第65話 アクシデント
(カイン視点)
バハル港は幾つかの建物…………多分宿屋と店だろう。それと、受付をしている建物があるだけの結構寂しい場所だ。もうちょっと賑わっていると思ったのだが。
で、今は真昼。宿屋で休む程ではないので、店に入って食料を買い足して受付に向かった。店員によると、最近船を利用する人がほとんどいないらしい。理由はわからないが、観光シーズンではないのだろう。
受付の建物に入ると受付の女性が不機嫌そうに煙草を吹かしていた。が、こちらに気づくと、煙草の火を消して営業スマイルを向ける。
「いらっしゃいませ。船をご利用でしょうか?」
あまり感情のこもってない声で女性が訊ねてきた。客少なくて退屈してたんだろうな……………。
「あの…………俺ら、西の大陸へ行きたいのですが…………便はありますか?」
ディスターがここから来いと言ってたから無い事はないと思うのだが…………。
「西の大陸ですか?しばらくお待ちください…………。」
そう言って手元の手帳をパラパラとめくる…………。そして電話のようなものに手を伸ばした。この世界に電話あんのか……………。ポケベルみたいなものだと思うけど…………。
「はい。西の大陸へ…………はい。そうですか。分かりました。」
そしてこちらに向き直る。
「西の大陸行きの船でしたら、二時間程整備したら出港できるそうです。」
「あ、そうですか?分かりました。」
で、席に座って二時間待つ事にした。ジェルスとメレンはうたた寝を始め、ソファーのほとんど占領してしまった。
ジェルスはともかくメレンを起こして不機嫌にさせると今度は炭にされそうなので立ちながら棚にあったこの世界の本を魔法で翻訳して読んでみた。内容は………………あー、この世界にもあるんだ。こういうの。別のにしよう。
で、本を読みふけていると、
「出港の準備が完了致しました。」
と受付の女性から言われた。なのでジェルスとメレンを起こす。メレンは起こされて機嫌を悪くしたのか一瞬こちらを睨んだが、すぐに船へと向かって行った。あれからメレンが怖くて仕方ない……………。
船は結構大きな船で乗客は当然のように俺たちしかいない。
「おう、お前達!!何もねぇ船だけど、西の大陸に着くまでの三日間、ゆっくりしていってくれ!!」
船長が俺たちにこう語りかけた。
「………私、部屋の中に入ってるね。」
メレンはそれだけ言って部屋の中へと入っていった。どうかしたのだろうか…………、船酔いしやすいのか?でも、船酔いは外で遠くを眺めるのがいいって聞いた事あるしなぁ…………。
ま、いっか。
「にしてもよかったな。すぐに船に乗れて。(カインの台詞)」
「ああ。…………三日後に西の大陸に着いたら修行か。(ジェルスの台詞)」
「ああ。気を引き締めねえと。(カインの台詞)」
で、ゆっくりと過ごして次の日の昼過ぎ頃。
順調に西の大陸に向かっている。今の所平和そのもの。
まあでも、こんな世界なんだから沖合いにはとんでもない化け物とか
ザッバアアアアァァァァン!!!
いるんじゃないかと思ってたら本当に出ちまった……………。
そいつは見た目は巨大な蛇のような奴で頭には鋭い角が何本も生えている。全身固そうな銀色の鱗に覆われており長い赤い鬣のような毛が首から生えていた。
「まさか…………リヴァイアサン(旧約聖書にでてくる海の怪物。中世以降は悪魔として見られている)!!?」
俺は思わず叫んだ…………が、聖書の怪物が異世界にいる訳がない。多分別の生き物だろう。
それにしてもでかい。この船なんて余裕で噛み砕いてしまいそうな程だ。
……………まぁ、常識的に考えて、恐らくコイツはナワバリに入ってきたこの船を排除しようとしているのだろう。なら、サッサとナワバリから出れば許してくれるかもしれない。
「船長!コイツのナワバリから出よう!!早く!!大至急!!!」
「あ、ああ!!わかった!!」
すぐさま船はUターンして大蛇から離れる。しかし、大蛇は気が短かったようだ。
大蛇の口から凄まじい勢いで水の塊が吐きだされた。
「やべ…………。」
咄嗟に魔法で弾こうとしたが間に合わず、水の塊は船に直撃した。
ドガアアアアァァン!!!
爆音と共に船体は吹き飛ばされ、俺たちは海へと投げ出された。
大蛇はこの船を排除した事で満足したのか海の底へ潜っていく。しかし、あの巨体だ。あんなのが泳いだ事により海面は大荒れになっている。
「ぷはぁ!!!ジェルス!!!メレン!!!無事か!!!」
俺はそう叫んで近くの木片に掴まった。
ジェルスは割とすぐ近くで同じく木片に掴まっている。しかし、メレンは?
そうか!!あいつ、船内に……………!!!
「め、メレン!!!」
少し離れた場所で大量の木片の近くにメレンはいた。しかし、木片に掴まれず、あっぷあっぷともがいている。あいつ、カナヅチか…………!!!
「メレン!!!落ち着け!!!落ち着いて、木片に掴まれ!!!」
俺はこう叫びながらなんとかメレンの元へ移動しようとした。しかし、海面が荒れているせいで、なかなか近づけない。
「カイ………たす………助け………」
メレンが溺れながらもこちらへ手を伸ばしている。クソ、早く、早くしねぇと!!
俺はメレンに向かって必死でバタ足で泳ぎ続けた。
よし、なんとか近づけてる。メレンも持ちこたえている。もう少し、あと二メートル………………!!
と、その時、一際高い波が、俺たちを飲み込んだ。
ザパアアアアアアン!!
その衝撃で俺は思わず木片を離してしまう。思いきり海水を飲んでしまった。ヤバイ、溺れる…………!!
「く、クソ…………め、メレン……………。」
駄目だ………………流される……………息ができねぇ……………。
しっかりしろ………メレンを助けないと…………でも……………意識……………が………………。




