狂いはじめるミサ
ミサ視点になります
6畳半の部屋でごろごろとしている少年が一人。この少年の名をミサという。少女めいた名前とふさわしい容貌をもつミサは、幼なじみの少女を待っていた。
毎年恒例の花火大会。
今回の花火大会を期に幼なじみから、一気に恋人へと昇格するためどきどきしながら待っていた。
「朝日ちゃん、僕ずっと君のことが!」
うわ~!!と照れながら枕に顔をうずめる。異性として認識されてないことはわかっていた。でも、今回の告白で男として見てもらうんだ!!ミサの野望は高く、すでに結婚式の妄想までしていた。
「それにしても遅いな…」
もう出ないと、花火大会が始まるまでに着けない。それに時間には正確な朝日が遅れるなんて珍しかった。
「寝てるのかな? 」
朝日の家に面している部屋の窓を何の気なしに開け、声をあげようとした瞬間。背中に唐突におぞけが走った。
“さよなら、ごめんね”
「朝日ちゃん!?」
ベッドから飛び降りると階段をかけ下り、靴をはく時間も惜しくて靴下で駆け出す。チャイムを鳴らすこともなく、玄関の扉を開けると違和感を感じた。
酷い胸騒ぎと人の存在感の無さに、ミサはノックさえせずに
いつものように、もうノックくらいしてよ!という朝日の言葉を欲しくて。
「朝日…ちゃん? 」
物心ついた頃にはすでに隣にいた少女。たった一人の幼なじみ。大好きで大切で守りたいって、大人になっても一緒にいるものだと思っていた少女が…
いましがたまでいたのだろう。飲みかけの口の開いたペットボトルの水滴がぴちゃんと落ちた。
それから数日後。
お金も服も靴さえも、何一つ持たずに消えた朝日を、人々は神隠しだと言った。朝日の両親は元々子供への関心が薄かったせいもあってか、捜索は警察に任せてどうせ家出だろうというスタンスを守っていた。
ミサにはわかっていた。朝日が誰かに奪われてしまったのだと。その誰かを捕まえて、これ以上ないってくらい後悔させて朝日を取り戻すことを決めたミサは、小さな鞄に自分の全財産を詰め込むと、家を出た。幸いなことにミサの両親もまた、ミサに対して関心が薄く、いなくなったとしても騒ぎ立てることはないだろうと踏んでのことだった。
下手な少女達よりも、余程美少女めいたミサをいつも守ってくれていた朝日。次はミサが朝日を救う番なのだ。
「朝日ちゃんが側にいないなんて耐えられないよ!朝日ちゃん朝日ちゃん朝日ちゃん朝日ちゃん朝日ちゃん朝日ちゃん朝日ちゃん朝日ちゃん朝日ちゃん朝日ちゃん朝日ちゃん朝日ちゃん」
無表情なまま、外へと飛び出したミサは、黒い影を追いかけて走り出した。まるで何か見えないものを見つけたように。