第174話 奇襲
(カイン視点)
都で一晩休んでから再び出発し、そこから4日経った。今の所は敵の襲撃もなく、順調に進んでいる。ただ、アイナさんに警戒は怠らないように、と言われている。………やはり、アイナさんはこれから調査するものが何か分かっているのだろう。………一体何なのだろうか。恐らくリメイカーは関係しているのだろうけど。
アイナさんは都を出発してから普段に輪をかけて喋らなくなった。事情は話してくれないし、こちらから無理に聞く気もないが、時折どこか不安そうな顔をしていた。
今はもう暗くなっており、火を囲んで食事を摂っている。食事はいつもの通り持っているパンと干し肉。歩いている途中で何か獣がいたらそいつをぶっ飛ばしてサクッと飯にするのだが、最近は出会わない。
「…………フロウさん、気づいてますか?」
キュリアちゃんが不安そうにフロウに尋ねる。
「…………はい。誰かに尾けられてますね。誰か、と言っても大体誰か予想はつきますが…………。」
探知が得意な二人は気づいているようだ。俺は意識を集中させても何も分からない。
「それって、メレン達が戦ったっていう女性か?」
「はい。気配が同じです。しかも、どうも普通の人間って感じがしないんですよね…………。」
「へ?わたしにはよくわかりませんが………そうなんですか?」
キュリアちゃんには分からないらしい。………フロウは知識や経験が豊富だから違いが分かるのかも。あと獣の鋭い感覚のおかげってのもあるのか?
「………普通の人間じゃない、というのは?」
「私にもよくわかりませんが………とにかく、普通の人間とは気配が違うんです。」
奇妙だな………、獣人とか悪魔族みたいな違い、とはまた別なのだろうか?
もしかして、アイナさんがこれから調べようとしている事と関係があるのか?
「恐らく、追って来てるそいつは、今夜中に襲ってくるでしょう。……多分、こっちに尾行がバレてるのにも気づいてるハズ。不意打ちを仕掛けてくるかもしれないけど、警報装置の魔法をかけてるから来てから構える事はできるハズ。油断はしない事ね。」
アイナさんが言った。やはり、どこか不安そうだ。本人も隠しているつもりだろうけど。
「今の所気配は常に探ってますが………探るのにも常に魔力を使いますからね………。あまり長くは使いたくないものですが。」
「解いてていいよ。さっきも言ってた通り、警報の魔法かけてるし、戦いになった時、魔力消耗してると駄目だからね。キュリアちゃんも解いて。集中力使うでしょ?」
「大丈夫でしょうか?」
「まあ、大丈夫でしょう。こっちヒノちゃん抜いても6人いるしね。警報鳴ったときに寝てない限り…………、ッ!!」
ん?何かあったのか?
ボゴォッ!‼︎
⁉︎
ドガァ!‼︎
何が起こったかよく分からないがフロウが吹っ飛ばされる。咄嗟に振り向くと、スレンダーな女性が立っていた。服や体が土まみれで汚れている。
「ま、まさかッ‼︎コイツ、地面を掘って奇襲をッ‼︎?」
そうか、警報装置の魔法はドーム状に展開している。地面の下まではかかっていない。この人はそれを知っていたのか?
「魔力回転銃弾‼︎」
「斬撃、鷹、剛‼︎」
メレンとジェルスが同時に攻撃を行うも女性の魔力盾に阻まれる。女性は瞬間跳躍でメレンの背後を取る。
「はあッ‼︎」
メレンが咄嗟に反応して蹴りを入れようとするが受け止められ、強烈なハイキックを喰らう。
「ごは……ッ‼︎」
「メレン!!テメェ、やりやがったな‼︎斬撃、スピンエッ………、………テメェ………。」
俺が斬撃を飛ばそうとするが、女性はメレンの襟を掴んで盾にする。
「やられたフリにひっかかったわね‼︎」
メレンが女性の腕を掴んでの一本背負い。女性の体が浮いた。これは決まる。
ドッ!!
「げ、着地を………。」
女性は投げられながらも着地し、投げられた勢いを利用して逆にメレンを俺の方に放り投げてきた。咄嗟にできる事はメレンを斬らないよう剣を地面に投げ捨てる事だけだった。
「ぐおッ‼︎」
「きゃあッ‼︎」
いくらメレンが軽い(小さい)と言ってもぶん投げられたら驚異的な武器となる。ハンマー投げのハンマーを投げつけられたらタダでは済まないが、あれでも7kgしかない。それより何倍も重い人体が飛んでこようものなら普通に死ねる。幸い、俺たちの場合は魔法で防げるので痛いで済むが。
にしても、メレンは30kgもないだろうけど、それにしたって片手で投げるってとんでもない事やるな、この女性。何者だ?やはり普通の人間ではないのか?
女性が互いにぶつかって体制を崩されたこちらに更に魔力弾を投げてくる。魔力弾の爆発で俺たち二人まとめて吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。
「ってェ……‼︎メレン、無事か‼︎」
「な、なんとか、ってカイン!!来るわよ‼︎」
女性が瞬間跳躍を繰り出す。足に力が入っていたのが見えたのでなんとか反応できた。横からの頭を狙うキックをなんとか両手で受け止めて掴み、ケンカキック。
ガシィ!!
げ、片手で受け止めやがった!!マズい‼︎投げられるか、さもなくば折られる!‼︎
「最大出力‼︎!」
キュリアちゃんの魔力銃の巨大な弾が女性に直撃する。女性はよろめいたが倒れはしない。しかし、力の緩んだ隙をついて俺はぬけだす事ができた。しかし、間髪いれずに女性が大きな魔力弾を投げつけてくる。
ガキィン‼︎
「フロウ‼︎」
「ちょっとは活躍しないと、面目たもてませんからね……‼︎」
女性がフロウを目標に定め、瞬間跳躍で襲いかかる。しかし、フロウはそれに対応し、攻撃を次々と受け止めた。
「な、なんて力でしょうか。防御ごと持っていかれそうになりましたよ。」
「下がって!‼︎あなた達じゃ勝てないわよッ‼︎」
アイナさんが飛び出し、女性と数発殴り合う。アイナさんもこんな馬鹿力とよく真正面から殴りあえるものだ。
女性も少し疲れているのか、アイナさんにやや押されているように見える。
「………コイツ、あたし達を倒しに来たって訳じゃなさそうね………。本気じゃない。何が目的………?」
目的は俺たちを倒す事ではないのか?しかも、本気じゃないって………。
「ただ手加減してるって訳でもないわね。まるで、動物を殺さずに捕獲するような………。」
「その通りだよ‼︎アイヌゼラ‼︎」
「!‼︎」
突然声が響く。俺たちの声ではない。低い、男性の声だ。
女性が出てきた地面が再び蠢き、男が出てきた。身長170、年齢は40から50といったところか。かなり痩せており、肌も青白く、不健康そうな印象を受ける。
「チェリ、もう戦わなくていいぞ。」
それを聞いた女性が戦いをやめ、男の隣に立つ。
「この子供たちは君の仲間かい?よく仲間を持てたものじゃあないかッ‼︎」
「なんで………貴方が………。」
「アイナ、この人の事知ってるの?」
「知ってるも何も………。」
「アイナ?君のニックネームか?それほどまでに親しくなったのか!?どうせ正体はかくしているのだろうッ‼︎」
正体?何のことだろう?
「何のご用ですか?アーテス所長。」
アイナさんはどうもこのおっさんと知り合いらしい。
「用?そうだねぇ、用だ‼︎とっても大事な用があってここに来たんだ!‼︎そうじゃなければわざわざわたしからお前に会いにきたりはしない!‼︎チェリを使って居場所を調べさせる必要もな!‼︎」
「おい、おっさん!いきなり出てきてなんだってんだよ!‼︎あんた、アイナさんの知り合いか?」
「黙ってろ!‼︎クソガキ!!わたしは話の途中で割り込んでくる奴が大嫌いなんだッ‼︎貴様もアイヌゼラの仲間か⁉︎どうせコイツの正体を知らんのだろう‼︎」
「や、やめてください所長‼︎それだけは………‼︎」
「正体?何のことですか?アイナさん?」
「カイン、詮索しないであげて‼︎」
「メレン?」
「フン‼︎そこのガキは知っているらしいな!よくも一緒にいれるものだ‼︎!」
「どういう事だ?おいジジィ‼︎アンタは知ってるっていうのかよ!‼︎」
ジェルスもおっさんに喰ってかかる。
「ジジィとはなんだ‼︎わたしはまだ46(カイン達の世界で)だぞ‼︎………まあいい。知ってるか、だと?当たり前だ‼︎わたしがコイツをつくったのだからな!‼︎」
「つくった………?アイナを?ジジィ、アンタ何言ってんだ?」
「ジェルスもやめて‼︎詮索しないのッ‼︎」
「フン、どいつもそいつも貴様の正体を知らんようだな!!では教えてやろう‼︎」
「やめてくださいッ‼︎!やめてッ‼︎」
アイナさんが懇願するように叫ぶ。アイナさんらしくない光景だ。
「やめてェェェエェェェェッッ‼︎!」
「そいつはなァ、わたしが造りだした、人造人間の試作品なのだよッ‼︎」