第150話 カイン対ヨルダ(その2)
ドタアアアアアッ!!!
ドラゴンスクリュー、相手の蹴り足を腕と脇腹で抑え込み、自ら回転して相手の体を地面に叩きつける技。ケージ・ムトーがノブヒコ・タカダに放った際に足の靭帯を断裂させ、そのままフィニィッシュに繋げた。どうやら、コイツにも同じ事が起こったらしい。
「うがああああああッ!!!テメェ、なにしやがっ、アアアアアアッ!!!」
「はぁ、はぁ、よーし………、形勢逆転、てところかな?」
右足を抑えてもがくヨルダ。
「立て。降参なんかさせねぇ。」
「誰が降参なんかするか…………ッ」
ふらつきながらも立ち上がるヨルダ。だが靭帯断裂はギプスと松葉杖を使う程の怪我だ。こんな状態では戦えるハズはない。
こんな状態の奴を叩きのめすなんて自分でも善人がやる事ではない、とは思う。しかし、コイツは許せねぇ。絶対にぶちのめすと決めたんだ。
ドッ、ガッ、ドスッ!!!ドカッ!!!
ふらふらと近づいてくるヨルダの顔、右腕、脇腹と三連続でブロー。からの回し蹴り。靭帯をやられているヨルダはぶっ倒れる。
「立て。」
「クソォ……………ッ」
「立てないのか?じゃあ立たせてやるよ。」
ヨルダを引っ張って無理矢理立たせる。
「歯ァ食いしばれよッ!!!」
ドゴォッ!!!
顔面に右ストレート。鼻に直撃し、奴から鼻血が流れる。多分折れてはいないだろうけどかなり痛そうだ。
「クソオオオオッ!!!もう試合なんて知るかよオオオッ!!!」
ヨルダが封魔石の腕輪を放り投げ、断裂した足を魔力で治療する。魔法をもってしてもすぐ治るものではないが最低限の治療だろう。
「オラアアアアアッ!!!死ねえええええッ!!!」
魔力を込めたパンチをなんとかかわす。
「よ、ヨルダ選手ッ、魔法は反則ですッ、治療に、魔法で攻撃までして、反則負けになっちゃいますよッ!!?」
「うるせえええええッ!!!」
ドガアアアアアッ!!
実況の人に向けてヨルダがエネルギー弾を放つ。その近くの足場ごと吹っ飛ばした。近くの観客が悲鳴をあげ、それから観客達が我先にと逃げ出していく。客席は大パニック。誰か一人が転んだのか、バタバタと多くの人が転んでいく。
実況の人は、エネルギー弾をマトモにくらい、何とか息はあるようだが、意識は無いようだ。
俺も腕輪を外し、ポキポキと指の関節を鳴らす。
別次元から取り出したのか、ヨルダはメイス(棒の先端に石などを取り付けた打撃武器)を持っている。
「フロウッ!!!」
「わかってます!!!そんな事もあろうかと、貴方の剣、保管庫から持ってきておきました!!!」
「サンキュー!!!」
フロウが人混みにもまれながらも俺の剣を放り投げて寄越す。俺は剣を取り、鞘から抜いて鞘を投げる。
「テメェ…………フォニカさんに、メレンだけではなく………一般人にまで…………。」
「どうした?あんな奴等、一人や二人、何になると?あんなのが怪我をして………ましてや死んだとしても、俺達が造る世界には、何の影響も無いんだよ。居ても居なくても変わらない。なら死んだって構わない。違うか?」
「テメェ………………ッ!!!」
俺は剣を強く握り、魔力を込める。
「ふざけてんじゃねえぞッ!!!斬撃、回転刃、剛!!!」
ヨルダは斬撃をあっさり回避。だがこれはブーメランだ。
「甘いな。」
ヨルダは戻ってくる回転刃も回避した。コイツ、斬撃が戻ってくるのを知っていたのか………?
「貴様、ゲリズにもその攻撃をしていただろう?クーヤから聞いたぞ。」
チッ、ばれていやがった。
「オラアアアアアッ!!!」
振り回されるメイスをかわす。よし、やはりドラゴンスクリューのダメージが色濃く残っている。
ガッ!!
ヨルダの右足(断裂した方の足だ)を蹴ってバランスを崩し、胴体への蹴りで体勢を崩させる。
「斬撃、散弾!!!」
ズドン!!!
「散弾!!散弾!!散弾!!散弾!!散弾ォッ!!!」
散弾の至近距離からの連射を受け、ヨルダが吹っ飛んだ。
「斬撃、奈落!!!」
「クソオオオオッ!!!」
ガキイイインッ、ドオオオオオン!!!
斬撃はヨルダのメイス(恐らく魔力込み)で弾かれた。弾かれた斬撃は柱に命中し、柱を吹っ飛ばす。客席から遠く、やっと通路近くまで来た観客が悲鳴をあげる。もはや観客はほとんど残っていない。客席にいるのは逃げ遅れて現在進行形で逃げている客と、メレン、ジェルス、フロウ、アイナさん、キュリアちゃん。あと、客席の隅にフードを被った男が立っている。アイツ、肝座ってるな。
さて、そろそろ終わらせよう。奴は大ダメージを受け、もうフラフラだ。むしろ、ドラゴンスクリューにパンチキック数発、斬撃散弾を6発もらってまだ立てる事に驚きなのだが。
「喰らいやがれえッ、飛行衝撃!!!」
あれは、メイスを振り回した際の破壊力を魔力によって飛ばす技か。斬撃飛ばしの打撃版、といったところだろう。
走って接近しながら剣に魔力を込める。
ガキイイイイイイインッ!!!
打撃の軌道を剣で弾いて剃らす。代償として剣が折れたが予備がある。剣を投げ捨てそのままヨルダへと接近。足に魔力と怒りを込める。
「オオオオオオオラアアアアアアアアアアアッッ!!!!」
ドガアアアアアッ!!!!
渾身のケンカキックが顔面に決まる。
ドサアッ。
ヨルダが倒れる。白目を剥き、気絶している。
「勝負あり、だな。」
俺は疲れでその場に座り込んだ。いままで気にならなかったが、剣が折れた時の細かい破片のせいで小さな傷が無数にでき、ズキズキと痛み始めた。
「お疲れ様です。カインさん。」
「やったね。カイン。」
「あの、怪我は大丈夫ですか?」
「フォニカさんの仇、とれたな。」
フロウ、メレン、キュリアちゃん、ジェルスと次々と俺に駆け寄る。
「ああ。勝った!」
ところで、観客皆逃げて、実況は重体、試合場はあちこち吹っ飛んでるし、大会はどうなるんだ……………?
と、その時。観客席の隅にいたあの男がヨルダに近づいていくのに気づいた。
「おい、テメェも、まさかッ!!!」
「強くなったじゃねえか、カイン・セプル。ヨルダに勝つなんてよ。」
男がフードを脱いだ。
「お前……………ッ、あの時の……………!!!」
俺より長い黒髪を一つ結びにした男。間違いない。
「ディスター・エルプンッ!!!」