第138話 大した事ない
さて、遂に俺の番か。
「第四試合に出場する選手は準備してください!!!」
俺は討議場への入り口へと向かう。丁度キュヌムが担架で運ばれていく所だった。
「フフッ。」
続けて闘技場から退場したライアさんがキュヌムを見送り、俺をチラッと見て微かに笑ってどこかへ行ってしまった。何を考えていたのだろうか。
ま、今は自分の事だけ考えていよう。ここで勝たねば優勝賞金500万メノンは夢のまた夢なのだ。
なんかこんなに金に執着していて、悪から世界を救う正義の味方らしからぬ言動だと自分でも薄々思うのだが、まあいい。正義の味方だって先立つ物は必要だ。ましてや、今は60メノンしか持っていないのだから。
俺は入り口の前で入念なストレッチ。
「たしか相手は…………バルド・ペルシオ?あの黒人だっけ?」
メレンが俺に聞く。
「ああ。体格がかなりいい。それに、南の島の代表だからかなり強いだろう。まあでも、俺は一年鍛えまくったから大丈夫だよ。一回戦くらい勝ってみせるから見てな。」
「だといいけど。」
ちなみに今は俺とメレンの二人きり。ジェルスとフォニカさんは客席でフロウ達と駄弁っている。皆から激励はもらった。
「心配してんのか?」
「別に。というか、修行したから一般人に負けるとは思えないしね。」
「まあな。」
「ほう。随分余裕な言葉じゃねえか。」
「!!」
後ろから声をかけられ振り返ると筋肉質な黒人が立っていた。黒髪をオールバックにして顔に泥か何かでメイクのような物を施している。
「試合の前だってのに可愛い女の子とおしゃべりして、負けるとは思えない、だと?スカラ島一番の戦士である俺が嘗められたものだな。え?」
「別に、嘗めている訳じゃないさ。アンタに負けるとは思えないってのは事実だけどな。」
「たいした口だ。ならば体に教え込んでやろうッ、島一番の戦士の強さッ!!それを侮ったらどうなるか、という事をッ!!!」
「それでは、選手のお二方は入場して下さいッ!!!」
「フン、捻り潰してくれるッ!!!」
「んじゃ、いってくる。」
「はーい、頑張ってね~。」
ワアアアアアアア!!!
闘技場に入った俺たちを観客の歓声が出迎えた。凄い熱気が籠っている。
俺達は規定の位置についた。お互いの距離は10メートル程。
ここで選手紹介のアナウンス。
「バルド・ペルシオ!!!南の島からやって来た、島最強の戦士ですッ!!!最強というだけあってそのパワーはまさに圧巻ッ!!幼い頃から戦いと共に生きてきたその強さ、ここで見せてくれるでしょうッ!!!」
ワアアアアアアア!!!
「やれーーーーーーッやっちまえーーーーーッ!!!」
「カイン・セプル!!!全くの無名ッ!!オマケに見た目はいかにも普通の少年といったところ!!しかし、決して侮ってはなりませんッ!!!予選では立ち塞がる猛者達を真正面から破ってきましたッ!!!この大会のダークホースとして期待できるでしょうッ!!!」
ワアアアアアアア!!!
「がんばれぇーーーーーーッ!!!」
「ノックアウト、ギブアップ、場外により勝負が決します!!!それでは、一回戦第四試合……………始めェッ!!!」
ドォン!!!
お互い前に出て距離を詰める。そして数発殴り合い。
ガッ!!ガッ!!ドスッ!!バッ!!
「おおっと、いきなり殴り合いか!?体格差はあるが大丈夫かーーーッ」
これはお互い腹の探り合いだ。いきなり本気でやってもいいが、後々スタミナ切れを起こしても困るからな。
ま、この辺で仕掛けてみるか。ケンカキック。
ドゴッ!!
バルドは両腕でガード。少し後ずさりしたが大したダメージではないようだ。
「はあッ!!!」
ドゴッ!!!
「おおっとバルド選手のタックルが決まったァーーーーーッ!!!」
「なッ!!?」
「へッ、効かないねぇ……………ッ!!!」
こんなタックル、クーヤさんの蹴りやレリカのパンチに比べたら可愛らしいものだ。いや、アレが化け物じみた破壊力なだけで弱くはないが。
ドスッ!!
タックルしてきたバルドに膝蹴り。
「ぐあっ。」
ドガァッ!!!
よろめいた隙を逃さず右フック。顔面ヒット。しかしまだ倒れない。
「ま、まだまだァッ!!!」
うーん、早く終わらせたいんだが……………。
ドゴッ!!
ケンカキック。こんどはマトモに命中。しかし倒れない。
バキッ!!
右足でのハイキック。しかし倒れない。だんだん虐めているみたいで気がひけるんだが。
ドゴッ!!
更に右ストレート。しかし倒れない。頼む。倒れてくれ。もしくは降参してくれ。
フラフラながらも殴りかかってくるバルド。いや、もう、ギブアップしたら?
軽くパンチを避けて後ろに回り……………。
ガッ!!
裸絞め。
「降参、するか?」
少しずつ力を込めつつ、聞く。
「う…………わ、わかった!!降参だ!!!助けてくれッ!!!」
俺はバルドを離してやる。
「勝負ありッ!!勝者、カイン・セプルッ!!!」
ワアアアアアアア!!!
俺は歓声を浴びながら退場していく。
パァンッ!!!
待ってくれていたメレンとハイタッチ。
「お疲れ。」
「大した事なかったよ。」
そう言ってお互い微かに微笑んだ。