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鳩物語

 この「鳩物語」は、実際に現場を目撃し、おもしろかったので物語の中に取り入れたものです。私はおもしろがっただけなのですが、この物語の主人公は、ここからさらに考察をしていきます。なんだか、私の物語には、考察好き(考えすぎ?)のキャラクターが多い気がします。「考えすぎだろ。」と笑って読んで頂ければ良いかと思います。

 さて、この場で言うのもなんなのですが、今日から少しずつ活動報告もしていきたいと思っています。理由は、この前書きで全てをお知らせすることに限界を感じ始めたからです。もしよろしかったら、そちらの方にも目を通していただけると幸いです。

タカシが電話を切るやいなや、俺に声をかける。

「先輩。あれ見てくださいよ。」

俺はタカシが指さす方を見る。一羽の鳩がもう一羽の鳩に向かって、いつもでは考えられないスピードで歩み寄っている。大分その距離が縮んだとき、その異常事態に気がついたのか、歩み寄られた鳩がハッとする。捕まるかと思いきや、歩み寄られた鳩のそのあとの行動は俊敏だった。歩み寄る鳩よりもはるかに上回るスピードでその距離を離す。そして、振り切る。

何が起こったのか分からなかった。ただ、分かったことは、鳩は俺が思っていた以上に素早く動ける、ということだった。タカシは今の光景が理解できたのか、笑い声をあげている。

「オモシレー。先輩、見ました?」

「見たが、何が何だか。」

タカシはしばらく笑っていた。笑いが収まってきたころ、俺とその笑いを共有したいためか、わざわざ解説してくれた。

「あれ、雄と雌なんっすよ。交尾するために雄の鳩が雌の鳩を追いかけたんっすよ。見ました?あの懸命に足を動かしている感じ。」

 そう言うと笑いが込み上げてきたのか、また笑いだした。全貌がはっきりしていない俺は、笑っているタカシが再び解説してくれるのを黙って見ているしかない。

「で、ですよ。雄の下心に気がついた雌はそれ以上の速さで逃げたって訳っすよ。雄以上の速さで。どんだけ嫌なんっすかね?」

 タカシはまた笑う。たとえ「鳩物語」がなくとも、そこまで豪快に笑われるとつられて笑ってしまう。俺も声には出さないが頬を緩め、笑う。

「鳩は交尾できるのかって思っちゃいますよね。」

 俺はまた笑う。笑うと言うより、顔が歪む。頭の片隅で凍結していた回路が溶け出し、ゆっくり作動する。


 人間も同じだろうか?

小学生ぐらいの俺に尋ねると、「見た感じそうだよね。」と答える。

中学生ぐらいの俺に尋ねると、「手を握ることができれば、後はトントン拍子でいける。」と答える。

高校生ぐらいの俺に尋ねると、「相手を選ばなけりゃ、なんとかなるんじゃねえ?オススメしないけど。」と答える。

大学生ぐらいの俺に尋ねると、「性欲は男も女も持っている。欲望に身を任せれば、思考は停止し、善悪や利益を超えた世界が広がる。」

 歳をとるにつれ、俺の考えは鳩と離れていく。今の俺が「鳩物語」から連想するのは、哀しいかな、性犯罪だった。

性犯罪というものは今も昔も存在する。そもそも、性行為自体、片方が快楽を得、片方が不幸になる行為に見えて仕方がない。性行為とは、子孫を残すための自然のメカニズムだ。そのためだけに行われるべきであって、それ以上の快楽を求めてはならない。それ以上の快楽の追求が、性犯罪という形になって顕在化するのではないか?

ここまで考えると、鳩が劣等動物なのか、人間が優等動物なのか、もはや分からなくなる。大学時代、同学の奴がアダルトビデオの向こうに広がる光景に息を荒くし、鼻を膨らませていたのを見た俺は、胃から血液のようにドロドロし、胃酸よりも喉を焼くような、実在しない液体が喉まで込み上げ、口から出そうになった。

過剰な快楽は不幸を生む。快楽など必要ない。


「先輩、大丈夫っすか!気分悪いんっすか?」

気がつくと俺は、口を押さえうずくまっていた。液体が喉まで込み上げてきた。それを吐き出そうと嗚咽するが、何も出でこない。タカシは俺の背中を擦ってくれている。背中を擦られると、幾分か収まってきた。

「もう大丈夫だ。どうやら昨日、飲み過ぎたらしい。」

タカシが背中から手を離すと、俺は起き上がった。大丈夫であることを誇張するように、タカシに笑いかける。そんなことをしたのは何年振りだろうか。

「とりあえず俺、飲み物買ってきますね。」

タカシが急いで立ち上がろうとする。俺はそれを制止する。

「ちょっと待て。」

俺は財布から千円札を取り出し、タカシに渡す。タカシは困惑した顔になる。

「俺は、おまえの先輩なんだろう?これで好きな飲み物を買うといい。」

 タカシはそれを聞くと照れくさそうに笑い、公園の外にある赤い自販機に向かって走り出した。そのとき、タカシは再トライしていた雄の鳩の妨害をしたのだが、タカシは気付いていない。


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