第184話 カインVSディスター①
(カイン視点)
「と、マァ………、オレの昔話は、こんなとこかな。それからはリメイカーに入り、色々やって、今に至るって感じだ。」
「…………色々あったんだな、お前も………。元々は、大切な人の為だったのに、それがそんな…………。」
「……自業自得だけどな。トルカは恐らく、オレが首突っ込むのを望んでいなかっただろう。トルカの為を思ってたのに、トルカの事を何も分かっちゃいなかったんだ。」
「それで………無実の罪で逮捕され、不条理への復讐の為にリメイカーに?」
「ああ。あの時は………いや、今でも思ってる。世界ってのは不公平なんだ。誰もが幸せになれるわけじゃない。誰かが幸せになれば、誰かが不幸になる。幸せってのは誰かを蹴落とすって事なんだ。」
「ああ。それはよく知っている。俺だって…………この世の不公平をうんと味わった………。」
「お前も何かあったってクチだな。」
「過ぎた事だ。今はどうだっていい。で、話戻すが、リメイカーに入って幸せになれたのか?お前は?」
「………今はまだ、答えは出ていない。」
「違うね。答えは出てるよ。答えは“なってない”だ。お前、今まで何人を不幸に陥れたと思っている?それなのにまだ幸せを実感できてないって、それは幸せになれないって事だよ。」
「………かもな。」
「つまり、お前のやってる事は他人を不幸にするだけ。つまり無駄って事だ。いつまで無駄な事を続けるつもりだ?」
ディスターは少し俯いて答えない。
「お前は悪になりきれないんだよ。今もそう。迷ってる。もう迷わなくていいじゃねぇか。リメイカー辞めて、やり直せばいい………。」
「…………やり直して、どうなる?あっちに帰るのか?帰ってもオレは警察に追われるだけだ。」
「だから、お前は迷いすぎなんだよ。そんな事、後で考えりゃいい。そんな色々言って、踏みとどまってちゃ、話にならねぇ。踏み出してみろよ。そうすれば、何か始まるだろうし、味方だって出てくるかもしれない。」
「…………。」
「俺だって力になるさ。いいか?この世にいる限り、人間独りってのはあり得ないんだ。味方がいないんじゃない。見つけてないだけだ。さぁ、踏み出してみろ。」
「…………本当に、それでオレは救われるのか?」
「ああ。絶対に。」
「…………不安なんだ。お前の言ってる事、多分間違ってはいない。でも、凄く不安で………。カイン。」
「どうした。」
「オレを救ってみせると言うなら………力を見せてくれ。リメイカーから救ってみせると言うのなら………リメイカーに勝てるくらいの力を。」
「ああ。いいぜ。本来男ってのは、口でゴチャゴチャ言うより、拳で語るモンだ。そしたら、分かる事だってある………、それに、お前とは決着を着けたかったんだ。いくぜ、手加減しねぇぞ?」
「ああ。全力でこい。そして………救ってみせろッ‼︎」
「おうよッ‼︎」
ヒュンッ!‼︎
『オラアアアアアアアアッッ‼︎‼︎』
ドッ‼︎
ほぼ同時に飛び出し、俺のキックとディスターのパンチがぶつかる。大気がビリビリと震えるような衝撃だ。
素早く体制を整え、ハイキックをかわし、顎に向けて右ストレート。
グォン!
………野郎、キックでバランスが不安定なところで、踏ん張らず敢えてよろめいてかわしやがった。
「ラァッ‼︎」
腕が伸びきったところでそのままエルボーに繋げる。ディスターはそれを両手で受けるも僅かに後ろへ下がった。
ガシッ‼︎
「そらよッ‼︎」
ディスターが俺の肘を掴み、思いきり投げて俺を背中から地面に叩きつける。ジュードーのような技術ではなく、単に力任せに投げたものだ。
間髪いれずに繰り出される下段突きを何とか避け、反撃で蹴りを繰り出しつつ立ち上がる。
ディスターがやや大振りな左フック。スウェーでかわしたところに踏み込まれて裏拳を叩き込まれる。
「ぐほぉっ‼︎」
「どうした?そんなモンじゃねぇだろッ‼︎」
「おうよッ‼︎」
更に繰り出されるパンチを避けつつ懐に潜り、肝臓辺りに左フック。
ドスッ‼︎
「がッ、」
ボッ‼︎
僅かに怯んだところに右ストレート。
「オラアッ‼︎」
ドガァッ‼︎
ノックバックした隙にケンカキックを叩き込んだ。ディスターが後ろに吹っ飛ばされる。
「へぇ………いいキックだ。プロレスラーがやる、アレだろ?ケンカキック。俺とお前とじゃ10kgくらいは体重差があるだろうが、よくここまで押せるもんだ。」
「魔力も使ってるからな。お前だってそうだろ?」
「………まあな。」
ドッ、ドッ‼︎ガッ‼︎バシッ‼︎ダッ、ダッ‼︎バッ‼︎ドスンッ‼︎
そこからパンチがぶつかり、殴り合い、蹴り合う。戦術もクソもない、ただ相手の攻撃を避け、受け止め、そして攻撃する。俺もディスターもパンチやキックを何発も当て、何発も喰らう。お互い口や鼻から血が出てくる本気の闘いだ。
「オラァッ‼︎」
ドスゥッ‼︎
攻撃の隙を突かれ横っ腹に強烈な右フックを打ち込まれる。更に上段回し蹴りが顔面ヒット。
ドンッッ‼︎
体勢が崩れた所に右ストレートを打ち込まれ、今度は俺が大きく吹き飛ばされる。
「…………がはあッ‼︎き、効いたぜ………。」
強がってみせるが結構ヤバい。元々パンチなんてクリーンヒットすれば一撃で勝負を決められる。それをさっきから何発も貰っている。更に俺とディスターでは体重差がある。立ち技格闘技が体重により階級が区別されているのは体重差が大きなハンデとなる為だ。つまり、俺とディスターでは必然的にディスターが有利となる。
こりゃあ、技に頼らねぇと押し負けるな。 技と言っても、メレンみたいな柔で剛を制すみたいなモンではなく、プロレス技だが。
ディスターの左フックを躱すと同時にカニ鋏で足をとる。
「うおおッ!?」
ディスターが転び、動きだす前に足を掴み、体を捻って勢いをつけて投げ飛ばす。
ドッ‼︎
更に立ち上がり際を狙って脛にローキック。
「ッ‼︎」
痛みで怯み、体勢を崩した所で逆羽交い締めの形で組みつく。
「オラアアアアッ‼︎」
ドゴォッッ‼︎
フロントスープレックス。ディスターは背中から床に叩きつけられる。ちょっとバランスを崩したため完璧ではなかったが、下が石畳であるためかなり効いただろう。
ディスターが立ち上がる。まだまだやりあえそうだ。
「へへ、強くなったじゃねえか。火山でやった時は、全然本気じゃなかったってのによ。いつの間にか、本気ださねぇと勝てねぇくらいにまでなってやがんの。」
「………お互い、まだ武器を使ってない。本気ではあったがな。」
「そんじゃ、武器を使うぜ。本当の勝負はここからってやつだ。」
「ああ。」
ディスターが金属の小手を腕にはめる。俺も剣を抜き、構える。
「では、お互い武器を持ったところで………。」
「いざ、参る‼︎………ってとこかな?」
ガキィンッ‼︎‼︎