第116話 後始末
声が聞こえてしばらくした後、ジェルスが走ってきた。
「おい、大丈夫か、二人とも!?」
「ジェルスさん……………あ、あ、う、うわああああああん!!!」
「おっと!!」
キュリアちゃんがジェルスを見た途端に、泣いてジェルスに抱きついた。無理もない。あやうく死ぬ所だったんだ。緊張の糸が切れたのだろう。
「ごめんな。キュリア。一人ぼっちにさせちまって。」
そう言ってジェルスはキュリアちゃんの頭を撫でる。
「リメイカーか?」
キュリアちゃんを抱きしめながらジェルスがたずねる。
「ああ。なんとか撃退したよ。それにしても………………キュリアちゃんが本当によく頑張ってくれたよ。彼女がいなけりゃ危なかった。」
「そうか……………。」
そう言ってジェルスはキュリアちゃんに穏やかな笑みを向けた。
「ああ、こちらでしたか!!」
フロウも走ってきた。
「この残存魔力……………ゲリズさんですね?」
「ああ。」
「……………あと、僅かですがクーヤさんも。」
「何!?クーヤもいたのか!?」
「ああ。…………ゲリズを回収して帰っちゃったけど。」
「ま、それで良かったんじゃないですか?まともにやりあっても恐らく勝てないでしょうし。」
「………………悔しいけど、その通りだな……………。さ、戻ろうか。立てるか?カイン。」
「ん?……………ああ。なんとか。かなり魔力使っちまってな。少し疲れちゃったよ。」
こうしてマーキングの魔法を設置した場所に戻ってしばらくするとメレンとアイナさんも戻ってきた。二人にも事情を説明する。
「そっか……………。」
………………あ。そうだ。これ話しとかないと。
「あ、そうそう。ゲリズから聞いたんだけど………………。」
かくかくしかじか。これでパッと説明した事にできるって、便利だよね。
「リメイカーの証…………ね。」
アイナさんがボソッと呟く。
「クーヤさんにイヤリングは回収されましたけどね。確かこんなマーク。……………これで色が真っ黒。」
「つまり、これが描かれたアクセサリー着けてれば、リメイカーだと思っていいの?(メレン)」
「多分。あの野郎の言葉とかまあ信用できないけど……………拾われた時のビビリ様はどうも本当っぽいんだよな……………。」
「じゃ、本当じゃねぇか?…………サーリッシュは何か着けてたかな……………?イヤリングなら髪で隠れるよな……………。」
「多分そんな感じで隠してるんじゃないですか?そんなの見せびらかす人居ないと思いますよ?」
「ま、そんなモンか……………。」
「じゃ、もう休みましょう。カインさんも治療しないといけませんしね。」
「ほら。キュリア。いい加減離れろって……………。」
「うう、だってぇ……………。」
「全く、しょうがないな…………。」
(クーヤ視点)
「ただいま。ゲリズ持ってきたわよ。」
「おかえり。クーヤ。……………酷くやられてるわね……………。それ。」
ゲリズを床に置いてあたしは大きく伸びをした。部屋にはあたし、レリカの二人だけ。
「んー、ま、当然じゃない?あたし戦い見てたけど、多分あの程度じゃカインは手助け無しでも勝ってたわよ?ゲリズが押してるように見えたけど、コイツの魔力結構限界だったし、タイマンでもカインを仕留めるのは到底無理。耐えきられた後の反撃でやられてるわね。きっと。」
「ま、そんなものかしら?…………ところで、手助けしたのは誰なの?」
…………珍しく興味を示してる…………。
「キュリア・メズンっていう女の子。銃を持ってたわね。魔導石で作られたもの。」
「メズン?ローザ・メズンの娘?」
「そうみたいよ。お母さんって呼んでたし。……………どうかした?」
「いや……………別にいいわ。わたしにだって間違いはあるわよね。」
「…………?」
「にしても……………ちょっと興味湧いてきたわ。わたしもちょっと見てこようかしら?」
「あら?あなたも出るの?」
「ま、近い内に行くかもね。………………あ、そうだ。ゲリズ?」
「……………はい………?どう……か、しま………したかァ………?」
「あなたさぁ?最近、に始まった事じゃないけど新入りをよく大ケガさせたり殺したりしてるじゃない?ディスターなんかよりだいぶ派手に。それってね。結構迷惑なのよ。主に後始末だけど。」
「は、はァ……………。」
「それにさ?あなた、負けちゃったじゃない?去年のあれはまだ戦えた状態で帰ってきたから相手を見逃したって事でまだいいけど、今回はもう言い訳できない程に。」
「で、それ…………が、どうかし」
「だからさぁ、アンタを、始末しようかなって。」
「なッ…………!!」
ゲリズの表情が一瞬で歪む。顔が真っ青だ。
「ま、そんな訳だからさ。」
「い、いや………………待って…………くだ………さいよォ…………。そん………な、ボスに勝手に」
「ボスも言ってたわよ?ゲリズはお前が用済みだと思ったら消していいってさ。」
「………………ッ!!そ、そんな、それにしたって」
「うるせぇよ……………。」
「……………ッ!!!」
「テメェ……………いちいち喚くんじゃねえよ…………クズが…………テメェのせいでどれだけわたしが不愉快な思いしてると思ってんだ………………?」
ゲリズは怯えて口をぱくぱくと動かすだけ。……………これはあたしも巻き添え喰らうわね。離れましょ。
「それとも?わたしをこれ以上怒らせてもっと残酷な死に方してぇのか?お望みなら生きたまま内臓抉りとってじわじわ殺してもいいんだぜ……………?」
「う……………ああ………………。」
「静かにしてろよ。そしたらせめて楽に死なせてやるからさあ………………。」
もうゲリズの声は聞こえない。
「そうそう、そんな感じ。やりゃあできるじゃねえかよ。じゃ、楽に殺してやるから感謝しろよ。…………じゃあな。」
ドガアアアアアッ!!!!
あたしが戻るとゲリズの姿はもうなかった。ゲリズが居た場所は僅かな燃えカスが残っているだけ。
「ほーんと、あんなのはちゃっちゃと始末するに限るわね。」
「相変わらず趣味悪いわ…………ゲリズが死ぬのはどうでもいいけど。で、どうするの?あなた、直接見に行くの?」
「ええ。でも、今じゃないわ。もうちょっと後よ。……………ふふ。楽しみね。」