第139話 衰え
俺とメレンが客席に戻る途中、白髪の多い優しそうな老人とすれちがった。アルビス・カーンだ。
「ほう、セプル君。いい戦いだったよ。」
「俺を知っているのですか?」
「ああ。君だろう、フォルス君に組手で圧倒したのは。聞いていた通りの強さだった。見事な戦いだったよ。」
「?兵長さんとお知り合いなのですか?」
「ああ。あの子は後輩みたいなものさ。」
「アルビス殿!!」
そこへフォルス兵長が走ってくる。兵長はアルビスさんの前で止まると敬礼をした。
「おお、フォルス君。見送りかい?」
「はい。いまだに実力は健在で…………うらやましい限りです。」
「ハハハッ!!ちっとも健在ではないよ。昔よりも全く動けなくなったし力も落ちた。こういうのも久しぶりにいいかと思って参加してみたが、まさか本選にいけるとは思っていなかったよ。相手が良かったな!ハハハッ!!」
「いえいえ、そんな…………。」
「兵長さん。この方は…………。」
「お名前はもう知っておられるでしょうが、この方はアルビス・カーン。我らが東の兵団の2つ前の兵長であられた御方です。」
「そういう事だ。以後よろしく頼むよ。」
「あ、よろしくお願いします。」
2つ前の……………確かに腕の筋肉とか逞しい。
「さて……………自分でも行けると思っていなかった予選だが…………出るからには勝ちたいな。まあ、頑張ってくるよ。」
「はい。御武運を。」
俺達は客席へと戻る。そういやメレン喋ってなかったな。今思えばコイツ気を許している相手以外とはあまり話さない気がするな。普段明るく振る舞ってるから社交性高いイメージあってちょっと意外だけど。
「カイン、あの人、めっちゃ強いよ。間違いない。」
「だろうな。見た目は優しそうだったが、雰囲気が普通の人と違うというか…………とにかくただ者じゃねぇな。」
俺達が客席に戻ると皆が拍手で迎えてくれる。
「おめでとうございます。まあ、余裕でしたね。(フロウの台詞)」
「おめでとうございます!!流石ですね!!(キュリア)」
「降参させて勝つなんて、優しい奴だね。(ジェルス)」
「おめでと!!やったじゃん!!!(フォニカ)」
「ああ。ありがと。」
アイナさんは予想通りというか無反応。
「それでは、第五試合に出場するお二方は入場してくださいッ!!!」
ワアアアアアア!!!
「アルビス・カーン!!!かつてこの大陸で兵を束ねていた兵長ですッ!!!兵は30年(俺達の世界で)前に引退しましたがッ、この予選を上がってきたため、実力はいまだ現役と言えるでしょうッ!!!長い間見れなかった戦士の強さ、見せてくれるのかーーーーーーッ!!!」
ワアアアアアア!!!
「テオス・レッシー!!!見てくださいッ、彼の肉体ッ、彼の筋肉ッ!!!一日何時間鍛えたらこうなるんだッ、正に鋼に覆われた体ッ!!!攻撃はもちろんの事、鍛えぬかれた肉体は生半かな攻撃は受け付けぬ鎧ッ!!!これは期待できそうですッ!!!」
ワアアアアアア!!!
「なんてムキムキなんだッ、アイツ!!!」
ここでテオスがアルビスさんに話しかける。
「なあ、ジイさん。全盛期のアンタの噂はよーく知っている。だがアンタは老いた。それはアンタもよくわかっているだろう。悪い事は言わねえ。降参した方がいいぜ。いい年してでしゃばって、もう世代交代してもいいだろう。」
「ほう。わたしを気遣っているつもりかな?ならば心配はいらん。この身は確かに衰えたといえど、君を倒すためにこの舞台に立ったのだ。全力でやらせてもらおう。」
「ほう。そうかい。後悔するぜ。」
「しないさ。自分で決めた事なのだから。」
「ノックアウト、ギブアップ、場外により勝負が決します!!!それでは、一回戦第五試合……………始めェッ!!!」
ドォン!!!
鑼が鳴ると同時にアルビスさんが仕掛ける。一気に距離を詰めて腹に蹴りを放つ。
「な………………ッ」
「俺の体は例えるなら鋼だ。衰えた力には負けねぇよ。」
ドゴォ!!!
「テオス選手のアッパーーーーーッ!!!」
ガッ!!!
「おおっと、テオス選手、アルビス選手の喉を掴むーーーーーッ」
ブワッ!!!
ズドン!!!
「持ち上げ叩きつけたァーーーーーッ、大丈夫なのかーーーーーッ!!!」
「言ったろ、後悔すると。」
ドゴォ!!!
顔面に下段突き!!!アルビスさんはもう動かない。
「しょ、勝負ありッ!!!な、なんて事だッ、かつて英雄と呼ばれた戦士が、いとも簡単にィーーーーーーッ!!!た、担架を早くッ!!!」
アルビスさんが担架に乗せられ病院へ運ばれていく。
「しかし、何という強さッ、テオス・レッシー!!攻撃をものともせずにあっという間に勝負を決めてしまいましたッ!!!」
テオスは何も言わず、退場していく。何て強さなんだ、アイツ………………。