第32話 休憩
あれから至って何もなく、獣や盗賊に襲われることもなく、順調に進んでいる、集落を出て5日程歩いた頃、ずっと歩き続けて皆疲れが溜まっているので今日はいつもより早めに休む事にした。特に女性二人は辛そうだ。
あれ以降も相も変わらずリリちゃんにそっけない態度ばかりとられているがサネスさん曰く、
「あぁ、大丈夫だ。あいつ、お前の目の前で泣いたんだろう?リリはプライドが高いから信頼した相手以外の前では弱く見られないよう絶対に涙を見せないんだよ。お前はあいつに信頼されてるという事だ。あいつ、人付き合いが上手いとはいえないからな。」
なんかサネスさんも初対面より大分口数が増えた気がする。殆ど無表情で淡々とした口調だけど。
「人付き合いが下手なのはサネスも同じでしよ?」
「リッド、いきなり混ざってくるな。あと、余計なお世話だ。」
全く表情を変えずサネスさんが反論する。しかし笑いながらリッドさんが続ける。
「大体、サネスがそんなんだからリリちゃんもあんな風なんだよ。あの子が頼れるのは、お前しかいないんだぜ?そんな奴がここまで無愛想だと感化されるに決まってるよ。」
サネスさんは一瞬表情を歪ませたがすぐに元に戻り淡々と反論した。
「俺がどう振る舞おうが結局どう振る舞うかはリリ本人が決める事だ。俺があいつに無愛想に振る舞おえと言ったというのか?違うだろ?」
「ふーん、じゃ、サネスが毎日表情豊かに楽しく過ごしていてもあの子はあんな無愛想だったのかな?」
「さあな。それと、気持ち悪い事をいうな。」
「え?気持ち悪い事?俺何かそんな事いったっけ?」
「俺が毎日表情豊かに生きているって言っただろ。俺がそんな生活?ふざけている。」
「(小声で)根暗。」
「何か言ったか?」
「サネスは静かな方が似合っているって言ったんだよ。」
サネスさんは黙りこくって木にもたれ掛かって何か考えているかのように俯いて動かなくなった。リッドさんが俺に向き直る。
「さて、カイン。いい機会だし、剣術の特訓でもするか?」
「あ、はい。よろしくお願いします。」
「さすがに本物の剣は危ないよな………手頃な木の枝がいいけど、ないなあ………。よし、それなら、」
リッドさんが斜め上に向かって剣を素振りする……と思いきや、振られた剣から何か刃のような物が飛んでいき、手頃な太さの枝を二本斬り落とした。
「リッドさん、今の何ですか?」
「え?斬撃を飛ばしたんだよ。剣に魔力を込めれば簡単にできる。普通に斬るより威力は数段下だけどね。」
「リッドさん、魔法使えるんですか?」
「まぁ、簡単な物だけだよ。ちょっと前に興味を持って少し勉強した程度だからね。でも、集落で剣を習っている中で魔法を使えるのは俺だけ。魔法の勉強の時剣術の稽古サボってたから剣はリリちゃんよりかなり劣るけど。」
「リッドさん、その斬撃を飛ばすのも、教えてくれませんか?」
「いいよ。別に難しいものでもないし、慣れたら簡単だよ。」
こうして、俺はリッドさんに剣術を教えてもらい、休憩時間を過ごした。