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後輩

 初めての方は、はじめまして。そうでない方は、こんにちは。大藪鴻大です。先日、連載が終わったにもかかわらず、早速投稿してしまいました。

 さて、今回の物語は、昔書いていたものに、少し手を加えたものです。この物語を自分なりに分類するならば、「日常物語」と呼べるものになっています。ちなみに、今回はそんなに長い連載にはなりません。

 それでは、短い間ですが、「すべての幸せをオアズケに」をよろしくお願いします。

 目の前を三羽の鳩が横切る。俺の田舎では、鳩が俺の足元を通過するなど、信じられない光景だった。都会の真ん中の公園、鳩は俺が立ち上がっても飛び上がることはなさそうだ。

 この鳩の行動の違いが、都会の人の優しさを示すのか、究極の無関心を表すのか、それともどちらともなのか。俺にはよく分からない。俺の場合、無関心である方が助かる。一人の方が落ち着くし、何かと都合がいい。

 月曜の朝、一人前の大人がこんなところで日向ぼっこしようと誰も気にしないようだ。俺が「一人前」であるかどうかは定かではないが、向こうのベンチで背広を着てうなだれているサラリーマンもあまり気にされていないのを見ると、先程の仮説は成り立つと言える。俺は仕事の段取りを頭の中で練り直す。


「あれ?もしかして先輩じゃないですか?」

 俺はベンチの後ろから声をかけられる。勢い良く振り返ったが、鳩は飛び立たない。声をかけたのは、髪を茶色に染めた青年だった。耳にはいくつもピアスをつけている。仕事がないのか、”STEP OVER”と書かれた黒いTシャツにジーパンという格好だった。残念ながら、見覚えはない。

「ほら、俺っすよ。タカシっすよ。」

 タカシ?そんな奴いたか?俺の人生において、タカシという名の人物はごまんと存在し、どのタカシも俺の記憶に刻まれなかった。俺がしばらく考え込んでいると、タカシは笑い出した。

「先輩、面白いっすね。隣、いいっすか。」

 タカシは俺の承諾を得る前に、隣に座ろうとする。ベンチの前まで歩き、一度正面を向くと両足を揃え、膝を曲げて座る。まるで、マニュアルに従って動いているかのようなその動作は、外見と大きなギャップがあった。

「先輩、こんなところで何してるんですか?」

「日向ぼっこだ。」

 そう答えると、タカシはまた笑いだした。よく笑う。よく笑うが、その笑い声はこちらが不快になるものではない。

「そうきちゃいますか。違いますよ。仕事っすよ。何の仕事してるんすか?」

 仕事。この社会では仕事をしなければ生きていけない。自給自足といって槍を持ち、獲物を探しに行っても生きていけない。獲物はもういない。獲物は「管理者」が全て管理し、適当な数を適当なバランスで生産・配分し、コントロールされている。獲物を得るのに必要なものは、もはや槍ではない。仕事だ。

「あれ?もしかして俺、聞いちゃいけないこと聞いちゃいましたか?」

 タカシが心配そうに、俺の顔を覗きこむ。なかなか整った顔だ。矯正したのか、歯並びも作りもののようにきれいだ。

「でも、俺は先輩がニートでもフリーターでも幻滅なんかしませんよ。先輩は一生懸命生きている。それは俺が一番分かっていますから。」

 タカシは自分を納得させるように、何度もうなずく。ニートでもフリーターでも、勝手に解釈してもらって構わなかったのだが、タカシのその誠意に溢れる姿を見ていると真実を話さなければならない気がしてきた。

「俺は今、家にお邪魔して、いろいろ点検する仕事をしている。」

「ふーん。家電かなんかの修理業者っすか?やっぱ頭いいんっすね。」

 タカシは、それ以上言及してこなかった。携帯の着信音がする。最近の流行り歌が激しく鳴り響く。タカシは俺に軽く会釈をすると、電話に出る。声の調子は俺と話していたときと大差はない。「エミちゃん」だの、「今日も会える?」だの言っているのを聞く限り、彼女と話しているのだろうか。俺は、次の仕事場所の間取りを思い出す。


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