第145話 怒り
すかさずフロウが闘技場に飛び込み、ヨルダへと近づいていく。その手には既に雷槍を形成し、構えていた。
「おいおい、アンタ。こりゃあ試合だぜ?いくら対戦相手が酷い目にあったからって、闘技場の中に入り、ましてや攻撃するなんて」
「ふざけないでいただきましょうか。既に勝負は着いていました。審判も勝負ありと仰っています。なのに貴方は攻撃を止めなかった。これはもはや試合ではありません。なので乱入させていただきました。」
いつもの軽い口調とは違う。丁寧だが怒りの籠った声色。あの時と同じだ。フロウが本気で怒っている。
「調子に乗りすぎですよ。」
ビュンッ!!
「うおおおっ」
フロウが雷槍をヨルダに向かって投げる。ヨルダはなんとかかわし、雷槍は壁に当たって弾けとんだ。黒煙と焦げたような臭いが広がる。
「おいおい、本気かよ!!?俺は選手だぞ!!それに魔封石つけてんだぞ!!」
「関係ありません。貴方は無闇に女性を傷つけました。試合なら百歩譲っていいとしても、試合でないなら……………。」
フロウが手をかざす。
ドガアアアアアアッ!!!
その手から稲妻が走りヨルダを襲う。なんとか直撃は免れたようだ。
「容赦は致しません。」
「おい、フロウ。相手は一般人だぜ、そんなにしたら…………。」
「一般人じゃありませんよ。“奴等”の一人です。」
「なッ……………!!!」
「さっきピアスを見たらあの模様がありました。間違いないでしょう。」
クソ、リメイカーか!!!早く気づいておけば……………!!!
「ちょ、ちょっと、貴方!!いくら酷い事をしたからって、選手にそんな事…………。」
実況の男性が声を張り上げる。事情を知らねえからなあ……………。
「……………分かりました。ここは身を引きましょう。カインさん。」
「ああ。分かってるよ。俺がコイツを準決勝でブチのめしてやる。」
「へっ、できるかな?」
それだけ言ってヨルダが退場していった。
「フォニカさん!!フォニカさん!!!しっかりしてください!!!フォニカさん!!!」
ジェルスがフォニカさんの元へ駆け寄り、声をかける。フォニカさんは致命傷ではなさそうだが、弱々しく息をするばかりでジェルスへ返事ができない。身体中血を流し、右腕が折れ、非常に痛々しい。
それを見て俺の心の奥底に沸々と怒りが沸いてきた。あの野郎。絶対に許さねえ。俺が直々にブチのめしてやる。
「は、早く病院へ!!担架、担架を!!!早く!!!」
フォニカさんが担架で運ばれていく。ジェルスとメレンはそれについて行った。
俺は闘技場から通路へと移動する。まずはこの戦いに勝たないといけない。
「さっきのを見てたわ。できるなら負けてあげたいけど…………そういう訳にもいかないから。ごめんね。」
「大丈夫です。貴女がわざと負けなくたって俺が勝ちますから。」
通路に一足先に待機していた女性。俺の対戦相手である、ライア・テスバさんだ。