第30話 奥へ
ん………朝か………。硬い床の上で寝ていたせいか腰が痛い。俺は大きく欠伸をして、起き上がろうとした時、
ドスッ!!
「ウボァッ!?(断末魔)」
な、なんだ……何が起こったんだ……?見るとメレンが俺のすぐ横で寝息をたてて寝ている。こいつが落ちてきたのかよ……。
俺はメレンを叩き起こそうとした……が。
クソッ、可愛いな………。可愛くて思わず起こすのを躊躇ってしまった。
…………静かに揺すり起こすことにした。
「おい、起きろ。朝だぞ。」
案の定起きる気配すら全くない。
「おい!起きろ!!」
………起きないなぁ………。
どうすれば起きるかなぁ……?揺すっても声かけても起きないし…………うーん……。
…………寝耳に水?
早速コップに水を注ぎ、メレンの耳に向けて2、3滴垂らす。
「ひゃうっ!!な、何!?」
…………リアクションがめっちゃ可愛かった。"ひゃう"って………。
と、メレンは俺がリアル寝耳に水をやった事に気づいて怒ったように頬を膨らませた。
「んもう………何やってるのよ………。」
「ごめんごめん。なかなか起きなかったからさ。」
俺は笑いながらメレンの頭を撫でる。メレンは俺の手を払いのけると立ち上がって大きく伸びをした。俺も続けて立ち上がり軽く肩を回す。
俺たちが外に出るとリッドさんが近くにある広場で既に待っていた。バスタードソードと円い盾を持っている。
「おはよう。昨日はよく眠れた?」
「はい。それなりに………。」
「それは良かった。これからは危険も多くなるからね………、休める時に休んでおいたほうがいい。」
リッドさんが辺りを見渡して更に言った。
「さて、あの二人はまだかな。なんせあの二人、両方ともかなり朝に弱いし。ま、あと20分もすれば来ると思うよ。」
二人を待っていると、リッドさんに声をかけられた。
「へぇ……ロングソード……しかもこの辺じゃ最高級のやつ……お城の武器庫にあったやつかい?」
「あ、はい。」
「盾は使ってないの?あると何かと役に立つよ?」
「あー……まぁ、俺にとってはこれも結構重いので盾まで持つと……。」
「ふーん……ま、剣を扱ったばかりの頃なんてそんなものか。俺だって最初はそれくらいの剣を重いと感じてたし。」
こんな場所だからかなり小さい頃から武器に触れているんだろうな……。
「まだ上手く扱えないでしょ?暇な時にでも剣術の基本だけでも教えてやろうか?」
「あ、はい。よろしくお願いします。」
リッドさんはしばらく笑っていたが、急に真剣な表情になって俺に告げた。
「そうそう、カイン、後でリリちゃんにしっかりと謝っておいたほうがいい。」
「…………はい。」
「あの子、普段は素直でとてもいい子なんだけど、ちょっとプライドが高いからね……とくに幼いって理由で心配されるのを極端に嫌っているからさ………。」
「…………。」
「ま、年のわりに少々頑固だけど、ちゃんと謝れば許してくれるさ。サネスもリリちゃんにこの事言ってたみたいだし。」
「…………わかりました。」
「まあ、あの子が来たらすぐに謝れって事じゃない。二人になれた時にでもちゃんと話せばいいさ。」
と、リッドさんが再び辺りを見渡した。
「と、こんな話してたら来たみたいだね。」
向こうから二人が歩いてくる。サネスさんはロングボウと矢筒、リリちゃんはロングソードに腰にナイフを三本。
リッドさんが全員に声をかける。
「よし、揃ったね。皆、準備はいい?」
俺達は全員頷いた。
「さ、行こうか。バロンガの巣はここから日の沈む方へ8日だ。長くなるけど、まぁ、気楽に行こうよ。」
こうして、俺達五人はバロンガ討伐へと向かったのだった。