第31話 謝罪
「よし、今日はこれくらいにして休もうか。」
集落を出て2日と半日程。段々日も落ちてきたので今日はこれくらいにして休む事にした。リッドさんが言うにはこの辺には夜行性のヤバい獣がわんさかいて危ないから早めに休んで火を焚き、獣を近寄らせないのがいいらしい。メレンが葬ったあの虎みたいな奴もその一匹だったのだろうか。
リッドさんはサネスさんと共に食料を探すと言って二人でどこかに行ってしまった。食料といっても獣しかいない。昨日は鹿と馬を足して二で割って鱗を生やしたような奴が晩飯だった。メレンがモロに嫌悪感丸出しだったな。
メレンは歩き続けて疲れてしまったのか木にもたれ掛かって小さく欠伸をしたかと思うと寝息をたてて眠り始めた。
で、残っているのは俺とリリちゃんだけだ。
………やっぱり謝っておかないとな……。
俺は少し離れた場所で浮かない顔をしているリリちゃんに近づき、声をかけた。
「リリちゃん。ちょっといいかな。」
リリちゃんは何も答えない。一瞬睨むようにこちらを見たが、すぐに俯いて先程の浮かない顔に戻った。
俺はリリちゃんの座っている場所から一人分離れた場所に腰をおろした。
「リリちゃん。この間の事、本当にごめん。君の気持ちも分からずに、あんな事言って……。」
リリちゃんは再び何も言わず、俯いたままだった。段々気まずくなってきたところで、リリちゃんが急に口を開いた。
「あたしだって皆の気持ちもわかってる。皆はあたしを真剣に心配している。あたしは女で………何より子供だから。心配されて当たり前なのもちゃんとわかってる。でも………。」
リリちゃんはここで一旦言葉を切った。
「でも、おかしいじゃない!!剣術を教えてくれる先生も、道場の先輩達も、皆あたしを誉めてくれる!!皆、先生でさえも、あたしに敵う奴なんていないとか、あたしがいればこの集落は安泰だとか、声をかけてくれる!!皆、あたしの実力を誉めてくれるのよ!!!それなのに!!!」
再び言葉を切った。目から涙を流している。
「それなのに!!!あたしが外に獣を倒しに行くと言うと皆猛反発するのよ!!危ないから、幼いから、女の子だからって言って………!!!皆、あたしの実力を認めてくれるのに、あたしを誉めてくれるのに………こんなの………おかしいじゃない………!!!」
それだけ言うと、リリちゃんは声をあげて大泣きしてしまった。俺はリリちゃんに何も言えず、ただリリちゃんの頭を撫でて慰めることしかできなかった。
それから10分くらい経っただろうか。ようやくリリちゃんは泣き止み、撫でていた俺の手を振り払った。
「…………昨日はあたしも言い過ぎたわ。でも、心配される筋合いはないから。」
「……………わかった。」
と、その時、二人が戻ってきた。トカゲをやたらでかくして刺々しくしたような爬虫類を背負っている。リリちゃんはサネスさんを見ると即座に駆け寄った。
俺ら二人の様子を見て、サネスさんが声をかけた。
「…………何があった。」
俺は先程のやり取りを簡単に説明した。
「……………そうか。まぁ、そう思うのも仕方ないかもな………。」
サネスさんがリリちゃんの頭を撫でながら言った。
俺はたった今、メレンがいつの間にか目を覚まして、こちらを険しい表情で見ているのに気づいた。
ヤバい。なんか空気が重たい。それを感じとったのかリッドさんが明るい口調で言った。
「あ、ほら、そんなくらい顔してないで、飯にしようぜ?」
サネスさんも続けた。元々無口気味なので口調がいつものように気だるそうだが。
「ああ、そうだな。おい、リリ。離れろ。暑苦しい。」
「もう、何よ!!あたしの気持ちも知らないで!」
リリちゃんがそう言って頬を膨らませた。それをリッドさんは笑いながら眺めている。メレンも僅かに微笑んでこちらを眺めていた。
よし、これで一段落………
「よし、じゃあさっさと飯にしよう。」
そう言ってリッドさんがトカゲに向かってナイフを降り下ろす。
「イヤーーーー!!(女子二人で)」
メレンとリリちゃんが絶叫し、メレンが半泣きしながら俺の背後で震え始め、リリちゃんが真っ青になってサネスさんの後ろに隠れた。
……………一段落してねぇ………。
「嫌、嫌、絶対嫌ぁぁぁ!!」
「もう、リッド!!!いきなりなにやってるのよ!!!本当最低ッ!!」
……………はぁ。