第165話 南の町(その2)
やっぱりこの二人かよ…………。いやまあ、強いってのは分かってんだけど、如何せん大会でね…………。
「…………お前達は…………。」
向こうもこちらに気付いたようだ。キュヌムがびっくりしたような声をあげる。
「あ、メレンちゃ~ん!!」
「うっわ……………。」
二人がこちらに近寄ってくる。
トルトはともかく、キュヌムは傷が増えたようだ。顔に比較的新しい傷ができている他、所々に包帯を巻いている。
「兄さんはライア・テスバに負けてから一層体を鍛えるのに躍起になってね…………。魔物と戦うのも、どちらかと言うと人々のため、というより自分のためみたいなんだ。そのせいで生傷も増えてるし…………ちょっと心配なんだよね…………。」
「お前の心配など無用だ。あんな不甲斐ない結果となって、自らの未熟さを思い知った。俺はもっと強くならなくてはいけない。」
「そんな強くなって何をするって訳でもあるまいし…………。」
「女性に負けたのが相当悔しかったんですね…………。」
「あ、君、ヨルダに電源ブッ放して女の子助けた人じゃん。カイン達の仲間だったんだー。」
「ああ、はい。フロウと申します。」
「へーえ、よろしくー。………君、多分カインより強いと思うんだけど…………。大会に出なかったんだ。」
「あーいうのは性に合わないんですよね。戦うのは好きなんですが、それを見世物にされるとなると。」
「ふーん、ところでさ、カイン。君、ヨルダとの戦いで闘技場フッ飛ばして中止させたって本当?」
「ああ、まあ…………あれ、最終的に試合じゃなくなったし。」
「よくやるねぇ…………、すっごい噂になってたよ。」
あんま目立ちたくはなかったんだけどなあ…………。
トルトがさりげなくメレンの近くに移動。
「近寄んじゃねえッ!!!」
ドグシャッ!!!
「ったく…………。」
周りの客達がざわめく。
「おい、あの子蹴りでトルトさんをブッ飛ばしたぞ。」
「あ、あの子、もしかしてメレンとかいう子じゃなかったか?」
「ゲ、試合でもトルトに勝ってたよな!?」
「………おい、メレン目立ってるぞ。」
「このクソ馬鹿が悪いんでしょ!?」
口悪くなってんな…………、本当機嫌悪いぞ、これ。
「ひ、ひどい…………。」
「もっかいアレ蹴ろっか?次は魔力込めて。いっそ潰そうか?」
「ごめんなさい許してください本当反省してますんで」
「…………有名なインゴー兄弟が、実際こんなのはね……………。」
アイナさんが幻滅したように呟いた。相変わらずシビアな人だ。
「まあ、そのように言われるのも否定はしないが…………。」
キュヌムも残念そうに溜め息をつく。うんまあ………トルトがアレだもんなあ………。ああもう、メレンにボッコボコに蹴られて床に転がってるし。
「ッたく…………。」
片付けを終えたメレンが不機嫌そうに座り直し、グラスの飲み物を一気に飲み干す。
「あれ?メレンのそれあたしの…………。」
「え?」
「ん?どうかしましたか?(フロウ)」
「あの、アイナさん、今飲んでたのって………。」
「酒じゃないわよ。」
「いや、どーやら俺達異世界の人間は新陳代謝がかなり低いらしくてここの人達にはどうという事の無いごく微量のアルコールでも酔うんですよ。」
こ、これは……………。
最初は何もないため、これは本当にアルコールが入っていないと思っていた、が5分後。
「ん~~~~~、アイナの飲んでたこれ、間違えて飲んじゃったけどおいしいね~~~~、ウェイター!!これもっと持ってこーーーーい!!!」
うわーやっちまった!!あの時(48、49話参照)以降決してよくわからん飲料飲ませなかったのに!!
この世界の人にとってあの飲み物は酒ではないため、ウェイターはメレンが酔った理由が分からず困惑している。が、
「モタモタすんじゃねえ早くしろッ!!!グラスじゃダメグラスじゃあ!!!足りないからボトルで持ってこいよッ!!!」
しかもなんか去年より酔い方が酷い気が…………。めっちゃ他の客から見られてちょっと嫌なんだけど。あ、そうだ。これ…………、言わなくていいかも…………。いや、でもなあ…………。
…………言っておくか。
「おい、キュヌム。悪い事言わねぇからさっさとトルトを」
ボグッ!!!
あー遅かったなー俺がもうちょっと早く言ってればなー残念だったなー。
「テメーいい加減あの世に行けってんだよこのクサレ脳ミソがよォーーーッ!!!」
駄目だ、怒りが酔いによって増幅されている。止めたほうがいいけど俺も蹴られるよなぁ…………。嫌だなァ。アイナさんも止めてくれないし。
「おい、フロウ。お前………アレだ。」
「ん?何でしょう?」
「トルトを安ら、じゃなくて、メレンに、ほら、首筋に電撃を当てて。」
「え?嫌ですよ。女性を傷付けるなんて私死んでもやりませんからね。」
うわ、声のトーンが本気なんだけど。
………しゃーないなー。
こっそりゆっくり近づく。ゆっくり、ゆっくりと…………。トルトが蹴られてボロボロだけど、焦らず、気づかれないよう時間をかけてゆっくりと…………。別にトルトを助けたくなくてゆっくりしてるんじゃあないよ?
ガッ!!
メレンの胴体に足をフックさせて動きを止め、首に腕を回す所謂裸絞めの状態で頸動脈(気管を絞めて落とすのはあまりにも危険性が高い。プロレスでも現在は禁止されている。)を締め上げる。スリーパーホールド。
メレンがすぐに大人しくなった(普通人間は7秒くらいで失神する)。よしよし、トルトに気を取られていたおかげで綺麗に決まったな。
「おい、コイツ大丈夫か?」
「ほー、流石大会に出てただけありますね。治療すればすぐ回復しますよ。」
「俺が回復する。下がっていろ。」
キュヌムがトルトに駆け寄って治療する。
「カインさん、アレ凄かったですね。」
「ああ。俺らの世界の格闘技の技だよ。プロレスって言うんだけど。」
「ほう、カインさんはあちらでも格闘者だったんですか?」
「違うよ。俺はただの学生。というか、あっちはこっちと全然違うから。」
どうでもいいがスリーパーホールドは俺の親父が学生プロレス時代愛用していたフィニッシュ技だった。親父に教えてもらった時も相手を危険に晒さないよう厳しく指導された。
「格闘者でもないのに何故そのような技術を?」
「んー、まあ強くなりたかったんだよ。自分なりに。」
まあ、今の俺なら魔法使えるし修行したし、あん時よりずっと強くなれてるよな。今の俺なら…………、あの時これだけ強ければ……………。
…………いや、過ぎた事だ。
「俺の弟が迷惑をかけてすまなかった。ここいらで失礼する。」
「いや迷惑なんてそんな………。あ、そういやお前ら宿はあのしっかりした所か?」
「ああ。予約を取っているが………。」
「あ、やっぱり。そこ俺らの仲間も泊まってるから。」
「ジェルス達か。わかった。」
「頑張れ!」
「え?どういう事だ?」
「行けば分かるさ。迷わず行けよ!」
「………そうか。」
多分ヒノちゃんに絡まれるから。
キュヌム達が宿へ向かう。
さ、俺達も宿に戻りますかね。
「すいませんでしたね。本当。」
「いやー大丈夫だよ。にしても変わったおチビちゃんだな、ハッハッハッ!!」
ウェイターも快く許してくれた。
俺達は金を支払い店を出る。メレンはアイナさんが背負ってくれている。さ、戻って休もう…………。