104話
(カイン視点)
翌日、目を覚ました俺は起き上がり、横を見る。フロウが犬の様に丸くなってぐっすりと寝ている。ルルカちゃんやシニアさんもそうだが、原型は人間なのに犬や猫と同じ様な格好で苦しくないのだろうか。俺前に好奇心で猫が起きた時にやる伸びをやったら背筋を痛めたのだが。
フロウを揺すって起こす。フロウは眠ったまま尻尾をぱたぱたさせるだけ。起きないので尻尾を軽く掴むとパッと飛び起きて臨戦体制にはいる。
「何者…………ってカインさん?止めてくださいよ、この尻尾は飾りじゃない事、わかってますよね?」
「起きなかったからちょっと弱い部分使わせてもらったぜ。」
それだけ言って部屋を出る。向かうのは女性二人が寝てる部屋。…………間違っても襲う訳じゃない。
ドアを軽くノックする。メレンがこれで起きるなんてハナから期待していないが、アイナさんなら起きるかもしれない。
……………反応ナシ。俺ら以外の一般人は居なかったハズなので、多少激しくやっても構わんだろうか?
再度ノック。今度は多少強め。
「………はいはい。」
中から声が聞こえた。この声はアイナさんか。
ガチャ。
アイナさんがドアを開ける。やはりその大きさに一歩引いてしまいそうになる。女性なのに俺より20cmデカい。ものすごい美人なのは間違いないが、俺のような低身長から見たら結構威圧感あるぞ。
「あ…………、おはようございます。」
「……………えーっと…………、セプル君……………だったっけ。……………何?」
不機嫌そうな声でアイナさんがこう言った。欠伸をしながら黒髪を掻く。
「あ、あの…………出発の準備を…………。」
「あっそ。準備ね…………わかった。」
それだけ言ってやや乱暴にドアが閉められた。起こしたせいで機嫌を損ねさせてしまったのだろうか。
俺は部屋に戻り、剣を背負い、部屋を出る。フロウも続いた。俺ら男の準備は武器を取るだけだが、女性は着替えとかあるだろう。多分。
俺らが下の階へと続く階段を降り始めた時、ドアの開く音がした。振り替えると、ジェルスとキュリアちゃんが出てきた。キュリアちゃんがジェルスの腕にしがみつき、とても仲よさそうに二人で歩いてくる。仲いいな。
「…………やっぱり男女ペア三組がよかったと」
「突き落とすぞスケベ犬公。」
「狼ですよ………………。」
…………あれ?狼だったっけ?…………うーん、よく覚えてねーな………。
「…………まーいっか。突き落とすぞ。」
「止めてくださいよ朝から…………。」
「……………おはよう。」
「おはようございます!」
後ろの二人が挨拶をする。
「ああ。おはよう。」
「おはようございます、キュリアさん、どう
「おおっと手が滑ってしまったァ~(棒読み)」
ドンッ。
「ギニャァアアァァッ!!」
「あ、あの…………大丈夫なんですか…………?突き落とされたんですけど…………。」
「大丈夫大丈夫。殺したって死なないし、むしろ殺す気でやらないと止まらないし。」
「なんか右足が異様な角度に曲がってるぞ……………。」
「気にしない気にしない。首が異様な角度に曲がるのがザラだったし。」
魔法で治せるし……………。
「さ、階段で溜まってると迷惑だぞ。」
そんな感じで下へと降りる。少し待つと女性二人が降りてくる。
「……おはよ、皆……………。」
メレン達に俺らも挨拶を交わす。メレンはやはり眠そうだ。修行中は寝たいだけ寝てただろうし、朝に弱いのは直ってないだろう……………。
メレンが大欠伸。……………こういう所は一年前と全く変わっていない。
「…………なんでフロウは怪我してるの?」
「……………滑らせたんだよ(俺が腕をワザと)。」
「ああ………メレンさん………治療していただけませんか………。」
「え………?自分で治療できるでしょ?」
「え?……………はい…………。」
普通に断ったよ。この人。暴力を以て断られる事に慣れてるせいかフロウが戸惑っている。
…………ちょいちょいこういう普通の断り方挟むと効果的かもしれない。いや、もちろん二階から投げるとか腕掴んでブン回すとか躊躇なくやるけどさ。
「……………そんな事はいいんだけどさ。」
おもむろにアイナさんが呟く。少し離れた場所で壁によりかかっていた。
「メレンから聞いたんだけど…………これから一旦城に向かうんだって?」
その問に俺が答える。
「はい。メレンから聞いたと思うんですけど……………広い上にどんな事があるかわからない所に何も無しに言ってもどうにもならないと思うんですが
…………。」
「ま、それはそうだけどね…………。そんなモタモタしてていいの?」
「そうなんですが…………あっちのほうから仕掛けてくるのをシメて情報集めてからですかね…………。」
「上手くいくの?それ?」
「まぁ、これしかありませんし、それに、奴らは俺達を利用しようとしてるらしいので、すぐに大きく動く事はないと思います。」
「…………ま、上手くいきゃいいんだけど…………。」
「そんな事よりさ、お城に行くんでしょ?私が瞬間移動使おうか?」
「止めときなさい。」
メレンの提案をアイナさんが制した。
「あたしも瞬間移動は使えるけど、北の城には言った事ないから協力できないわ。他に瞬間移動使えて北のお城に行った事ある人は?」
誰もいない。
「いくら大気中の魔力を使っても一人で6人を、しかも相当な距離を運ぶなんてあまりにも無謀。想定外の場所に飛ぶわよ?」
「私結構魔力使えるようになったけど…………そんなに?」
「瞬間移動は人数増えると消費魔力がネズミ算の如く増えるしね。まぁ、6人運ぶとして…………貴女の魔力だと……………うーん……………3日分くらい?」
「えっと…………たしかこっから城まで一週間くらいだから…………少なくとも4日くらい歩かないと行けないって事かな?(ジェルスの台詞)」
「実際4日歩いて瞬間移動やらせたら多分昏倒するわ。何があるかわからないから魔力消費が激しいのはなるべく使わない方がいいわね。」
「つまり…………一週間歩き。なんか……………久しぶり…………。(俺の台詞)」
「ま、そんな事言ったって始まりませんよ。行くんなら早く行きましょう。」
フロウがそう言って俺達も続く。
さぁ、久々の遠距離歩行だ………………。
今回、というか最近キュリアがあんまり目立ってない気がする。