第147話 剛腕
(ジェルス視点)
フォニカさんは意識がはっきりしない程の大怪我だが、幸いにも2日で治るくらいの怪我らしい。よかった。これで一安心。
さて、もうそろそろカインの戦いが終わるかな?今度は俺の番だ。闘技場へ急ごう。
俺が闘技場に辿り着いた時、丁度カインの試合が終わり、次の試合の準備に入っていた。
試合場前の通路でキュリアが律儀にも待っていた。
「あ、ジェルスさん!!フォニカさんは…………」
「大丈夫だったよ。2日で治るってさ。カインの試合どうだった?」
「カインさんの勝ちでした。相手の女の人を傷つけずに場外にさせて……………。」
「フッ…………、そうか。」
優しい奴だ。俺がアイツの立場だったら勝つ為に躊躇なく殴っていたかもしれない。………単に女性に弱いだけか?
「えーっと、ジェルスさん、対戦相手は…………。」
「ん?名前が…………何だったっけ…………、うーん………、………ハゲでいっか。あの筋肉モリモリ、マッチョマンの。」
「おうおう、他人をハゲ呼ばわりとは、調子に乗ってるんじゃあねえか?」
噂をすればなんとやら。身長は俺よりやや低いくらいだが、その体には筋肉がぎっしりと搭載されており、凄まじく太い手足はまるで丸太。さっきアルビスを倒した、…………名前思い出せない…………。
「ああ。丁度よかった。おいハゲ。名前何だったっけ?」
「馬鹿にすんじゃねーッ、テオス・レッシー様だッ!!」
「ふーーーーん…………。」
「………………。」
「………………。」
「テメーから聞いたんだから興味無さそうにすんなよッ!!」
「叫ぶな、この子が怯える。」
テオスがキュリアにチラッと目配せする。キュリアはこういう男は苦手なのか俺の後ろに隠れるように少し移動した。
「何だそのガキは、年は離れているようだが…………妹か?」
「俺の祖父の従兄弟の妹の娘の祖母の兄の息子の孫(もちろん嘘)。」
「へ?何ですかそ」
「いいから合わせて!(超小声で)」
「そ、そうです!!祖父の(中略)孫です!!」
「な、何だそりゃ………とりあえず、遠い親戚って事だな?」
やたらと回りくどく言ったが、俺の祖父の(中略)孫は俺の妹にあたる。よく考えたら分かるのに…………。
「それでは、選手のお二方は入場してくださいッ!!」
「あの………怪我しないでくださいね。」
「ああ。いってくる。」
そして定位置に移動。
「さて、第三試合!!!方や兵長を倒した少年、ジェルス・ノヴァールッ!!方や鋼の肉体でアルビス殿を粉砕したテオス・レッシー!!身長の差はほとんどありませんが、その体つきには大きな差がありますッ!!どのような戦いになるでしょうかッ!!」
そういやこの実況、魔導石の拡声器でやってるから外まで声聞こえるんだけど、何かカインとライアの試合が唯一マトモとか言っていた。そんなに嫌かなあ、この対戦カード。…………ま、いっか。
「それでは第二回戦、第三試合…………始めェッ!!!」
ドォン!!!
「…………にしてもアンタ、スゲェ体だなあ。何やってここまで鍛えたんだ?」
鑼が鳴ったがそんな事はお構い無しに俺はテオスに話しかける。
「フン、どーだッ、この丸太の様な手足!!!何年もかけて徹底的に鍛えあげ、ついに手に入れ」
ドゴォッ!!
「き、汚ぇーーーーッ!!!ジェルス選手、自分から話しかけておいて話を放って顔面キックだーーーーッ!!!」
いや、だって、試合始まったのに話に耳を貸すから…………。
「さっきはあんなにいい勝負をしていたのにッ!!!なんという奴でしょうかッ!!!」
さっきから何か本音出てるぞ。フォルス兵長のアレは兵長があんな状況じゃなかったら今みたいにする予定だったるだけど…………。
「て、テメェ…………卑怯だぞ……………。」
「は?鑼は鳴っていた。俺は規則違反なんてやっちゃあいない。どこが卑怯だと言うんだ?え?」
「この、ふざけやがってッ!!!」
「あ、お前の名前何だったっけ?」
「テオス・レッシーだーーーーーッ!!!」
テオスの攻撃を避け、受け止め、合間合間に攻撃を挟んでいく。これは先程ライアがキュヌムにやっていた挑発して怒らせ隙を作るという奴だ。キュヌムの場合はトルトのおかげでこれを乗りきったが(まあ負けたけど)こいつは完全に頭に血が登っている。
「オラッ、オラーッ!!!テメェ、ブッ殺してやるーッ!!!」
力任せに放たれるパンチをかわして腹に膝蹴りを喰らわせる。それにしても体を覆うブ厚い筋肉のせいか、スゲェタフネスだな。さっきから結構当ててるが、あまり効いてないようだ。
ガシッ!!!
テオスのキックを受け止め、がっしりと掴む。
「オオオオオラアアアアアァァッッ!!!」
そのまま体を捻り、その反動を使ってブン投げる。
「な、なんと、筋肉のおかげで90kgは越えていそうな体を投げ飛ばしたぁーーーッ!!!」
ビタアアアァァ!!!
テオスの体が地面に叩きつけられる。これでどうだ…………。
しかし、テオスは少し痛そうにしているが、大した怪我ではなさそう。
「へぇーッ、頑丈な体だな………。」
まさに鋼の肉体と言ったところか。
グォン!!!
な、速いッ!!!
ドゴォッ!!
胴体にパンチがモロに入る。
「テメェ、よくもやってくれたな…………。」
更にテオスのパンチが次々と飛んでくる。
「ほらほら、どうだぁ!!!この腕のパンチは!!!」
「ああっと、テオス選手の猛攻ーーーッ、これは厳しいかーーーッ」
「これで、トドメだッ!!!」
ブォンッ!!!
ガシイッ!!!
「なッ……………。」
「甘い……………ねぇ。こんなの、あの熊達に比べたら…………。」
そう。俺は一年間山で戦ってきた。
毎日傷だらけだった。時には休養を余儀なくされる大怪我を負った事もあった。怪我したキュリアを片手で背負い、片手で戦った事もあった。何度か死を覚悟した。
それを乗り越えたんだ。こんな野郎、何て事はない。
ドゴォッ!!
腕を掴んだまま腹に膝蹴り。怯んだ隙に再び投げ飛ばす。
ドタアアアッ!!!
地面に叩きつけられたところをすかさず腹にストンピング。
「ぐはあっ…………。」
更に怯んだところを引きずり起こして顔面を思いきり殴り飛ばす。
ドカアッ!!!
まだ倒れない。一般人ならとっくに気絶するくらいだが凄まじいタフネスだ。なら、これならどうだ!!
ドガアアアアッ!!!
相手の腰辺りに腕を回して掴み、大きく後ろに反り返って相手の頭を地面叩きつける、ジャーマン・スープレックス。
さて、これで……………。………いや、
「う……………おお……………」
まだ立てるのか……………ならば……………。
…………ん?
「……………ぐはぁッ!!!」
ドサアッ!
テオスがこちらに殴りかかろうとして力尽き、倒れた。
「勝負ありッ!!勝者、ジェルス・ノヴァールッ!!!」
ワアアアアアアッ!!!
よし、勝った……………。結構ダメージもらったが……………。
通路に戻るとキュリアが出迎えてくれる。
「あの………大丈夫でしたか?」
「ああ。大丈夫さ。あれくらい…………うっ!!!」
流石に…………ダメージがあるな……………。魔力による回復は禁止だ。次までゆっくり休まねぇと…………。