ光が現れる。今度の魔物は?

 牙をむき出しにした猫。こんな色は知らないけど、でも。


(ルクス)


 会った事はないけど、図鑑で散々見てる。まあ、さっきのハーゼに比べれば、いくらか強いかな。

 柔かい体を持つから、凄いジャンプ力を誇る。避けるのはちょっと大変だから、出来るだけ早く勝負を付けよう。

 これも、短剣だけで倒す事が出来た。


 次は、少し飛んでレベル10にする。


「え、大丈夫?」

「はい」


 ハーゼ、ルクスと戦って、どのくらいのレベルでどのくらいの魔物が出るのか、だいたい想像が付くから。

 今度は、蜥蜴の魔物、アイデクセ。火の息を吹いたりするから、近づいたら危ない。

 だったら、短剣しか持たない私に勝ち目はない。

 私はそっと息を吸うと、心の中で名前を呼ぶ。


(ネージュ、おいで)


 現れた、私の可愛い白い虎。尻尾がいつもより太くなっているのは、戦う前だからだね。

 大きさは圧倒的に差があるんだけど……。的が大きいって言うのもあるんだよね。どうかな。

 流石はレベル10、簡単には倒せないみたいで、ネージュも苦戦中。だったら。


(ミア、ティア、お願い)


「はーい!

「任せて下さい」


 ティアがネージュに治癒魔法を施し、ミアは補助魔法を掛ける。

 ミアの魔法により、ネージュの体毛がキラキラと光る。いかにも強そう。あ、いや、ネージュは女の子なんだけどね。

 それはともかく、格段に動きが早くなった。これならいける。

 状況を見て、命令を出していく。頭の中で思うだけで読んでくれるんだもん、言葉で言うよりよっぽど楽。だって、思ってる通りに動いてくれてるよ。


 思ってたよりアイデクセは強かった。結構ギリギリだったんだけど、何とか倒せた。

 レベル10なら大丈夫だと思ってたんだよね。ちょっと思ってたより強くって慌てたけど、でも大丈夫だった。


「ええと、次は……」

「これで、終わりにします」

「そうですね。分かりました」


 ネージュもミアもティアも、みんな、結構消耗してる。これ以上の戦闘は厳しい。

 わざわざ無理をさせても、いい事ないもん。


「では、結果は明日、お伝えします。朝来たら、職員室にお願いします」

「分かりました」


 あぁ、大丈夫かな。ラザールお兄様と、おんなじクラスになりたい!

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