第197話 ジェルスVSサーリッシュ決着
……………なんとか………生きてる……のか?全身が痛い。崩れた天井の岩の下敷きになってるのか。重い。浮き上がらない。なんとか魔力で防御して即死は防いだが、あまりにもダメージがでかい。あちこちが濡れている。血だ。右腕には大きな岩が乗せられており、恐らく折れている。右手以外もボロボロだ。
………生きてるっちゃ、生きてるが………もう、駄目かもな………。一ミリも動けない。助けも呼べない。なんとかしてこの状況から脱出できるとも思えないし………。
…………ダメだなぁ、俺。アイナは助けられない。サーリッシュも救えない。大口叩いてこのザマだ。
『絶対に、戻ってきてください。』
頭に響く声が徐々にぼやける意識を覚醒させた。
『貴方がいないと、わたし………。』
キュリア…………。
…………ああ。あの時、大丈夫だって言ったっけ。………キュリアを悲しませる訳には、いかねぇよな………。そうだ、俺があいつを守るって決めたんだ。なのに………俺がくたばっちゃ、いけないよな………。
動け………、動け、動け‼︎
ゴゴ………、ゴゴゴゴ…………、ドスン‼︎
「………な、なんで………生きてるの?なんで立てるの?なんで………。」
サーリッシュが明らかに狼狽えている。俺は落ちてた剣の一本を左手で拾う。右手はもう使い物にならない。
「悪ィなぁ………。俺………死ねないんだよ。大事な、人…………待たせてるからな…………。」
「……………だ、だとしても、それが何だっていうの?貴方は傷だらけ、血だらけ。利き腕は使えない‼︎今にも死にそうじゃない‼︎それなのに、アンタに何ができるっていうのよ‼︎」
「テメェを助けて………、アイナを助けて………。皆で帰るんだ。」
「いいえ、そんなの無理よ‼︎もうほっといても死ぬでしょうけど、あたしが直接トドメを刺してあげる。二度とそんな生意気な口きけないようにね‼︎」
サーリッシュの持っている槍の刃が氷を纏う。
「呼冥氷刃………、これで、地獄に堕ちろォッッ‼︎‼︎」
高速でジグザグに動きながら、サーリッシュが迫ってくる。待て………ギリギリまで引きつけるんだ、チャンスは一瞬。奴が俺を斬り裂こうとする一瞬。
まだ……、まだだ………。………………今‼︎
「居合、砕刃‼︎」
ザンッッ‼︎
静寂。
お互いすれ違い様の一撃。しばらくの間、まるで時間が止まったかのように二人とも動かない。
ズシャ………ッ‼︎
俺の脇腹が深く斬られ、俺は思わず膝をつく。倒れそうになるのをなんとか堪えた。しかし、俺はニヤリと笑って呟く。
「勝負………、あったな。」
バキィィィィ‼︎ズパァッ‼︎
ドサッ。
槍の刃が砕け散る音が響く。一呼吸置いて、サーリッシュが地面に倒れる音がした。
「………はあッ‼︎はあ、はあ、はあ………。し、死ぬ、マジで死ぬとこだった………。」
緊張の糸が切れた俺は全身の力が抜け、床にへたり込む。全身から激痛が走る。マジで死を覚悟した。しかも2回。体はボロボロ。勝ちは勝ちだがあまりにも薄氷の勝利だった。
「おい、サーリッシュ‼︎大丈夫か⁉︎」
少し休んだ後、倒れているサーリッシュの元へ向かう。
「…………なん、とか………。」
「それは良かった。」
「ねぇ、ジェルス。」
「ん?どうした?」
「あたし、リメイカーを辞めても、幸せになれるかな?あっちの世界に戻って、やり直せるかな?親も、友達も失ったけど、ちゃんと生きていけるかな?」
「それはお前次第だ。だけど、お前は一人じゃない。きっと色んな人が助けてくれる。もちろん俺だって助けてやる。だから………。」
「うん。あたし、頑張る。頑張るよ。信じられる。あたしは独りじゃないって。」
「ああ。」
それを聞いてサーリッシュが僅かに笑う。
「ねぇ、あたしの左耳のピアス、壊して。それがリメイカーの証。自分では壊せないの。」
パキィン‼︎
「これで、あたしは自由の身ね。………その、何ていうか………ありがと。」
「フッ、ああ。どういたしまして。」
「これ、アイヌゼラを助けるための腕輪。壊すね。」
サーリッシュが腕輪を壊す。他の奴らは腕輪を壊せただろうか?
「………あのさ、サーリッシュ。俺達と一緒に来るか?」
「………しばらくはリメイカーが裏切り者への罰であたしを追って来るわ。貴方達にも迷惑がかかる。」
「そんなの気にしないさ。」
「アンタ達は気にしなくてもあたしは気にするの。しばらくあたしは身を隠すわ。これがひと段落したら、また会いましょ。その時はちゃんと仲間にさそってね。」
「ああ。約束する。」
「ええ。………約束。」
お互いにクスッと笑った。
「そうだ、これ。プレゼント。」
サーリッシュが小瓶を投げる。中にはオレンジ色をした丸薬のようなものが6個入っていた。
「それ傷薬。ゆっくり効いていくものだから戦闘中には使えないものだけど、ゆっくりな分効果は高いの。あげる。」
「ああ、ありがとよ。そら。」
瓶を開けて薬の一つをサーリッシュに与える。
「………………クスッ、ホント、優しいのだから………。でも、そういうの、嫌いじゃないわ。」
そう言ってサーリッシュが薬を噛み砕く。俺も薬を一粒口に含んで噛み潰す。
………なんだこれ?漢方薬………?
「確かにあんま美味しい物じゃないわね。」
俺の表情を見て、サーリッシュが僅かに笑う。
「良薬は口に苦し、という奴か………。」
味を我慢して飲み込む。………なんか体が火照るような感じが………。
「さっきも言ったように薬を飲んでもすぐには効かないわ。タダでさえ大怪我なんだから、大人しくしときなさい。」
「ああ。」
「さて、あたしはもうそろそろ行くわ。ありがとね、ジェルス。また会いましょう。」
「おう。またな。」
サーリッシュはにっこりと微笑むと瞬間移動でどこかに消えてしまった。
………あの笑顔、結構可愛かったな………。普段無表情だからわかりにくいけど、サーリッシュってかなり美人だよな。
………さて、アイナを助けに行きたいが、流石に怪我が酷くて動くのも一苦労だ。こんな状態では足手まといにしかならない。ここで休むとするか。
後は任せたぜ。皆。