第135話 蹴り
(ジェルス視点)
開幕いきなりの残虐ファイトに、しかもチャンピオンが餌食になり、観客達も驚いている。なんだアイツ、悪役とかっていうレベルじゃない。
しかし、大会はそのまま続行である。アナウンスもなんとか空気を変えようとしている。
「で、ではッ!!いきなりアクシデントはありましたがッ、お客様方がそのような事では選手の皆様だって本領を発揮できませんッ!!そうですッ!!お客様の声援があってこそッ!!盛り上がりがあってこそッ!!それがこの大会の血肉ッ!!この大会そのものなのですッ!!」
それを聞き、観客も徐々に元にもどっていく。
「そう!!その調子ですッ!!では、第二試合に出場する選手は準備してくださいッ!!」
次は…………フォニカさんか。
闘技場に入る扉の前の廊下。フォニカさんは軽くストレッチをしている。
「アタシの相手はトゥム・レンスね。噂は聞いてる。長い足のリーチを生かした蹴り技に長けた人だってね。」
「見た感じ身長は190cmくらい。股下100といったところかしらね。」
「かなり長いな。それに中々体格もいい。大丈夫ですか?フォニカさん。」
「ま、予選あの人と同じでちょっと見てたけどどうにかなりそうだったよ?」
ああ。この人あのムキムキのオヤジさんより強いんだったか…………。
「おや、対戦相手のお嬢様ではありませんか。」
フォニカさんに近づく背の高い男。短髪だが右のモミアゲは鎖骨まで伸びておりとても目立つ。それにしても足長いな。
「失礼かとは思いますが、お嬢様を傷つけたくはありません。降参なされた方がよいと思われますが。」
うーん……………なんか、フロウに似てる感じだけど、何か違うかな……………。
「あら。アタシを気づかってるの?でも結構よ。アタシそんなにヤワじゃないからね。」
「ほう…………では、手加減などは致しません。こちらも全力でいかせてもらいましょう。」
「それではッ!!第二試合始まりますッ!!選手のお二人、入場してくださいッ!!」
ワアアアアアア!!!
「じゃ、行ってくるね!!」
二人が入場して行った。
「なーんか、あのトゥムとかいう男、やな感じだな……………。」
入場を見送った後、カインがボソッと呟いた。
「そうね。女性を気づかってるのは言葉だけ。実際そんな事は考えてないように思えるわ。」
「……………とりあえず、観戦しに客席行こうぜ。」
移動。
「トゥム・レンスッ!!注目すべきはその長い脚ッ!!その長いリーチから放たれる蹴りは脅威と言えるでしょうッ!!事実予選もその蹴り技でライバル達を蹴落とし、勝ち上がってきましたッ!!」
ワアアアアアア!!!
「フォニカ・グレイティス!!!女性ですが、酒場で働き、酔っぱらって血気盛んとなった男共とのほぼ毎日の喧嘩により、その身体能力と経験はかなりのものですッ!!予選では男達と真正面から戦い、勝ち上がって参りましたッ!!!」
ワアアアアアア!!!
「頑張れえええええッ」
「一本勝負、時間無制限、ノックアウト、ギブアップ、場外により勝負が決します!!!」
ワアアアアアア!!!
「それでは、一回戦第二試合……………始めェッ!!!」
ドォン!!!
鐃が鳴る。先程とは違い、二人はすぐには責めない。少しずつ距離を縮めていく。
リーチにはトゥムの方が勝っているため、あちらが範囲に入った瞬間攻撃が飛んでくるだろう。そうなるとフォニカさんは不利じゃないか?
その間にも、距離は縮まる。やがて、トゥムの足が届く範囲に近づいた。
ブォン!!!
バシィ!!!
「おおっと!!!蹴りを片手で受け止めたーーーーーッ!!!」
受け止めた足を離して一言。
「うーん、親父のキックよりちょっと弱いかな?」
うーん、遠くてよくわからんがとりあえず奴は頭にきたようだ。
「ほお…………言ってくれるじゃあないですかッ!!!」
ブォン!!!
トゥムがもう一発キック。フォニカさんはそれを後ろに跳んでかわし追撃を足で受け止める。
「あははっ。ちょろいちょろい♪」
「こ…………の…………調子に乗るなッ!!!」
「かかってきなっ♪」
ああ、本性だしたな。アイツ。
ブンッ!!ガッ!!ヒュン!!ダンッダンッ!!ズパンッ!!
「フォニカ選手、蹴り技が十八番のトゥム選手に蹴りで応戦しているーーーッ!!!」
「ほらほら、アンタの得意分野じゃないの~?カモォ~ン。」
「嘗めるなァッ!!!小娘がッ!!」
回し蹴りをフォニカさんはバックステップで避ける。トゥムが踏み込んで蹴りを入れる。
ブンッ!!
ドガァッ!!!
「カウンタァーーーーーッ!!フォニカ選手のアッパーが顎に入ったァーーーーーッ!!!」
蹴りには弱点がある。いや、全ての技に欠点はあるのだが、拳と比べての弱点だ。
まず、足は手より大きい。それにより必然的にモーションが大きくなる。回し蹴りならなおさらだ。キックボクシングのフライ級選手でも相手が反応できない速度で上段回し蹴りをブチかます事なんて困難だろう。素人ならともかく、経験者は簡単に避けられる。
次に、蹴りを放つと体勢が崩れる。その状態では姿勢を崩され易いのはもちろん、次の動きに繋げるのが遅くなる。パンチ→キックのコンボはスムーズに出せるがキック→パンチは間が空く。隙が大きくなるのだ。
奴は頭に血が昇っていたためにその事に気づかず、キックをあっさりかわされ、懐に潜り込まれ、痛い反撃をもらった訳だ。アッパーをモロにもらったからな。ボクシングやった事あるから分かるけど顎の衝撃は脳へと直に伝わる。脳震盪起こしてバランス保てなくなるぞ。
トゥムは意識はあるようだがやはり脳震盪を起こしたようで方膝をついた。もちろん、こんな隙を逃していい訳がない。
ブォン!!!
ドゴッ!!!
「フォニカ選手の蹴りが入ったァーーーーッ!!!直撃だァーーーーーーッ!!!」
フォニカさんの回し蹴りがトゥムの頭を捉えた。ああ、ありゃ意識飛んだな。
「勝負ありッ!!!勝者、フォニカ・グレイティス!!!」