第182話 過去(ディスター)①
(カイン視点)
ディスターは指の関節を鳴らし、臨戦体制に入っている。
「………そうだ、教えておかなければならないな。この腕輪を見ろ。この腕輪はアイヌゼラとかいう女を繋いでいる鎖を解く為の鍵だ。」
「それを壊せばアイナさんを助けられる?」
「そう。鎖を無理矢理壊そうとすると爆発する。アーテスが言うには、あいつが死ぬには充分な威力だそうだ。つまり、アイヌゼラを助けるにはオレ達との戦いは避けられないって事。」
「その腕輪はいくつあるんだ?」
「全部で5個腕輪がある。オレ、サーリッシュ、ポーテン、チェリ、そしてクーヤが持っている。」
く、予想してたけどやっぱり副将が来てるのかよ、レリカじゃないだけまだマシか?
「お前らは………ヒノを入れると6人か?少しだけそっちが有利だな。数だけみれば。アーテスはヒノを数えてなかったらしい。5対5に持ち込みたかったみたいだが。」
「アイナさんを餌として俺達をおびき寄せ、戦わせる。あのおっさんはそれを見物………。気にいらねぇおっさんだな?」
「オレもあのジジィは気に食わんが………今はちょいとありがたく思ってるぜ。お前と戦える場所をつくってくれたからな。………話はいいだろ。始めようぜ?」
「………いや、もう少し話したい事がある。」
「………なんだ?」
「お前、本当にこれでいいのか?」
「キサマ、何が言いたい?」
「これでいいのかと聞いているんだ。リメイカーに入り、悪事に加担し、世界が滅びるのを見る。お前、それでいいのか?お前はそれを望んでいるのか?」
「………望んでいるとか、いないとか、そういう事じゃないんだ。オレ達はここでしか生きられないんだよ。レリカがオレをここに連れてこなければ、今頃どうなっていたかわからん。………だから、レリカには感謝してるんだぜ?」
「本当か?」
「しつこいな、キサマは。」
「ルーテへの襲撃、お前とサーリッシュがやったんだろ?俺達、ルーテに行ってちょっと調べたんだ。調べてみると、建物は酷く壊されていたのに、ルーテの人々は死人はおろか、怪我すらほとんどいなかった。」
「………偶然だろう。」
「違う!町の人達の何人かも言っていた。まるで傷つけないよう、人々を逃がしてから建物を壊していたみたいだったと。偶然じゃない。お前達がわざと手を出さなかったんだ。良心が咎めていたからなんだろ?」
「………………。」
「お前は確かに今リメイカーに所属している。でも心までリメイカーに売った訳じゃない。お前はいい奴だ。悪人になりきれないんだよ。今ならまだ間に合う。リメイカーを辞めろ。そしてあっちの世界に帰ろう。」
「…………無理だよ。」
ディスターがぼそっと言った。
「オレがあっちの世界に戻ったって、ロクな目にあわない。リメイカーを辞めることもできない。もう………俺はお前達みたいにはなれないんだよ‼︎!もう戻れない‼︎」
「ディスター、お前、何があった?」
「…………いいだろう。話してやる。ディスター•エルプンというとんでもないクソ野郎の話だ。」
(ディスター視点)
あれはオレがリメイカーに入る4年前の事だった。当時オレは13歳。近所の評判は悪ガキだった。仲間とつるんで壁にスプレーで落書きしたり、車にイタズラしたり、出来心で店から万引きしたりと、まあ低レベルだが不良みたいな事をしていた。
それとよくやっていたのが喧嘩。自分で言うのもなんだが、オレは相当短気で、気に入らない事があるとすぐに怒りだした。そんな訳で、常に人と衝突し、オレみたいな喧嘩っ早い奴と喧嘩していた。
オレは近所で喧嘩が強い事でも有名だった。学校の上級生に喧嘩を売られて返り討ちにする事なんてザラだった。時にはナイフを持った3人組を病院送りにした事もあった。近所のチンピラで俺を知らない奴はいなかった。
オレ自身も自らの強さに自信を持ち、ますます喧嘩に明け暮れていった。
「ディスター‼︎また喧嘩したの?駄目でしょ‼︎他の人に怪我させちゃ‼︎」
「げぇッ、トルカ‼︎」
しかし、そんなオレにも弱点があった。トルカという女だ。所謂幼馴染で、俺より4つ年上。俺の家の隣に住んでいた。色白で金髪を伸ばした、はっきり言ってかなりの美少女。ずっと昔から一緒に遊んでおり、姉のような存在だった。
「アイタタタタタ‼︎わかった‼︎わかったから許してくれよ‼︎」
「ダーメ‼︎そんな事言って、ちっとも反省しないじゃない‼︎」
オレもトルカにだけは頭が上がらず、常にこんな感じ。ずっと一緒にいて…………恐らく恋をしていた。だから逆らえなかった。
「もう、ちゃんと反省しなさいよ‼︎」
「してるよ‼︎」
「嘘よ‼︎じゃあなんで喧嘩止めないのよ‼︎」
「しゃーねーだろ‼︎上級生の不良共に呼び出されて有無を言わさず殴られるんだからよ!喧嘩やめるんで殴らないでくださいとか言ったらわかってくれると思ってんのか⁉︎」
こんなやりとりはもう何回目だろう?100回はやっただろうか?
「アンタが心配なのよ。喧嘩していっつも怪我してるんだもん。なのに全然やめないし、もしアンタが喧嘩で負けて、ボロボロにされた、とかになったら、アタシ………。」
「…………わかったよ。喧嘩やめるように努力する。だからそんな顔しないでくれよ。あ、そうだ、クレープ食いに行こうぜ‼︎こないだ学校へ行く道の先にできたって言ってたじゃん‼︎」
「…………ったく、調子いいんだから、このバカ。」
こんな感じで、喧嘩に明け暮れながらも、トルカと一緒に過ごしており、毎日楽しかった。この時のオレは、こんな日が毎日続くのだろうと思っていた。
しかし、こんなちょっと幸せな日常は、あっけなく終わりを告げる事となった。
「あ、おーい、トルカ‼︎お前に言われた通り、もう一ヶ月は喧嘩してねーぜ、どうだ、オレだってやりゃあでき………トルカ?」
突然だった。何の前触れもなくトルカがオレを避けるようになったのだ。それだけじゃない。いつも思い詰めたような顔をしている。
おかしい。何かあったに違いない。しかし、トルカはオレを避け、何も聞けない。
なら、自分で調べるしかない。その時のオレは、大好きなトルカの役に立ちたい、それだけで動いていた。
それから、オレはずっとトルカの周辺を探っていた。トルカの友人に話を聞いたり、トルカの後をこっそりついて行ったり。そうしたら、すぐにわかった。
ストーカーだ。トルカはストーカーに悩まされていた。
トルカの後をついて行く際、ほぼ必ず同じ男を見かけた。オレよりもやや堂々と後をつけている。トルカが家に入った後も、トルカの家のすぐ近くをウロウロしていた。アイツだ、アイツがトルカを苦しめているんだ。
年齢は年上。20代くらいか。とにかく汚らしい奴だった。アメリカ人にはよくある話だがかなり太っており、髪は伸ばしているというより切っていないという感じで不潔。顔はニキビとニキビの潰れた後ばっかり。顔を洗っていないというのが見て取れる。風呂にも入っていないのだろう。体が汚なけりゃ服も汚く、汚れで色がくすんでいる。正直、こんな気持ち悪い奴、他にいるのかって思った。
そして同時に、腹が立った。こんな気持ち悪い奴がオレの大好きなトルカを苦しめているのか、と。トルカは優しい奴だからきっと強く出られないのだろう。オレに相談してくれればいいのに、とも思ったが、それはきっとトルカとオレが一緒にいたらオレに危害が及ぶと思ったからだろう。本当に優しい奴だ。
待ってろ、オレが絶対に助けてやるからな。
「おい、テメェに話があるんだ。」
オレはその男を呼び止めた。これがオレの運命を大きく狂わせるなんて知らずに。