第173話 嫉妬
これから山場へ行くぞって感じになる前の回。ヒノ登場以降やや空気気味なキュリア視点で横道にそれます。
(キュリア視点)
あれから再び12日間歩き、わたし達は再び都に戻ってきた。旅に出る前から日常的に歩いていたとはいえ流石に疲れた。アイナさんも言動から急ぎたいというのが感じられたが、今日は解散して休む事にしたみたいだ。
それにしても、アイナさんとメレンさんは何を話していたのだろう?二人きりで話していたため詮索してはいけない事というのは察しがつくが、それでも気になる。でも、戻ってきた時のアイナさんの表情が明るくなってたように見えた。
わたしは疲れ、痛む足を引きずるように自分の部屋へと向かう。部屋に入ろうとしたその時、足が止まった。少し先を、ジェルスさんとヒノさんが歩いて行った。いつもの通りヒノさんはジェルスさんの腕にしがみついている。
正直に言って、最近面白くない。去年ジェルスさんと出会ってからずっと一緒だった。一緒に修行して強くなった。これもジェルスさんの力に少しでもなれればいいなと、そしてジェルスさんと一緒にいたいと思ったからだ。そして、ちょっと無理矢理だったけど、ついてくる事を許可してもらえてとても嬉しかった。これからもジェルスさんと一緒にいれる、と。
……………それなのに、ヒノさんと会って以降、どうもジェルスさんはヒノさんばっかり。ヒノさんが友達だと思ってた人達が悪い人だと知って大きなショックを受け、心の拠り所がジェルスさんしかいないって事は分かる。ジェルスさんもそんな気持ちを察しているのだろうということも分かる。しかし、それでもわたしはジェルスさんと一緒にいたい。二人きりになりたい。
当然、わたしの事は完全無視って訳じゃない。しかし、最近のジェルスさんは、わたしとヒノちゃんとの3人か、ヒノちゃんと二人きりなのだ。これじゃどう考えても不公平だ。
どうして?なんでわたし優先じゃないの?一年間ずっといて、本当に大好きなのに、なんで分かってくれないの?なんでついこの間会ったばかりの女の子ばかりでわたしは二の次なの?
飽きた?一年間ずっと一緒だったせいで飽きてしまったの?だとしたら、貴方はそこまで薄情な人なの?
少し離れた部屋に入っていく二人をわたしは見ている事しかできない。ジェルスさんはわたしには目もくれない。楽しそうなジェルスさんの横顔を見て、わたしは思わず泣きそうになった。やっぱりわたしの事なんてどうでもよくなってしまったの?
「…………どうかした?キュリアちゃん。」
声にびっくりして振り替えるとメレンさんが立っていた。
「…………何かあったの?泣きそうじゃない?相談に乗ろっか?」
「……………う、うう……………。」
涙がぽろぽろと零れる。
「…………まずは部屋に入ろ?話聞いてあげるから。」
わたしは背中を押されるようにしてメレンさんと一緒に部屋に入った。二人でベッドに座る。
「…………それで?…………まあ、大体予想はつくけど、話してみて。」
わたしは胸の中を全てメレンさんに話した。
「なるほど…………ね。そう思うのも最もか。アイツ、最近は本当にヒノちゃんばっかだし。」
「…………ジェルスさんは………やっぱりわたしの事を…………。」
「ううん。それは違うよ。ジェルスは貴女の事も大事に思ってる。アイツ不器用なのよ。大事な女の子二人もいるのに、二人同時に構ってあげる事ができないの。きっとアイツ自身もそれを自覚してるわ。3日くらい前、貴女やヒノちゃんが寝てる時、アイツ、フロウにヒノばっかで最近キュリアと話せてないとか愚痴ってたもん。アイツも色々と考えてるけど、ヒノちゃんがベッタリで、ヒノちゃんの相手で精一杯って感じ。でも、貴女が嫌いになったかと言うと、それは全然違う。いつも貴女の事気にかけてるのよ。口には出してないけどね。貴女がそんな風に思ってた、なんてアイツが知ったら悲しむわよ?」
「そうだったんですか…………、わたし、なんてバカなんでしょう………。」
「ま、全然構ってやれてないアイツもどうかと思うわよ?しかも構ってやれない理由が他の女の子ときた。」
メレンさんがわたしの顔を覗き込み、微かに笑って言った。
「たまには思いっきり甘えてみたら?アイツだって貴女と話したいだろうし。うん、それがいいよ。」
わたしは自分からジェルスさんに甘える、というのをどこか恥ずかしく思っていた。今までは自分からいかなくてもジェルスさんの他から来てくれたから彼に構ってもらえた。でも、ヒノさんもいるし、これからは自分からいかなきゃいけないのかな………。
「じゃ、今日早速行ってみて。」
「え?今日ですか?」
「うん。明日からはのんびりしてなれないと思うから、今のうちに、ね。ヒノちゃんは私がなんとかするから。ま、でも、まずはお風呂入ってきたら?疲れて体も汚れているだろうし。」
「………。はい。わかりました。」
「ねえ、キュリアちゃん。」
部屋を出ようとしたわたしにメレンさんが思い出したかのように話しかけてくる。
「はい、なんでしょう?」
「貴女、ジェルスの事どう思ってんの?」
「ほえ?大好きですよ?」
「…………そんじゃ、兄みたいな感じで好き?異性として?」
「……………わかりません。わたし、今まで恋をしたことないんです。だから、この気持ちがどちらなのか、よくわからないんです。でも、ジェルスさんの事大好きだし、できるだけ一緒にいたい、って思います。」
「………………そう。………言いたい事はそれだけ。さ、お風呂入ってらっしゃい。」
わたしは部屋を出て、お風呂場へと歩いていく。………明日からのんびりしていられないってのがちょっと気になる。アイナさんが行おうとしている調査は一体どんな事だろうか?そして、メレンさんは調査の内容を聞いているのかな?もしかして、二人きりで話してたのってこの事?
しかし、今はそんな事気にしている暇はない。お風呂に入った後ジェルスさんの元へ行くんだ。できるだけ綺麗にしなくっちゃ。
お風呂に入り、体を念入りに洗う。思わず鼻唄混じりになっている。それほどまでに楽しみにしていた。
お風呂から上がり、清潔な服に着替える。そしてジェルスさんの部屋へ向かう。一年間ずっと一緒にいて、同じ部屋に二人きりなんてよくあった事なのに、とても緊張している。
コンコン。
軽くノックする。反応がない。
「キュリア?」
後ろから声がしてすごくびっくりした。すぐ後ろにジェルスさんが立っている。
「あ、ごめん。驚かせた?」
「あ、えっと、いえ、大丈夫です。」
「ところでさ、ヒノ知らない?アイツ、ちょっとトイレに行った隙にいなくなったんだけど。」
ヒノさんの名前を聞いた瞬間、わたしの中で、何かが切れたような感じがした。
「………なんで………。」
「へ?」
「なんでヒノさんばっかりなんですかッ‼︎」
「え?」
「最近ヒノさんばっかりで、ずっと、ずっと二人きりになりたかったのに‼︎そしてやっとなれたと思ったのに、なんでヒノさんの名前を先にだすんですか⁉︎二人きりなのに‼︎ずっと貴方と二人きりになりたかったのに!!それがやっと叶ったと思ったのに‼︎なんで………。なんでヒノさんの名前を出すんですか………ッ‼︎なんで………、わたしじゃないんですか…………ッ‼︎なんで………。」
感情ばかりが昂ぶって上手く言葉が出ず、息を切らす。と、その時。
グッ。
ジェルスさんにいきなり抱きしめられた。
「悪かったな。キュリア。お前の気持ちも分からず………。ヒノばっかりで、お前を無視しちまってな。許してくれ。」
「………こんな、抱きしめられて謝られたら、これ以上責められないじゃないですか…………、………貴方は意外と意地悪です。」
「…………そうかなぁ?」
「そうです。…………今日は、貴方とわたしの二人きりになっていいですか?」
「…………もちろん。」
「…………嬉しいです!ありがとうごさいます!!」
「じゃ、部屋入ろっか。抱きしめてたのメイドの一人に見られてんのさっき気づいてさ、めっちゃ恥ずかしいから…………。」
………ちょっとムードが崩れたけど、まあいっか。今日は、二人きり…………。