第5話 拉致の理由(メレン)
(メレン視点)
家に帰ってきた私は自分の部屋に直行し、自分のカバンを床に置き、制服の上着を床に脱ぎ捨て、柔らかいベッドにダイブした。
「はぁ……疲れたなぁ……。」
思わずこんな独り言が口から漏れる。
暫くそのままボーッとしたあと、私は下校中に買っておいたハンバーガーとコーラをカバンから取り出した。お父さんは体に良くないからそんなものを飲み食いするなといっていたが知った事か。私の食べたいもの、飲みたいものを飲み食いして何が悪い。
コーラの栓を開け、中身を三分の一程一気に飲み、炭酸とコーラの甘味を堪能すると、ハンバーガーにかぶりついた。
やっぱり美味しい。多少体に悪くてもこんなに美味しいものなら気にしない。
「お嬢様ー?」
廊下から私を呼ぶ声がする。全く悪いタイミングだ。私は軽く舌打ちし、口に残っているものを飲み込み、ハンバーガーとコーラをカバンの中に閉まった。
その時、部屋の扉がノックされたあと、ドアが開き、20半ばくらいの女性が入ってきた。メイドのナミラだ。
「お嬢様、塾の用意は出来ましたか?」
「あ、ナミラ、いまするから、ちょっと待って。」
すると、ナミラは匂いを嗅ぐように鼻をせわしなく動かした。
「お嬢様………また何か買い食いなさったのですか?」
「………別にいいじゃん。私が何を飲み食いするなんて………。」
「だめです!旦那様に言われたのですから………。」
私はナミラに食って掛かる。
「父さんの言うことなんて聞きたくない!あれもダメ、これもダメ、スケジュールは父さんに定められて………何でこんな事されないといけないの!?」
「旦那様はあなたの為を思っておっしゃっているんですよ!!」
「うるさい!!本当に私を思っているならこんなに縛り付けたりしない!!友達はみんなもっと自由なのに私は名家の娘ってだけで縛られてる!!」
「その名家の跡取りにふさわしい方になってほしいのです!!」
「嫌!!こんなに縛り付けられるなら、跡取りなんかなりたくない!!私は自由に生きる!!」
それだけ言うと、私は部屋から一気に玄関に向けて走りだした。
「お待ちください!!お嬢様!お嬢様!!」
後ろから私を呼ぶ声がするが、私はそれを無視して屋敷を飛び出した。どこへ行くかは決めてなかった。ただ、屋敷という名の鳥籠から、はやく逃げ出したかった。
それからどれくらい走っただろうか。私は町の外れまで来ていた。落ち着いてから初めて私はなんて馬鹿な事をしたんだろうと思った。名家の娘が……いや、普通の娘でも同じだ。親に反発して家を飛び出すなんて正気の沙汰ではない。
私は急に罪悪感で胸が一杯になった。ナミラには悪い事をした。父さんが私を思っているのもわかっていた。ただ、自由になりたいというのも事実だ。だから、あんな反発をしてしまった。
私は素直に帰って謝ろうと思った。だが、どこか、素直になれない自分もいた。なので、暫く悶々と悩んでいた。
すると、そこに一匹の子犬が歩いてきた。精神的に疲れていた私はその犬に近寄り、軽く頭を撫でた。
すると、全く予想もしてない事が起こった。
「あなた、僕が見えるのですか?」
………しゃべった……?犬が……。
「驚かせてすいません。僕は、改造動物のDGです。」
「は………はぁ。」
この犬は私に語った。異世界に危機が迫っていること。そのためこの世界の魔力を持つ人に助けを求めにきたこと。この犬が見えるということは私に魔力があり、異世界を救うことができるということ。
「僕と一緒に来てください!!時間がないんです!!」
目の前に青い渦のようなものが広がる。
「え!?ちょっと待って!?私これから……。」
「大丈夫です!!こっちの世界とあっちの世界では時の流れが違います!!だからあっちに2年いてもこっちでは一時間しか経たないんです。肉体の成長、老化もそれに比例して遅くなるので安心してください!!」
私は強引に渦の中にひきずりこまれた。