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Demon Busters  作者: 平安京
改訂前
19/32

第18話 魔女ヴィオレーヌ

 翌朝、目を覚ますと隣でレティシアが寝ていた。わりといつも通り。

 夜の内に抜け出していくことはよくあるが、朝には大抵寝ているのがレティシアだ。夜の王という呼び名が示す通り、吸血鬼は基本的に夜行性であるらしい。

 軽く首筋をさする。

 例によってそこには何の痕も残っていないが、昨夜は久しぶりに吸われた。日数が空いただけに、あの夜ほど大量にではないにせよ、それ以前に何度か吸われた時よりも多めではあった。

 主に求めたのはレティシアの方ではあったが、受け入れたのはエリスである。

 むしろ軽く吸われただけでは自分の方が物足りなく感じたのではないかとエリスは思っていた。

 数日間、それを求めていたのは彼女だけではなく、自分も同じだった。


(…認めたくなんか、ないけどね)


 それにそんなことを口に出したりもしない。

 言えばレティシアが調子に乗るのが目に見えていた。

 思い返せば、昨夜は彼女の隠し事を暴くためとはいえ、自分の方からキスなどしてしまった。今更に気恥ずかしさが沸き上がってくる。あれも結局最後には、レティシアを調子に乗らせる要因になってしまった。

 自分の思わぬ大胆な行動と、それがもたらした結果に悶々とするエリスの横で、レティシアはすやすやと寝息を立てていた。


(寝顔…かわいいじゃない…)


 エリスもアンジェリーナも、町では評判の美少女と呼ばれているらしいが、レティシアの美しさはまた別の次元にあるように思えた。

 整った顔立ちなのはもちろん、どこか気品が漂い、表情や仕草の一つ一つがどれも様になっている。一言で表すなら、華があるのだ。

 普段は大人びた表情や言動が目立つため、どちらかというと綺麗な女性という表現の方が近いのだが、こうして無防備に眠っている姿からは幼さも感じられて、美少女という表現もしっくりくる。

 時々、おそらくはエリスにだけ見せる屈託のない顔と併せて、とてもかわいらしいと思った。


(ハッ! 何考えてるわたし?)


 じっとレティシアの寝顔を見ていると、何かよからぬ感情が湧いてくるような気がした。

 その感情に素直に流されることは、なんというか、嫌だった。

 ますます悶々とした気持ちにさせる寝顔が、無性にむかついた。


「うりゃ」


 エリスは眠っているレティシアの両頬をつねり、思い切り左右に引っ張った。思いのほか柔らかく、みょーんという感じで顔が伸びる。


「ぷっ」


 その顔が面白くて、思わぬ噴き出しそうになってしまった。

 どこまで伸びるか試したくなる誘惑を感じ、さらに力を込めようとしたところでハッとなって気が付いた。

 レティシアの目が薄っすらと開き、にやついた表情をしていることに。

 エリスはもう一度思い切り左右に頬を引っ張り、パッと放した。伸び切った両頬は、勢いよく元の形に戻る。


「あうー」


 変な声を上げるレティシア。

 元に戻った口はやはりにんまりとした形を作っており、開いた目は見下ろすエリスの顔を楽しげに見上げている。


「ふっふっふー、エリスもあどけない寝顔の誘惑には抗えまいー」

「自分であどけないとか言うな」

「キスしてくれてもいいのよ?」

「そんなことより」


 寝起きでもいつものテンションでいるレティシアの言葉を無視して、エリスは昨夜疑問に思ったことを問いかける。


「結局昨夜は何で隠し事なんてしたのよ? あの子、ヴィオレーヌが目を覚ませば遅かれ早かれわかるようなことだったでしょう。まさか、魔女とトラブったことに後ろめたさを感じてたわけでもないでしょうに」

「ん~、まー、特に気にしてたわけじゃないんだけど」

「だけど?」

「昨夜の内に色々調べようとかしだしたら、時間かかりそうだったじゃない? せっかく久しぶりの夜だったんだもの、せめて昨夜くらいは余計なことを忘れて二人で過ごしたかったと思わない?」

「…はぁ、そんなこと考えてたのね」

「大事なことだってば」

「結局色々とあったけどね」


 何だかんだで睡眠時間が削られたので、少々眠気の残る朝だった。幸い今日の仕事は夕方からの短い時間のみなので、お昼前後でしばらく仮眠でも取ろうとエリスは思った。

 ひとまずは朝食の用意をしようとベッドが下りて着替え始めると、レティシアも起き上がった。


「何よ、寝るんじゃないの?」

「後であの魔女に話聞くんでしょう。エリスとあいつを二人きりにするのは不安だわ」

「二人きりにはならなと思うけどね」


 レティシアの行動が気まぐれなのはいつものことなので深く追求はせず、着替え終わると部屋を後にした。

 台所へ向かう途中で普段は空き部屋になっている所の扉を見やるが、今は閉まっており、中にいる者が起きてくる様子もなかった。気配はするので、まだいるのは間違いない。


「魔女も夜型なのかしらね」


 益体も無いことを考えつつそこを素通りし、台所に着くと簡単に朝食を準備する。

 いつもよりも多め、4人分。

 居間のテーブルへ運んでいくと、既にレティシアが席についていた。


「あら、なんだか多くない?」

「まぁ、一応全員分をね」

「全員? 私と、エリスと…あの魔女と?」

「そろそろ来るわ」


 言うが早いか、ドアがノックされて、外から声がした。


「エーリースー! おーはーよー!」


 アンジェリーナである。

 昨夜はほとんど何も話が進まないまま帰すことになったが、彼女がこの一件をこのままエリスに任せて放置するはずがないことは長い付き合いからわかっていた。そしてかなりの確率で、朝一番からやってくるであろうことも。

 しかし、想定していた時間帯の中でも一番早い時間にやってきた。

 これが示すことは、今回の件がかなり大きな案件になるだろうという予感がすることだった。

 好奇心を刺激されることに関して、アンジェリーナの勘は大いに冴え渡る。

 そして彼女の好奇心が向かう物事はほとんどの場合、厄介事なのだ。


「エリス、レティシアさん、おはよ~」

「おはよう」

「おはー」


 勝手知ったる親友の家といった風情で中に入ってきたアンジェリーナが一目散に朝食が並べられているテーブルに駆け寄ってくる。


「う~ん、時間ぴったし。エリスのごはん~♪」

「早かったわね」

「走ってきた。喉渇いちゃった、ジュースあるー?」

「この間もらったオレンジを絞って作ったやつが残ってるけど、あれでいい?」

「うん~」


 アンジェリーナが懇意にしている農家で採れたのをもらったものだ。

 破天荒な性格と行動で周囲の人間を戸惑わせることも多いアンジェリーナであるが、天真爛漫とした部分が多くの人間に愛されているのもまた事実であり、実際に彼女の行動で何かしらの助けを得たという者も数多くいるため、そうした人達から色々な物を度々アンジェリーナはもらっており、エリスもおすそ分けを受けている。一人暮らしのエリスにとって、こうしたもらい物は素直にありがたかった。

 早くに亡くなった両親が残してくれた分と、兄からの仕送り、それに自分自身の稼ぎ。加えて昼と夕は多くの場合まかないで食べられるため、食費は大分抑えられていた。

 その上こうしたもらい物に支えてもらっているエリスは、自分がかなり恵まれた環境で生活していることを自覚していた。

 だからこそこの生活の平穏を壊したくないと思っている。

 けれど、その一方で――。


「ねーねー、それであの子はどうしてる?」


 平穏とは程遠いトラブルの種が舞い込んで来ることで、微かな心の高揚を覚えている部分もあった。

 親友であるアンジェリーナがそれを望み、小さい頃の約束で彼女を助けると誓ったからこそ、彼女が持ち込むトラブルに関わることはやぶさかではない。

 そうでなければ、得体の知れない魔女を自分の家に泊めたりはしないだろう。


(って、得体が知れないのは既にいたか)


 むしろそうした意味では、レティシアの方がおかしな存在だ。彼女はアンジェリーナとは関係無しに直接エリスが関わった厄介事そのものだった。その挙句に、エリスは生まれてはじめて命がけの戦いをすることになったのだ。

 もっともあれも最終的には、エリスが戦う覚悟を決めるきっかけとなったのはアンジェリーナだった。

 エリスが平穏から外れて厄介事に首を突っ込むのは、アンジェリーナの為というのが常だった。


(でもそれは、ひょっとしたらアンジェを出汁に使ってるのかもしれない)


 昔からアンジェリーナには不思議な魅力があった。

 良いものも悪いものも等しく引き寄せる彼女は、いつも厄介事に首を突っ込んでおきながら、常に様々なものを味方につけて問題を解決してきた。

 幼い頃こそ限界があったものの、荒事をエリスが引き受けるようになってからはますますその傾向は強くなった。

 結果として、エリスと行動を共にするようになってからアンジェリーナの破天荒さにさらに磨きがかかったわけだが、それは果たしてアンジェリーナ自身の望んだことだったのか、それとも――。


(わたしがそれを望んだ?)


 子供の頃は調子に乗っていたのは確かだ。

 手にしたばかりの力を奮える場所を欲していた。

 その思いは成長するに従って薄らいでいたものと思っていたが、本当はまだ心の奥で燻っていたのかもしれない。

 何故ならあの夜、恐ろしい怪物と対峙しながら、エリスはどこか心躍るものを感じていた。

 そして今も、あのヴィオレーヌという魔女に積極的に関わろうという気持ちになっている。きっとアンジェリーナがいてもいなくても、この気持ちは変わらない。

 平穏と刺激、相反する二つを、エリスの心は共に求めていた。


「エーリースーーー!!」

「うるさい」

「ふぴゃ」


 耳元で大きな声を上げるアンジェリーナの顔面に手にしたお盆を押し付ける。


「大きな声出さないでよ」

「エリスの方がぼーっとして人の話聞いてなかったくせにー」

「はいはい、悪かったわね。で、何の話だっけ?」

「だからー、昨夜のあの子はあれからどうしてるー…って」

「ん?」


 途中で言葉を途切れさせたアンジェリーナの視線を追っていくと、居間の奥から出てくる話題の人物、ヴィオレーヌの姿が視界に映った。

 昨夜と変わらない、眠たげな眼差しで、エリス達その場にいる他の人間を直接は見ず、やや下の方、今で言えば朝食が並べられたテーブルの上を見ながら立っていた。


「……朝っぱらから騒がしい家ね」

「普段はもっと静かよ、わたし一人だから。それはそうと、おはよう、ヴィオレーヌ。昨夜はよく眠れた?」

「……寝ていないわ」

「はい?」

「……あなた達から採取したサンプルを解析していたわ。ちゃんとした道具が手元にないから、簡易的なものだけれど」

「サンプル…」


 ディープキスまでして採られたものの扱いに関して思うところはあったが、それをこの魔女に言っても仕方がないのだろうと思って追求はしないことにした。


「倒れてた後なのに、ちゃんと休まなくて大丈夫なの?」

「……数日の間寝ないで活動することに大した支障はないわ。実際、昨日までも5日…いや、一週間? いいえ、10日ほどだったかしら…眠っていなかったはずよ」

「え…?」

「……どうにも頭の回転が少し鈍いわね。それにそのテーブルは何かしら…妙に惹き付けられるのだけれど」


 こうして話している間も、ヴィオレーヌの視線はテーブルの上に釘付けになっていた。

 最初は単に顔の向きを変えるのが面倒に感じているのかと思ったのだが、もしかしたらとある可能性に思い当たり、エリスは尋ねた。


「ねぇ、ヴィオレーヌ。あなたそうやって寝てなかった間、食事はしてた?」

「……食事? …ああ、食事ねぇ……そういえば、最後に物を口にしたのはいつだったかしら」


 それを聞いたエリスがヴィオレーヌの前まで歩いていく。

 元々かなり色白とわかる肌は、見るからに血色が悪い。

 目の焦点もぶれており、見ているようでいてちゃんと見ている物を認識していないように思えた。

 どう見ても体調が良いようには見えない。


「ちょっとこっち来なさい、あなた」


 手を引くと、若干ふらつきながら歩き出す。そのままテーブルまで引っ張っていって、席に着かせた。


「とりあえず食べなさい。わたしの分もあげるから、とにかく考える前に食べなさい」

「あ、私の分もあげるー。事情はよくわからないけど、お腹が空いてると頭回らないよね~」

「私はあげないわよ」


 レティシアの分を除く朝食が全てヴィオレーヌの前に並べられる。

 当の本人はといえば、状況を把握していないのか首を傾げている。

 けれど視線だけは目の前の食事にしっかり向けられていた。

 本人に自覚がなくとも、生物としての本能が食物を欲しているのだ。

 自分から動こうとしないヴィオレーヌに、そのままでは埒が明かないと思ったエリスとアンジェリーナが無理矢理食べさせた。

 ヴィオレーヌは抵抗することなく、二人にされるがままになっていた。

 まるで人形を相手にしているような感じだったが、口に物を放り込むとしっかり咀嚼するので、どちらかというと小動物に餌付けしている気分になり、段々と楽しい気がしていた。

 調子に乗ってどんどん食べ物を口内に入れていくエリスとアンジェリーナ。

 それらを余すことなく飲み込んでいくヴィオレーヌ。


「どうでもいいけど二人とも~、そのまま続けるとそいつ窒息するわよ」


 一人冷静なレティシアの指摘を受けて慌てて二人が手を止めると、ヴィオレーヌの顔はますます青白さを増していた。

 それでも体内に食物を摂取する本能の方が強いのか、欠片も吐き出そうとせずに全て飲み込み、口の中が空になったところで大きく息を吐いた。

 するとそこで、ぐ~という音が食卓に響いた。


「足りて…なさそうね」

「やっとお腹が動き出した感じだね~」

「仕方ない。もっと持ってくるから、後お願い、アンジェ」

「は~い」


 その後も食べさせ続けて、エリスの家の食料の備蓄が半月分ほど無くなったところでようやく収まった。

 食事を終えたヴィオレーヌは、昨夜最初にこの家に来た時と同じように、ソファの上に寝そべっていた。


「……苦しいわ。お腹痛い」

「空きっ腹に一気に食べ過ぎたせいね。というか、よく入ったわね…」


 正直途中からやばそうとは思っていたのだが、彼女のお腹の方が要求し続けたため、つい食べさせ続けてしまった。


「……数日食事抜きで、後でまとめて食べるのも珍しくないわ。さすがに半月も食べていなかったのは自分でも驚いたけれど」

「空腹と寝不足。倒れて当たり前だわ」

「……いつもは平気なのよ」

「とてもそうは見えないけど」

「……あるべき物がないから。落としてしまったの。それであんな無様を」

「落し物?」

「……帽子」


 そういえばと、エリスは昨夜レティシアから聞いた話を思い出した。

 確かレティシアが見た魔女は大きな帽子を被っていて、そのために顔は見えなかったと言っていた。しかしアンジェリーナが連れて来た彼女は、帽子らしき物は持っていなかった。

 試しにアンジェリーナに、ヴィオレーヌが倒れていた周りにそれらしき物はなかったのかと聞いてみると――。


「ん~、一応何かないか探してはみたよ。でも、箒以外は何もなかった」


 という答えが返ってきた。


「……あの帽子は、私の魔法をサポートする大事な物なのよ。あれがあれば、多少食事や睡眠を抜いても活動は出来るわ」

「いや、食事と睡眠はちゃんと取った方がいいわよ? 特に食事は、さっきの様子を見る限り」

「……そうね、さすがにあそこまで思考力が鈍るようでは考え物だわ。反省してる。けれどそれはそれとして、帽子は探さなくてはいけないわ。あれには研究に必要な道具類もたくさん納めてあるから」


 そこでアンジェリーナが身を乗り出す。


「それじゃあ、私達でその帽子探すのをお手伝いしてあげる!」

「…達?」

「達」


 食卓で一人食後のお茶を飲んでいたレティシアが首を傾げるのに対し、エリスは自分とレティシアとを指差してみせる。


「頭数に入ってるんだ?」

「アンジェの頭の中ではね。まぁ、嫌なら無理にとは言わないだろうけど…」


 アンジェリーナはソファの横に膝を着いて寝そべっているヴィオレーヌと顔の高さを合わせ、探し物に関して質問をしている。


「帽子って、どんなの?」

「……黒くて、つばが広くて…そうね、これくらいの大きさ」

「大きいねー、頭がすっぽり入っちゃいそう」


 ヴィオレーヌが手で示した帽子の幅は、彼女の華奢な肩幅よりも広かった。


「……で、先が錘状になってるわ」

「とんがり帽子なんだ」

「……そう、魔女の標準装備よ」

「あはっ、絵本の魔女みたい。素敵!」

「……黒い衣にとんがり帽子で、箒に乗って空を飛ぶ。これこそが魔女の様式美というもの」

「うんうん、そうだよね~!」


 様式美なのか、と話を聞きながらエリスは思った。

 昨夜のレティシアとの会話が思い出される。エリスはそうした要素を否定してみせたのだが、どうやら自分の方が間違っているらしい。

 見れば、同じことを思っているらしいレティシアがニヤニヤしている。


「……まぁ、そんな魔女、自分以外では見たことないけれど」

「ないんかい!」


 思わず声を上げてつっこんでしまった。

 結局どっちが正しいのかよくわからない。


「……他の魔女のことはいざ知らず、あれは機能美と様式美を兼ね備えた私の必需品よ。絶対に取り戻さなくては」

「どこで落としちゃったの?」

「……空の上」

「お空? あー、そっか、空飛べるんだもんね、魔女さんは」

「……ええ、そこで、凶悪な吸血鬼と凶暴な竜に襲われて」

「凶悪な…」

「吸血鬼、ね」


 全員の視線が一斉にレティシアの方を向く。

 注目を集めている当人は、どこ吹く風といった風情でゆっくりと持ち上げたカップを傾け、静かにテーブルに置いた。


「凶悪だなんて、この美少女吸血姫を捕まえてひどい言い草だわ」

「犯行自体は認めるわけね」

「…私はちゃんと避けたわ。悪いのはあのドラゴンの方よ」

「そのドラゴンはあなたを追いかけてたんでしょう」

「襲われたという表現は正しくないわ。ちょっとスピードを出し過ぎてたかもしれないけど、私達はただ飛んでいただけだもの」

「事故だと言い張るわけね」

「ええ」


 屁理屈で言い逃れをしようとするレティシア。

 問い詰めているのはエリスだが、エリス自身には別段彼女を糾弾する気があるわけではなかった。それをするのは被害に遭ったヴィオレーヌ本人であろう。


「わー、ドラゴンだってー! 見たいなぁ、ねぇ、エリス!」


 アンジェリーナだけは一人ではしゃいでいる。


「……まぁ、原因は正直どうでもいいのよ。空で見かけた時のことなんて、この家でその吸血鬼の顔を見るまで忘れていたわ。それよりも問題は、帽子のこと」

「よっぽど大事なのね」

「……ええ」

「じゃあ、絶対に見つけなくっちゃね」

「……ところで、あなた誰?」

「いまさらですかー!?」


 何はともあれ、主にアンジェリーナの意向の下、エリス達はヴィオレーヌの帽子を探すことになったのだった。

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