第36話 狩猟(続き)
俺は考えるより先に体が動いていた。奴が爪をゆっくり振り上げている隙に一気にリリちゃんへ向かって全力ダッシュし、リリちゃんを抱えて飛び退いた。しかし、バロンガの爪が俺の背中を引き裂いた。
「カイン!!!」
メレンの叫び声が聞こえたと思ったら俺の背中に一気に焼けつくように痛み始めた。
「ッ!!あぁ…!!」
激痛で声が漏れる。背中から血がドクドクと流れているのがわかる。この服、防刃なのに……。
「この……!!」
メレンがそう言って魔力弾を連発するがバロンガはそれを気にも止めず、俺にトドメを刺そうとふたたび爪を振り上げる。
クソッ!!このままじゃリリちゃんもろともあの世行きだ!!どうすればいい!!
と、その時、俺はある事に気がついた。これしかねぇ!!これが駄目だったらお陀仏だ!!!
俺はリリちゃんの腰のダガーを抜き、奴に投げつけた。奴の、目を狙って。
ダガーはバロンガの右目に突き刺さる。奴の目から赤黒い液体が流れた。バロンガが言葉で表しにくい叫び声をあげる。
俺はその隙にリリちゃんを抱き上げ距離を離す。
「リリちゃん、大丈夫?」
リリちゃんは泣きそうになりながら答えた。
「私は平気。でも、カイン、血が……血が……。あたしのせいで……。」
「心配するな。俺なら……ぐっ!!」
急にふらついた。さっきから血を流しっぱなしだ。だんだん失血が深刻になってきている。リリちゃんが半泣きになりながら俺の名前を呼び続ける。
サネスさんがもう一方の目に矢を放った。バロンガの左目も潰れた。ふたたびバロンガが叫び声をあげる。
リッドさんが盲目のバロンガに一気に近づき眉間に剣を突き刺した。バロンガはしばらく痙攣し、動かなくなった。
倒した。緊張がほどけたのか俺は力が抜けて地面に倒れこんだ。リリちゃんはもはや目を手で覆って泣きじゃくっている。
「カイン!!!大丈夫!!?」
メレンがかけよってくる。そして俺の背中に魔力を注いで止血する。
「なんとか……命に関わる程の出血は避けれたかな……。」
そう言ってメレンは少し安心したような表情を浮かべる。
俺は手を伸ばして泣いているリリちゃんの頭を撫でた。
「リリちゃん……俺は大丈夫だから……泣くな……。」
「だって……あたしのせいで……あたしのせいでカインが……」
「リリちゃんのせいじゃない……だから、もう泣かないで……。」
リッドさんとサネスさんも駆け寄ってきた。
「メレンちゃん、カインは………」
「大丈夫です、止血が間に合いました。」
「良かった……。血が吹き出てきた時はどうなるかと思ったけど……。」
安心して腰が抜けたのかリッドさんもその場に座り込む。
サネスさんが俺に近寄り、少し笑みを浮かべながら声をかけた。
「礼を言う。カイン。リリを助けてくれてありがとう。」
「いえ、どういたしまして……。」
それからしばらくして俺達はバロンガの亡骸を見つめた。
「これで……集落もしばらくは安全…………かな。」
「だろうな。族長様も喜ばれるだろう。」
サネスさんとリッドさんがそう言って二人は立ち上がった。
「さて、集落に帰ろう。カインは俺が背負っていくよ。リリちゃん、大丈夫?」
「うん。」
「よし、行こう。帰りも長いし、他にも獣はいるから、油断しないように。」
リッドさんが俺を背負った。女子二人も立ち上がる。
出発しようとした時、リリちゃんが俺に近づいた。少し俯いている。
「あの……カイン。」
「ん?どうかした?」
「あの、カインにまだ言ってない事があったなって……。」
「何?俺に言ってないことって。」
リリちゃんが顔を上げた。わずかに頬が赤くなっているような気がする。
「カイン……ありがと。」
そう言って、リリちゃんはふたたび俯いた。




