第164話 南の町(その1)
それから12日後、歩き続けてやっとこさ山脈近くの町までたどり着いた。12日間ずっと歩きっぱなしで足がだいぶ辛い。
逆に言えば道中びっくりする程何も起こらなかったのだが。またリメイカーがヒノちゃんを始末しに来るかと警戒していたが、何もなくて安心した。クーヤさんが始末を止めさせたのだろうか。
この町は広さはタスウェンより広く、かなり大きい方なのだが、あまり建物は多くない。その代わり、家の一軒一軒の庭が広く、広々とした印象だ。
「私もこの町についてはあまり知りませんが、確か農作が盛んだったハズです。個人の敷地に畑を持っているだけではなく、大規模な畑を大人数で育てて都などに出荷しているようですね。でも今は収穫シーズンを越えたので出荷は行われていないようです。」
「正直、都や襲撃前のルーテと比べると、どうも田舎なのは間違いないわね。この辺は土壌の質がいいから、ここで農作を行うために町をつくったみたいだけど。」
フロウとアイナさんの簡単な解説が入る。この辺は海もないし、農作をしているのは予想がつく。家の庭を見ると、一角に畑を所有していた。フロウの言っていた通り、今は種まきか休耕期だろうか。
「あー、イリナさんの家の畑の手伝いしたのを思いだしますよ。鍬結構重くて畑一面耕すのって体力いるんですよねぇ。」
「ちょくちょく鍬で頭ブン殴られてたよな。」
「いやー、あれから50日くらいしか経ってないのにえらく昔の事に感じますねぇ…………。」
フロウが感慨深そうに遠い目をしている。フロウも女性達、特にシニアさんとルルカちゃんと離れた事に色々想う事があるのだろう。
「ねえ、そういやさ、フロウはなんでカインについて行こうって思ったの?」
メレンがフロウにたずねる。ジェルスも続く。
「確かに。強いとはいえ一般人だしな。」
「他人から見れば結構くだらない理由ですよ?それでもいいなら今夜宿屋ででもお話し致しますが。」
まあ、追放されてついてきたんだもんな、コイツ。しかも、その原因ナンパとセクハラだし。
「さて、どうします?鳥人間の情報を集めますか?」
「いや、今日のところは休んでいいだろう。キュリアやヒノもだいぶ疲れてるし、ゆっくり休んで明日からやればいいんじゃないかな。」
「まあ、急ぐものでもありませんからね。じゃ、宿屋を探しましょうか。」
しっかし、のどかな場所だな。住むには不便そうだけど、観光として訪れるには悪くないかも。リリちゃん達の住んでる森の集落と違って過ごしやすい環境だし。
宿屋に着き、部屋を頼むと、1部屋しか空いていないという。小さい宿屋で3部屋しかなく、今使われているのは1部屋なのだが、予約している者がいるというのだ。どうやら2人で使っているらしい。
「どうします?いくらなんでも7人で1部屋はないと思いますが。」
「すいません、この町ってここ以外に宿屋とかないですか?」
「あると言えばありますが………ここから少々遠い上にあそこはちょっと…………。」
受付の若い男性が言葉を濁す。
「………まあ、場所だけでも教えてください。」
と、いう訳でここから西へ少し歩いてもう一つの宿屋にたどり着いた。とりあえずドアを開く。
「おおぅ…………。」
あの男性の“ちょっと………”と言ってたのがネガティブキャンペーンではない事を思い知る。この宿屋は簡単に言えばワンルーム。そしてハンモックがたくさんならんでいる。以上。
いやー、本当にただ寝るだけ、って場所だね。多分飯もでないよ、ここ。
しかし利点が全くない訳でもない。
代金が安い。格安。あっちの宿屋の5分の1。
受付のやつれたお姉さん曰く、旅人もそこそこここに泊まるらしい。
うーん………警戒の加勢の礼金でそこそこもらって余裕あるけどどうしようかな?
「あっちの宿を利用するとしたら誰にするか、ですよね。2人、ちょっと無理して3人てとこですか。」
それに対してアイナさんが言った。
「…………じゃ、キュリア、ヒノ、もう一人入れるとしたらメレンでいいんじゃない?この子達が一番疲れてるようだし。」
「あたしはおにいちゃんといっしょがいいな~。」
「あの………わたしも、ジェルスさんと…………。」
「じゃ、私ハンモックでいいよ。ジェルス、行ったげて。」
「ん?いいのか?じゃ、お言葉に甘えて。」
「じゃ、この3人ね。お金は…………はい、これ。」
ジェルスが金を受け取って女子二人を連れて宿屋へと向かう。
「じゃ、あたし達は寝る前に晩ご飯でも食べに行きましょうか。流石に十何日もパサパサのパンと干し肉じゃちょっとね…………。」
と言う事で近くにあった料理店へ。因みにジェルス達は宿屋で食事が出る。
ここの料理店は町人もそこそこ利用しているようで結構賑わっている。お酒も取り扱っているようでカウンターで飲んでいる人もいる。
テーブルに着くが、どれがどんな料理なのかわからないため、オススメを頼む。メレンもそれに続く。フロウとアイナさんはメニューを見て食べたい物を頼んだようだ。
俺とメレンには肉をソースで煮込んだような料理とヨークシャー・プディング(イギリスで肉料理の付け合わせによくでてくるシュークリームの皮のような料理。カスタード・プディングとは別物。)のような料理がでてきた。
フロウは肉のローストを薄い小麦粉の粉で巻いた料理、アイナさんは魚をまるごと揚げてソースをかけたような料理を頼んでいた。
「アンタ達、旅人かい?」
料理を持ってきた中年のウェイターが気さくに聞いてくる。
「まあ、そんなモンっすかね。」
「最近はこの辺も魔物が多くなってね。特にドラゴンが近くに巣を作っちまったりして不安だったんだ。」
「そうだったんですか?それにしては………。」
「ああ。今は安心さ。何たって魔物ハンターが訪れてくれたからな。ドラゴンもすぐ退治してくれたんだぜ。今もまた別の魔物を退治しに出掛けているんだ。早ければもうそろそろ帰ってくるかもな。」
「そうなんですか…………。」
そう言いながら肉を一口。………ワインベースにいくつか果物と玉ねぎも使ってるのかな、このソース。甘めで肉によく合っている。肉も柔らかく煮込んであるぞ。
「その魔物ハンターってどんな方なんですか?」
「ああ、双子であちこち旅してハンターの報酬で生計を経てているんだと。片方は血の気が多そうでもう片方は落ち着いた雰囲気だったな。」
ん?聞いた事あるぞ、その二人………。
ガチャ。
ドアが開いて一拍置いて歓声が挙がる。そしてメレンが嫌そうな顔になる。
このメレンの顔みて確信できたけど一応確認してみるか。振り向く。
「やっぱり…………。」
その双子は、インゴー兄弟。闘技大会に参加していた二人だ。