第89話 再会
(ジェルス視点)
この島に船がやってくる3日前。
修行を終えキュリアと一緒に家に戻り、俺達は晩御飯を食べていた。
「どうですか?船のでき具合は?」
「うーん…………あと3日ってとこかしらね?」
俺はローザさんにこう聞いた。この島には港が無い。つまり船が無いのだ。
この船の問題はローザさんが船を持っていて、もう使わないから譲る、と言っていたのだが……………。
(回想)
更に一週間前。
「あの……………ローザさん?」
「えーっと、何かしら?」
俺達はローザさんが船を置いているという場所まで来ていた。
「………………これは何ですか?」
「………………“元”船よ。」
そう。あまりにも使ってなかった(ローザさんは今いくつなんだろう?見た目は30前半くらいなのだが)ため、船はボロボロ。あちこち腐って穴だらけ。マストは真っ二つに折れ、帆は残っていない。船底に穴が空いたのか半分沈みかかっており、乗り込んだ瞬間魚の住みかと化しそうだ。
なんだこの幽霊船は……………。
「…………………これに乗る?」
…………………………。
「……………勘弁、してください…………。」
二人で戻る途中。
「あ、あの!!私、材料を加工する魔法得意だから!!ちょっと時間かかるけど、船作ってあげるから、ね!!」
「…………お願いしますね…………。」
(回想終わり)
という訳だ。どこで作ってどんな感じなのかは俺もキュリアもしらないが、ローザさんに熱が入っているらしく、
「完成したら見せるから待っててね!」
とやたらハイテンションで言った。晩御飯を食べ終わった後、キュリアと一緒に二階に上がる。
「あんな楽しそうなお母さん、初めてみました……………。」
長い間一緒にいる娘のキュリアですら見た事がないのだから相当楽しんでいるのだろう。
造船を楽しむのも相当不自然だと思うのだが……………。まぁ、いいか。娯楽が無いからなぁ……………。
で、こんなやりとりが3日前。
「ジェルス!!?」
やたらと小さい女の子が俺の名前を読んだ。この子は俺を知っているのか?
「君………誰?」
「え?……………どうしたの?私よ?メレンよ?あなた、ジェルスでしょ?」
メレン……………たしか、一年前のメッセージで俺と一緒に呼ばれていた名前だ。
「メレン…………とか言ったっけ。教えてくれ!!俺は一体…………。」
「どういう事………………。」
その時、キュリアが口を挟んだ。
「あの、この方、ジェルスさんは記憶を失っているんです!!だから、何もわからないんです!!」
「へ……………?記憶喪失…………?」
「みたいなんだ。俺、何も思いだせなくて…………。」
「そうなんだ……………。」
その時、メレンの隣にいた女性がメレンに声をかけた。メレンと違い背が高くスラッとしたスタイル抜群の美人だ。
「ねえ、メレン。その人、多分自分がどういう状況にあるかわかってないから説明した方がいいわよ?」
「ああ、そうだった。ちょっと、ジェルス。こっち来て。」
何が何だかわからないまま俺はメレンに引っ張られて人気のない場所に連れていかれた。森の中だ。
「あの……………これからあなたが何者なのか話すんだけど……………信じられないかもしれないけど、全て本当の事だからね?」
「ああ。話してくれ。」
「まず…………あなたは…………異世界に来た人間なの。」
「…………………はぁ?」
そして語ってくれた。俺はリメイカーという組織と戦う為に拉致されて来た事。西の大陸へ向かう途中に船を壊されて散り散りにながされた事。
「リメイカーに対抗する為に一年間修行したって事か…………。」
「そゆ事。一年間修行した………………よね?」
「ああ。一年間熊とか狼とか猪とかと殺し合いしてたよ。」
あれは地獄だった……………。何回死ぬかと思った事か……………。ローザさんに治療してもらって傷は全然目立ってないが、毎日血だらけだった。そのおかげで俺が最初に戦ったあの熊くらいなら一撃で殺れる程強くなったけどさ。
「まぁ、ちゃんと修行してたのね……………そうそう。あなたが元いた世界とこの世界は時間の流れが全然違うからね。あっちの世界じゃ30分しかたってないのよ。」
「なっ、マジかッ!!?」
「大丈夫。身体の成長、老化も比例して遅くなってるから。」
「なんだよかった……………。」
元の世界に戻ってみたら俺だけ大人とかシャレにならない事態にならないようだ。よかった……………。
「で、あなたはなんでついてきたの?」
え?
「え!!?あの、えっと、その……………。」
「まさか、キュリアッ!!?」
「ご、ごめんなさい!!どうしても気になって来ちゃったんです………………。」
メレンは小さくため息をついた。
「全く…………何の為に人気のない場所に移動したと思ったのやら……………それにしても、その子、ただ者じゃないわね……………。人の気配には気を配ってたのに、ついさっきまで気がつかなかったわ……………。」
「その子…………キュリアって言うんだけど、俺と一緒に修行してたんだ。」
「へぇ…………見たところ14くらいだけど、根性あるのかしら?」
……………ところで、この子何歳だろう?キュリアより小さいんだけど…………。
「ああ、今、その子より小さい私は何歳なんだろうって思ったかも知れないけど。」
何ィッ!?読まれているッ!!
「私、あなたより年上の17歳だからね?ああ、忘れてるかもしれないから一応言っておくとあなた16だから。」
年上だとっ!!?こんな子が……………いや、でもよく見ると出る場所出てるしなぁ……………。こんなに小さいのに80は確実に越えてる。140足らずでこれは相当だ。
「ジェルスさん…………本当なんですか?」
「俺に言われてもさっぱり………。」
「思い出せない?」
「ああ。」
「うーん、こういうの聞けば治るんじゃないかと思ったけど…………。魔法で思い出せないかな……………。」
「以前やってもらって無理だった。」
「あら。私はこういう魔法馴れてないし私にも無理でしょ。アイナならわかんないけど…………得意そうじゃないしなぁ……………かくなる上は……………。」
メレンはこんな事を呟いた後……………。
バキィ!!
「ごふっ!!」
思いきり俺の顔を蹴り飛ばした。
「ちょ、おま、何やっ」
「ショック療法よ!!思い出したら言って!!」
え?待って待って待って
ドゴォ!!
「駄目か!!ええい、もう一回!!」
グシャアッ!!
「もう一回!!」
ドカアアアン!!!
「なかなか治らないわねぇ……………よーしこれなら!!!」
「ギャーーーーーーーーーーーーーッッ!!!」
そしてしばらくして。
「……………駄目だったか」
「駄目だったか、じゃねえよこのチビ!!!人をなんだと思っていやがるんだ、ああ!!?」
キュリアが怯えた表情でこちらを見ていた。
「全く…………。とりあえず、治療してくれよ…………。」
「…………はいはい。」
メレンは不満そうな顔で治療を開始する。
「……………アンタ達、何やってんの?」
いつの間にか近くにメレンと一緒にいた女性が近くにいた。
「ショック療法とやらでボコボコにされてね……………あなた、名前は?」
「あたし本名長いからね。アイナでいいわ。」
「じゃあ、アイナさん。貴女もメレンと一緒に?」
「そゆ事。一緒にリメイカーと戦う事にしたわ。ま、よろしくね。」
アイナさんは素っ気なく言った。
「アイナ!!おかしいの!!ショック療法が全然効かないの!!」
「傍目から見たらリンチにしか見えなかったんだけど…………それがあなた達の世界のやり方?」
「その通り!!」
「絶対違う。」
「……………ま、いいわ。結局記憶戻らなかったんでしょ?仕方ないし、そのままバハルに向かうわよ。」
「うん。」
「はぁ………………わかったよ。」
そして、海岸に戻ろうとした時。
「あの!!」
「ん?どうした?キュリア。」
「……………行っちゃうんですか?もう……………。」
「ああ。そう言っただろ。これからバハルに向かう。これでお前ともお別れだよ。」
「あの、わたしも連れて行ってください!!」
「………………は?」
「わたしも行きます。実は、こっそり、お母さんと話をしていたんです。ジェルスさんと一緒に行きたいって。お母さんを説得して、ジェルスさんが許可すれば行ってもいいって言ってくれたんです!!お願いします!!絶対役に立ちます!!連れて行ってください!!!」
「………………キュリア……………お前なぁ……………。」
俺はキュリアに近寄って……………。
胸ぐらを掴んだ。
「ふざけた事ほざいてんじゃねぇよッ!!!ガキがぁ!!!生意気な事言いやがって!!!」
「え……………?」
「最初の戦いで俺吹っ飛ばしてビービー泣いてるような奴を連れていけると思ってんのか!!!足手まといだッ!!!絶対についてくるんじゃねえッ!!!」
「ちょっと、ジェルス…………言い過ぎじゃ……………。」
メレンがそう言ったが、俺は構わず続ける。
「テメェはガキの遠足みたいに思っているかもしれねぇけどなッ!!!俺達がこれからするのは戦いなんだよッ!!!そんな風にふざけてついてくるなんて口にするんじゃねぇッ!!!帰れッッ!!!」
頼む……………引き下がってくれ…………お前を巻き込みたくないんだよ…………!!!
「ふざけてなんかいませんッ!!!」
「な…………ッ。」
初めてキュリアが俺に怒鳴った。泣いて帰ると思っていたため、それに思わず怯む。
「わたしだって修行しました!!!決して遊びでやってた訳じゃありません!!!大事な人を守る為です!!!だから私は大事な人を守る為に行きたいんです!!!連れていってください!!!わかったというまで引き下がりません!!!」
クソ………………ッ!!!
「この…………わからず屋が…………。」
「……………ちょっと、そこの……………ジェルスって言ったっけ?」
アイナさんが俺を読んだ。手招きしている。俺はアイナの元へ駆け寄った。
アイナが俺にひそひそ声で言った。
「しょうがないからあの子連れていきなさい。」
「はぁ?何を…………」
「いいから。どうせ途中で音を上げて帰るって泣き出すに決まってるから。そしたら魔法で送り返せばいいんだし。」
……………………。一理あるな。
「わかった。」
俺はキュリアの元へ戻る。
「しょうがねぇ……………わかったよ。足ひっぱるなよ。」
キュリアの顔がパァっと明るくなった。
「ありがとうございますっ!!!これからも、よろしくお願いしますっ!!!」
キュリアがぺこりと頭を下げる。
これで……………よかったのか?
俺達が海岸に戻ると、ローザさんが待っていた。海に何かが浮かんでおり、大きな布がかかっており、様子は見えない。
「キュリア…………この人達と一緒に行くのね?」
「うん。」
「気をつけてね。ジェルスさん。この子の事。頼むわよ。」
「…………はい。」
正直、自信はない。僅かに思い出したあの記憶…………女の子に吹っ飛ばされたあの記憶の女の子は恐らくリメイカーだろう。あんなに強い奴らなのに、この子を守れるのだろうか。
いや、俺は強くなったんだ、自信を持たないと。きっとやれる。一年間も修行したんだから。
「……………で、そのでっかいのは……………。」
「そう!!ついに完成したのよ!!船が!!私の自信作ッ!!!」
テンション高いなぁ……………。
「じゃ、じゃあ、早速見せていただけますか?」
「もちろん!!!それじゃあ、いくわよ!!!」
パチンという指を鳴らす音と共に布が宙に舞い、船の全貌が明らかになった。
「な………………っ!!これは……………っ!!!」




