第142話 体格差
(メレン視点)
さて、とうとう私の番だ。相手はシリス・ダルエ。入場の時にも一際目立っていたあの大きな男だ。
「なあ、メレン。本当に大丈夫か?相手はあんな奴だし…………魔法だって使えないんだぜ?」
「何よ、心配してんの?」
「当たり前だろ。」
素直な奴だ。私もカインが試合の時は内心凄く心配してたけど、口では嘘を言っていた。
「大丈夫だって。一年間修行したんだから、あれくらいサクッと倒してみせるから。」
「でも……………。」
カインの心配も最もだ。体格があまりにも違う。格闘競技において体格差は大きなハンデだ。ボクシングやレスリングで体重ごとに細かく階級が分けられているのがその証拠。たった数キロ違うだけで有利不利が大きく決まる。
たった数キロでさえ大きな壁なのに私とシリス・ダルエはどれ程の体重差があるだろうか。
そんな事を考えていると通路の向こうからシリスが歩いて来た。改めて見ると本当にでかい。アンドレ・ザ・ジャイアント(人間山脈と呼ばれたプロレスラー。身長223cmの圧倒的な巨体を有していた)そっくり。体についている肉は全盛期のアンドレ(全盛期のアンドレの写真を見た事がある。)より多い。目測だが身長は240cm、体重はよくわからないが300前後はあるだろう。アンドレだって250キロ越えてたって聞いたし。
私の身長は134cm。体重は(秘密)kg。普通に考えれば絶望的なんて言葉が生ぬるい程の差だ。
「ハハハハハハッ!!!気分がいいぜ!!一回戦勝ち抜けだもんなあ!!!」
シリスが私を見て大きく笑う。既に勝った気になっている。まぁ、当たり前だろうけど。
「あら。強気なのね。」
「へーッ、当たり前じゃねえか!!お前のようなチビッ子だぞ!?負ける訳ねーだろッ!!!」
完ッ全に舐めきっている。なおさら負ける訳にはいかない。こういうの私大ッ嫌いだ。
「それではッ、入場してくださいッ!!!」
「気をつけろよ、メレン。」
「言われなくとも。」
私とシリスは闘技場へと入っていく。
「シリス・ダルエ!!!デカイッ!!!この一言に尽きますッ!!!この大会の参加者の中で最大ッ、その丸太の如し手足で殴る、蹴る、その破壊力は安易に想像できるでしょうッ!!!」
ワアアアアアアッ!!!
「デケエエエエエッ」
「メレン・マチル!!!見た目だけではどう考えてもこの大会には相応しくないように思えますッ、しかし、予選の成績はトップクラス!!!一筋縄ではいかない戦いを見せてくれるでしょうッ!!!」
ワアアアアアアッ!!!
「可愛いーーーーーッ」
「さて、今大会での最大の選手と最小の選手との戦いですッ!!!この体格差をどうするか、それがこの勝負のカギとなるでしょうッ!!!」
体格差、ね。一般的に巨大な選手は膝に負担がかかっていることが多い。まず狙うならここだろうか。ま、無理なら最終手段があるけど。
「ノックアウト、ギブアップ、場外により勝負が決します!!!それでは、一回戦第七試合……………、始めェッ!!!」
ドオン!!!
「ヘッ、チビちゃん!!!お前を倒すなんて一撃だがよ、それじゃああまりにも面白味がねえ!!!」
「………………で?」
「一分間だ!!」
「私に時間をくれると?」
「そうだ!!!一分間、オレは何の出だしをしねえ!!!どうせ無駄だが、精一杯抵抗してみろッ!!!」
「あら、そう。」
「おおっと、シリス選手、メレン選手にハンデを与えたッ」
馬鹿ねコイツ。
ドッ!!
膝に向かって回し蹴り。
「ヘッ、そんなモンか?」
うわ、やっぱり効いてない。魔力も込もってないから当たり前か。
ガッ!!バンッ!!!ドッ!!!
更に足に蹴りを浴びせるが、シリスは全く動じない。例えるなら、2tトラックのタイヤを蹴るような感じ。
「ハハハハッ!!!無駄だなあッ!!!」
もうそろそろ30秒か。そろそろやるか、アレ。
ドガッ!!!
「グアアアアアアアアアッ!!!!」
シリスが悶絶して膝を着く。
「う、ウワアーーーーーッ、ひ、酷いッ、これは酷い!!!メレン選手、相手が抵抗しないのをいい事に全力で急所を蹴りあげたーーーーーッ!!!」
そう。どんなに鍛えた肉体でも鍛えられない部位。そう。あそこだよ。
膝をついたシリスの喉元に手刀を叩き込む。喉なら流石に効くでしょ。
「アアアアアアッ!!!」
シリスがドサリと倒れこむ。気絶はしてないけど、もう戦闘不能でしょ。
「降参する?しなければ…………。」
シリスのアレに足を向け、蹴りを入れる姿勢をとる。降参しなければ、もう一度やるぞ、という意図を込めて。
「わ、わかった!!!降参だッ、助けてくれえッ!!!」
はい、一分経過。
「しょ、勝負ありッ!!!勝者、メレン・マチル!!!な、なんともえげつないッ!!!見た目から想像もつかない悪役っぷりですッ!!!」
私は闘技場から退場する。
「ね、心配なかったでしょ?」
私は待っていたカインにそう言って闘技場を後にした。