シュート
おそらく、次回が最終回です。この物語、実はある歌から思いついた物語です。この物語のタイトルを見れば、分かる方には分かると思います。
ちなみに、今日の私は、「あーあ。世の中って厳しいな。」と思っています。本当に、リアルタイムの話で申し訳ありません。「誰か励ましてくれぇい!」と叫びたい気持ちでいっぱいです。
こんなこと書かれても、困りますよね・・・。すいません。そのくらい、ショックなことがあったんです。大目に見てください。
炭酸飲料を失ったが、俺は新しい飲み物を買おうとはしなかった。顔にへばりついた砂糖を含む液体をハンカチで拭う。水で顔を洗ったときのような清々しさと涼しさ、爽快さはない。炭酸飲料では顔を洗えない。それが分かっただけでも120円の価値はある。そう思い込むことにする。
「先輩。仕事、まだいいんっすか?」
タカシは缶を完全に開け、炭酸が抜けきった飲料をこれまたチビチビと飲んでいる。
「ああ。まだいいんだ。時間じゃない。タカシはいいのか?」
「僕もまだまだいいっすよ。まだ朝っすから。」
そう言い終わると、タカシは缶を空にする。両手を上に構え、3メートルほど離れたゴミ箱に狙いを定める。タカシが缶を放り投げる。空き缶は一定の速度で回転しながらきれいな放物線を描き、きれいに地面に落ちる。ゴミ箱の手前1メートル。「あちゃー。」とタカシが悔しがる。
「先輩。俺の敵をとってくださいよ。」
俺は戸惑う。しかし、タカシの純粋無垢な顔を見ていると無下にも断れない。俺は缶にわずかに残った液体を飲みほし、ベンチから立ち上がる。
ゴミ箱からの距離を目で測る。やはり、3メートル位だろう。俺は何度も頭の中でシミュレーションをする。
2、3歩退く。1歩、2歩と順々に足を出し、徐々に加速する。4歩ぐらい助走をつけると、俺は右足に力を入れ、飛び上がる。飛び上がると同時に、右手を後ろに引く。最近、脂肪がついてきた身体ではあったが、頭で考えたくらいには高く飛べた。瞬時に狙いをつける。狙いがつくと同時に、右腕を思い切り、振る。
耳元で風が鳴る。缶は回転することなく、まっすぐ、ゴミ箱に向かって落下する。俺は足を曲げて着地する。地面からの抗力が足にかかる。カーンという金属音が聞こえ、空き缶は回転しながら空を飛ぶ。ゴミ箱の向こう側に静かに落ちる。
「惜しーい。先輩、惜しかったすよ。なんか、本格的でしたっすね。カッコよかったっす。」
俺は足を伸ばす。まだ足が痺れている。
「本格的というより、バスケとハンドボールの違いだろう。」
そう言うと、俺の中に疑問が生じた。俺は口に出せずにはいられない。
「なあ、おまえ―」
「先輩、次の仕事場はどこっすか?」
タカシが遮る。慌てた様子もなく、偶然重なったらしい。
「あのマンションだよ。」
俺はここから見える高層マンションを指さす。平日の昼間のためか、部屋の数の割にはあまり人が出入りしない。タカシは感心した声を漏らす。
「やっぱり、先輩只者じゃないっすね。あんな高級マンションに目をつけるなんて。」
そうだ。頼まれたのではなく、目をつけたのだ。
「でも、気をつけた方がいいっすね。あそこのマンション、隠しカメラつけたっぽいですから。」
隠しカメラ?あのマンションには監視カメラのほかに、隠しカメラがあるのか?
「別に盗撮されても問題ない。」
タカシは笑う。しかし、今度は声を出すことなく、口角を上げ、目を細め、表情で笑っている。気がつけば鳩は一匹もいなくなっていた。
「先輩。せっかく忠告してあげてるんすよ。素直に受け止めてくださいよ。捕まっちゃいますよ。」
俺は、目を細める。家電の修理業者が捕まるはずはないだろう。捕まるのは空き巣だ。
そして、俺は修理業者ではなく空き巣だ。だから、カメラに映れば捕まる。




