第175話 処分
………………へ?
「人造、人間?」
アイナさんが?人造人間の試作品だと?
アイナさんは呆然と立ち尽くし、メレンはアーテスのおっさんを殺気を込めて睨みつけている。
「そうだッ‼︎この世界の技術を集大成させ、わたしの頭脳と合わせ、足りない部分は魔力を補い命を吹き込んだ存在だ‼︎わたしの人生これからも長く、様々なものを創り出すだろうが、間違いなくわたしの人生の最高傑作と言えるだろうッ‼︎」
「ま、さか…………アイナさんが…………。」
キュリアちゃんも驚きを隠せない様子だ。多分皆そうだろう。
おっさんが不満そうに鼻を鳴らし、アイナさんを指差して言う。
「まあ、コイツは試作品、しかもわたしからしたら失敗作だからな。コイツは傑作じゃあない。わたしの傑作はこのチェリ………。アイヌゼラの後に造ったものだ。」
「失敗作?おいジジィ、どういう事だ?アイナが失敗?」
「だからジジィじゃないと言っとるだろうがッ‼︎失礼なガキだ‼︎この偉大なわたしに対する口の利き方じゃあないぞッ‼︎礼儀を知れッ‼︎…………質問に答えてやろう。コイツは普通の生活ができるかどうかのテスト個体だ。戦闘力は低めに設定してある。チェリと互角に戦えるのは驚いたが…………鍛えてその程度なら高が知れている。この時点で十分失敗作と言える。」
「貴方、人を何だと思ってるの⁉︎そんな、只の戦いの道具みたいな言い方…………。」
メレンがおっさんに詰め寄る。
「あぁその通りだ‼︎コイツらは戦いの道具だ‼︎凡人と変わりない物をわざわざ人の手で造って何になる⁉︎何の役にも立たんだろう‼︎?役に立たない物を造る必要なんてないんだ‼︎物を造る人間は皆役に立つ物を造ろうとする‼︎アンタらの世界でもそうだろう‼︎?」
「アイナやそこのチェリも道具じゃない‼︎さっきから物呼ばわりしたり、道具と言い放ったり、アンタは人間をなんだと思ってるの‼︎?」
「アイヌゼラやチェリが道具じゃないだと?笑わせるな‼︎道具だよ‼︎戦わせるためのな‼︎そのために造ったんだ‼︎まあ、アイヌゼラは道具ですらないがな。」
「道具ですらない、ですって?」
「そうだ‼︎道具ってのは使う人間の役に立つよう造られているもんだ。技術的な問題で上手く役に立てないこともあるが、それでも道具は役に立とうと動く。しかし、そいつは使う人間の役立たない‼︎感情があるせいでな。感情があるせいで余計な事を考え、時には使う側に損な行動をとる事もある!それが道具ですらないという理由だ。アイヌゼラが失敗作であるというもう一つの理由でもあるがな。」
怒りを噛み殺した様子でメレンが言った。
「…………と、いうことは、そこのチェリは…………。」
「そうだ‼︎チェリには感情がない‼︎ただ命令に従うだけだ‼︎こっちの方が役に立つだろう⁉︎」
感情がない?確かに、なんと言うか、生気のない感じはしていたが、まさか感情そのものがないとは…………。
「どこまでふざけてるの‼︎?感情すらないなんて…………。」
「フン!貴様のようなガキにはわたしの偉大な考えが分かるまいよ‼︎戦いの道具が戦闘を恐がったり相手に哀れみをもったりしたら戦えんだろう‼︎そうなったら邪魔なだけだ‼︎そんな事では役に立てん。」
一拍置いておっさんが言い放った。
「貴様と話していても拉致があかん‼︎本題に入ろう。アイヌゼラ。わたしはお前を処分するためにお前を探しに来たのだ。」
『!‼︎?』
全員驚愕する。
「な、なんでよ‼︎いくら失敗作と言ってもアイナは今私達と一緒にいるのよ‼︎処分なんてする必要ないじゃない‼︎」
「貴様の同意なんぞ求めてはいないッ‼︎わたしが処分すると言ったら処分するのだッ‼︎完成品であるチェリが出来上がった以上、失敗作であるそいつがいる必要はない‼︎分かるか?もうそいつは必要ないんだよ‼︎それに、失敗作が処分されずにその辺をノコノコ歩いているというのが気に食わんッ‼︎そいつを処分しなければ、この偉大なわたしでも失敗するんだと後ろ指を差される。それが嫌なのだ‼︎そいつがいなければそんな事もない‼︎」
「テメェ、いい加減に」
「チェリ‼︎あのガキを殺せ‼︎」
ヒュン‼︎
‼︎
ドガァッ‼︎
「ぐ………ああぁあッ‼︎」
メレンがチェリを警戒していなかったこともあり、メレンの脇腹に蹴りが直撃し、そのまま蹴り飛ばされた。更に蹴りで追撃される。
「メレン‼︎」
「テメェ、メレンから離れろッ‼︎斬撃、回転刃‼︎」
俺が斬撃を飛ばすも魔力を込めた蹴りで弾かれる。
「斬撃、奈落‼︎」
「斬撃、斬首‼︎」
俺とジェルスが強い斬撃を放つも、チェリはあっさりとかわす。ヤバイ‼︎メレンに当たる、散らして解除しないと‼︎
二つの斬撃が消えたとほぼ同時に俺の目の前にチェリが立つ。間髪入れずに俺の顔面に拳を叩き込まれた。
ドシャアッ‼︎
体が大きくぐらつき、視界が揺らめく。鼻血が吹き出したのがわかる。凄まじい衝撃だったがなんとか踏ん張れた。
「………アイナ?何を………?」
アイナさんが俺達の元を離れ、おっさんの隣に立った。
「…………さよならよ。メレン、皆。ほんの少しの間だったけど一緒にいてくれて礼を言うわ。じゃあね。」
「ほう?聞き分けがいいな。チェリ‼︎もういいぞ‼︎撤収だ‼︎」
チェリが攻撃をやめ、おっさんの元へと戻る、
「そんな、アイナ‼︎!どうして⁉︎」
「決まってるでしょ?もういいのよ。疲れたの。どこへ行っても迫害ばかり。暴力は振るわれる、強姦される。殺されそうにもなる。もうたくさんよ。こんな人生、いや、人じゃないから人生って言葉は可笑しいわね。とにかく、こんなのもうたくさん。何もいい事なんてないもの。それを終わらせてくれるっていうのよ。喜んで従うわ。じゃあね。メレン。もう会うこともないわ。あたしの事なんか忘れて、これからも頑張ってね。」
「そんな⁉︎嘘でしょ⁉︎そうなんでしょ?待ってよ‼︎アイナ‼︎」
メレンがアイナさんに駆け寄ろうとする。しかし………。
ドスッ‼︎
ズドンッ‼︎
「かは………ッ。」
アイナさんがメレンの腹を殴る。そして一呼吸置いて重低音と共にメレンが吹っ飛ばされた。メレンの口から血がこぼれる。
「しつこいわよッ‼︎貴女まであたしを苦しめるの‼︎?いいから放っておいてよ‼︎言っておくけど、アンタなんて大嫌い‼︎人の気持ちも考えずにしゃしゃり出て‼︎どれだけ迷惑か分かってない‼︎二度とあたしの目の前に現れないでッ‼︎わかった!?」
「そんな………アイナ………。」
「おい待てッ‼︎アイナ‼︎」
「お待ちください‼︎アイナさん‼︎」
「ノヴァール君もジュランガ君も、これ以上あたしを怒らせるんなら容赦しないわよ。下がってなさい。」
「待って、ください‼︎」
「キュリア⁉︎」
キュリアちゃんがアイナさんに向けて銃を向ける。泣きそうな上に腕も震えている。
「キュリア。そんなもの向けても無駄よ。それに向けてもあたしは撃てないでしょ?敵を撃つのと仲間を撃つのとは違うもの。」
「なんでですかぁ………なんで、自分から殺されに行くなんて………。」
キュリアちゃんががっくりと膝をつく。目から涙が溢れ出していた。
「さて、アーテス所長。行きましょう。」
「アイナさん‼︎本当にこれでいいんですかッ‼︎」
「………セプル君?どういう意味?」
「貴女は本当にこんな事を望んでいるんですか⁉︎メレンを傷つけ、俺達から離れて、死ぬ事を本当に望んでいるんで」
「しつこいんだよおぉぉッッ‼︎‼︎」
ドゴォッ‼︎!
アイナさんのキックが俺の腹に命中し、俺は大きく後ろに吹っ飛ばされ、地面を転がる。激痛で上手く立ち上がれない。
「アンタに何が分かるッ‼︎?あたしの何がわかるっていうのッ‼︎?何も知らないくせに偉そうにゴタゴタ抜かすなッ‼︎虫唾が走るッ‼︎」
「ア、イナ………さ………。」
「行きましょう。アーテス所長。場所はあそこでいいですよね?」
「ああ。行こうか。」
「待って………。アイナ…。」
メレンの呼びかけにも応じず、三人が瞬間移動で俺達の前から消える。
「アイナあああぁぁぁぁッッ‼︎」
メレンの叫び声が響きわたる。しかし、ここから消えたアイナさんには、届いてはいないだろう…………。