第166話 南の町(その3)
次の日、俺が目を覚ますとメレンが俺を覗きこんでいた。メレンが俺より早く起きるとは珍しい。
「おはよ、カイン。遅かったね。」
「普段のお前はもっと遅いんだけどな。…………おはよう。」
ハンモックで寝るなんて初めてだったけど意外にぐっすり眠れたな……………。あっちに帰ったらハンモック買おうかな。
ハンモックから降りるとアイナさんはまだ寝ているがフロウは起きていた。
「珍しいですね、メレンさんは普段最後まで寝ているのに、私より早く起きてましたよ。」
「そーいや、お前はアルコール入ると寝起き良くなるよな。」
「ん?そうなの?」
「メレン、お前昨日の記憶どれくらい残ってる?」
「トルトを蹴り飛ばした時までは覚えてるけど…………なんか酷い目に逢ったような気がする。」
「…………………、いや、勝手にブッ倒れて寝たよ。」
「?」
「私は黙っておきますよ…………。」
「?」
いや、スリーパーホールドで絞め落としたとか何か言いづらいんだよね。普通男が女に仕掛けるモンじゃないし。
ドアが開いてジェルス達が入ってきた。ジェルスの両腕に女の子二人がしがみついており、なんというか…………、あっちの世界でこういう奴いたらちょっと関わるのを避けるかな。
「………これメチャクチャ恥ずかしかったんだけど。」
「ああ、そうかい。」
二人はジェルスを慕ってるからねぇ。
「あの………いい加減離れてくれないかな?」
「わたしのこと、嫌いになっちゃったんですか?」
「むー、おにいちゃんはあたしのことすきじゃないのー?」
「その質問は反則でしょ………。それ言われたら何も言い返せないよ………。」
大変だなー。そういや、キュリアちゃんは以前にも増してジェルスにベッタリだな。
「お三方は朝からお熱いようで。」
「そんなんじゃねぇよ、フロウ……………。」
…………………。
「カイン?どうかした?女の子がベッタリのジェルスみて羨ましくなった?」
「いや、そんなんじゃない。」
「本当?強がってない?私がぎゅってしてあげよっか?」
「…………いや、やめといてくれ。」
本当はしてほしいけど流石に恥ずかしい。
「………本当、朝から賑やかね。」
アイナさんも頭を掻きながら起き上がる。
「あ、アイナ、おはよう!!」
「………おはよう。珍しいわね。貴女が朝っぱらから元気なんて………。」
「なんかアルコール入った次の日はこうなるみたい。私もよく知らないけど。」
「そう………。変わってるのね、向こうの世界の人間は………。」
「いや、多分そいつくらいのモンだと思います。」
「…………あ、そう。今日はヒノの故郷について情報を集めるんでしょ?ここが故郷近くかは分からないけど…………とにかく何人かに聞いてみましょ。」
こうして7人で宿をでて町人の数名に聞いて回る。
「あの、すいません。」
「ん?何だい?」
1人目は30くらいの男性。これから畑仕事に向かうのだろう。
「この辺に鳥人間の村があるか探しているんですが…………何かご存じありませんか?」
「はぁ、知らないねぇ………。鳥人間の実物見たのも初めてだよ。」
「そうですか……………。」
この辺には無いのだろうか?
二人目。40~50くらいのちょっと丸い女の人。
「あたしが子供の頃はたま~に飛んでるハーピーを見たがもう30年(現在世界で)以上の話さ。きっと遠くから飛んできたんだろうねぇ。近くに村があったらもっと姿をみるハズさ。」
うーん、ここでも情報なしか。
「これはハズレかもしれませんね。一応目撃情報はありましたが、あれだけ昔では…………。」
フロウが呟く。ジェルスも続く。
「かもな………、無駄足だったかなぁ…………。おい、ヒノ。勝手に歩き出すな。テメーの為にここまで来たんだぞ?」
あのドヌレイ山脈にはいないのかなあ…………。だとしたら、この大陸ではないのかも。北か、南…………。もしくは、周辺の島国にある山岳地帯か…………。
その後も聞いて回ってみたが、全く成果なし。
「んー、じゃ、戻って次の候補の目星立てますか?」
「んー?もう都に帰るの?」
「いや、言っちゃアレですけど観光するんですか?こんな所を。」
フロウは口調は妙に丁寧なのに思った事をしっかり言うな…………。周りの人が怪訝な目で見ている。しかしフロウはほぼ気にしていない様子。
「いや、アンタねぇ…………。」
「本当の事だとおもうんですがねえ…………、」
「ま、ここに魅力が無いってのはジュランガ君と同意見ね。どうする?もう出発するの?」
と、その時、近づいてくる二人。
「やあ。お揃いじゃないか。………ふわぁ…………。」
「おはよー、どしたの?さっきからウロウロしてさ。」
そう。インゴー兄弟。
「そこの翼女………、なんだそいつは。訳わからんガキっぽい奴だ。テメェ等は保育士にでもなったのか?」
「どうしたん?」
「兄さんはギャアギャアやかましいのが嫌いだからねー。しかも女の子の高い声。」
「ああ、どういう状況か何となく理解できた。」
「にしてもなんで鳥人間が?滅多に他の種族と関わらないって聞いたことあるけど。」
それにジェルスが答える。
「そいつは…………、まあ迷子。俺達があちこち旅するついでに故郷がどこか探してやってんだ。そういや、鳥人間の村って聞いたことない?」
「ん~~~~、どーだったかな…………。鳥人間なんてまず合わないからねえ。」
「…………北だ。」
「ん?兄さん、思い当たる所があんの?」
「前読んだ本にあった。北の大陸、その東に小規模ではあるが鳥人間の集落があると。」
「そこは…………えーっと、山があった気がするのですが…………。北の大陸には詳しくなくて…………。」
「確かアヌッキー山脈じゃない?あたしもあんま覚えてないけど。」
「じゃ、次の目的地はそこか?」
そうなりそうだな。北の大陸かあ…………。北と言えば、リリちゃん達元気かなぁ…………。
「ん?なーんか、向こう騒がしいよ?」
トルトが真っ先に気づいた。確かにざわめく声が聞こえる。
「………………、少し嫌な感じがします。気をつけてください。」
キュリアちゃんが俺達に言った。そういやこの子はこういう気配を敏感に察知することができるんだったっけ。
「一応警戒は怠らないようにしよう。」
そして町の入り口の方に向かう。
「…………なんだ、アイツ…………。(ジェルス)」
「ああいう方は初めて見かけますね…………。(フロウ)」
「はぁ~~、でっか(トルト)。」
えーっと、見た目を説明すると、身長はおよそ3m弱。大会に出ていたテオス・レッシーをそのままでかくしたかのような凄まじいマッチョ。何を考えているかよくわからない濁った目、ぼさぼさで伸ばしっぱなしに見える不潔そうな黒髪。大木のように太い腕には鎖がついておりそれがジャラジャラと音を立てている。それにしてもでかいでかい。近くにいるおじさんが子供のように見える。
近くの人々はアイツを避けていく。やはり怖いのだろうか、キュリアちゃんもジェルスの後ろに移動した。アイツはゆっくりと歩き、徐々にこちらに近づいてくる。
俺達との距離が5mまで縮んだところで男が口を開く。
「………見つけたぞ…………ッ!!」
「ま、薄々予想はついてましたけど。奴等ですね。」
まーたリメイカーか。こんな町中でかよ…………。
「おれの名は…………バリツァー・ポーテン………。お前らまとめて…………踏み潰してやろう…………ッ!!!」