第107話 入浴
剣とブレスレットを部屋に置いて(ブレスレットは引き出しに入れている。またメイドさんに持っていかれても困るし)俺は風呂場へと向かう。
風呂場へと向かい、通路を歩く、角を曲がると、少し前をメレンが歩いていた。メレンも軽装で、風呂に入りに行くのだろう。
足音を聞いたのかメレンが振り返る。
「あ、カイン。」
バハルを出た時は目に見えて不機嫌だったが、機嫌は直ったように見える。
俺達二人は並んでしばらく無言で歩いた。メレンも何も喋らない。……………何か気まずい。何か喋らないといけないような気がする。
「……………あのさ、メレン。」
「ん?どうしたの?」
「…………良かったよ。お前が無事で。去年船を吹き飛ばされて、どうなるかと……………。」
「どうしたの?そんないきなり。」
メレンはクスクスと笑いながらたずねた。
「いやさ……………お前、俺に助けを求めてたのに、俺、助けられなくて…………何かあったらどうしようかって……………。」
「もう、そんな事気にしてたの?」
メレンがこう言って笑う。
「そんな事気にしないで。皆無事だったんだし、流されていい修行場所に行けたようなものでしょ?」
「……………そう、だな。」
俺もそう呟いてしばらく二人で笑い合った。そんなこんなで風呂場のドアの近くまで来た。女風呂の方からメイドさんが出てきた。ブレスレットを洗われそうになった時に初めて会った茶髪で細目の色っぽい女性だ。掃除をしていたのだろうか?
俺らが二人並んでいるのをみてメイドさんが少し笑ったように見えた。
「…………男女一緒では入れませんよ?」
「わかってますよ!!」
いきなり何を言うんだこの女は。
「いや…………でもヤッてた」
「ヤッてませんよ!!去年も言ったじゃあないですかッ!!?」
ていうか去年の事なのにまだ覚えてるのかよッ!!(第49話参照)てっきり忘れてたと思ったわッ!!俺自身忘れてたし。
「……………カイン。」
「………………………………何?」
今まで黙ってたメレンが口を開く。お前も何か弁明しろや。
「……………寝てる間に襲ってたりす」
「してねぇよッ!!俺まだ童貞だわッッ!!」
コイツも何を言ってるんだ!?俺をからかってる!!?
「あ、童貞バラした。」
「論点そこじゃねぇだろッッ!!」
ヤバい、弄ばれてる気がしてならない。
「まあちょっとからかっただけだけどね。私まだ膜残ってるし。」
そういうのは言っちゃってもいいものなのか?ま、名家の一人娘がヤッてるとも思えんが。
メイドさんはこれ以上は何も言わずに行ってしまった。なんか俺いじられた(あと童貞暴露した)だけじゃね?
「じゃ。…………覗かないでよ?」
ガチャ。
バタン。
…………………………。
…………………風呂入ろ。
湯船に浸かる。暖かいお湯が心地よい。歩き疲れた体に染みるようだ。
風呂場には俺一人。とても静かな空間。響くのは俺が体を動かした際に発する水音のみ。
久しぶりだな……………こんな静かな入浴は…………………。
ルディブ島で修行してた時、村に風呂場はあったけど、村民皆で共有の物だった。男と女に別れていたが、薄い壁一枚で隔てられているだけというものだった(本来は女湯だけだったがフロウが住み始めたために急遽男湯を造ったようだ)。
で、その風呂がまあ騒がしかった。フロウと一緒に入った事があるのだが、隣に居るハズのフロウが一瞬で消えて、男湯と女湯を隔てる壁ブチ破って戻ってくるのだ。
フロウが一緒でない時も、大概誰か入っており、話し声などが絶えず聞こえていた。
ま、あれはあれで悪くなかったけど、静かな方が俺は好みかな。落ち着くし。
……………やべ…………疲れとリラックスで強烈な眠気が…………頑張って起きないと…………いけ………な………………。
睡魔に勝つ事ができず、俺の視界が真っ黒になった。