第102話 ディスターとサーリッシュ
(クーヤ視点)
あの子達と遊んだ後、あたしは瞬間移動でアジトまで帰ってきた。相変わらずディスターが下端達をしごいている。一人吹き飛んできた男をあたしは蹴り飛ばして進む。蹴った男が悲鳴をあげ壁に叩きつけられた。
よくある事だ。特にディスターがリメイカー幹部になってからは。大抵ディスターかゲリズが吹っ飛ばし、他の幹部に向かっていけば叩き落とす。重傷者なんて空き家に沸いてくるゴキブリのように出てくるし、酷い時には死ぬ事すらある。皆があたし達のように強い身体を持っている訳ではない。大抵の下端は路地裏のチンピラとか、仕事に失敗した浮浪者とか、殺人を犯して兵から逃げてきた者とか、そんな感じだ。
それに、ここには医者なんていない。自分の魔力で治せない場合、魔法ナシで道具で治療するしかない。リメイカーが病院なんていけないからね。
しかし、ディスターやサーリッシュが下端を殺してしまったというのは聞いた事がない。…………手加減しているのか?ゲリズはしょっちゅう殺しているんだけど……………。
「ただいま。ディスター。」
「ああ。おかえり。カイン達とやり合ってきたんだろう?どうだった?」
とびかかってきた下端を殴り飛ばしてディスターが言った。
「まぁ、あたしに久々に血を流させたからね。相当強くなってるんじゃない?それに、仲間も増えてたわよ?」
「何?俺らの世界の人間か?」
「いいえ…………。こっちの世界の人達ね。驚く事に、人造人間がいたわよ。」
「ほう…………。確か、俺達に対抗して造られたという?どうだ?強かったか?」
「結構やるわよ?あたし人生で初めて血を吐いたからね。」
「何…………?そこまでか?」
「……………貴方、あたしを舐めてるの?あたしが本気で戦ってきたとでも?」
「………………油断したって事か…………?」
「………………ま、そうね。調子に乗りすぎたかしらね?」
「アンタが負けるとは思えねえがな……………。」
「じゃ、あたしはレリカと話してくるわ。……………あんまり新人をいじめないでよ?可愛い子だっているんだから。」
「はいはい。分かったよ。にしても、この世界娯楽が無いからなあ……………。」
「我慢しなさい。じゃね。」
そう言ってあたしはレリカの元へと向かう。しばらくして、ディスターがしごきを再開したのだろう。何かが壊れる音と悲鳴が聞こえた。
あたしは小さく溜め息をついた。本当にディスターは話を聞いてくれない。
「どうしたの?溜め息なんかついて。らしくないじゃない。」
すれちがったサーリッシュがあたしに声をかける。
「いやね。ディスターやゲリズが下端達をぶっ飛ばすのがどうにかならないかと思ってね。後始末が大変なのよ。」
「そんな事?いいんじゃない?ほっとけば。」
「そんな事言ってもね…………重傷者ならともかく、死体は腐っちゃうのよ…………。ゲリズなんて殺してもそのまま放置だし。」
「ま、確かに眺めのいいモンじゃないけど……………。」
ここで、サーリッシュがあたしの顔をじっと見た。
「……………溜め息ついてたから沈んでると思ってたけど…………なんか機嫌良さそうじゃない?どうしたの?」
「分かった?」
「そういや、カイン達と遊んできたんでしょ?楽しかった?」
「ええ。あのカインって子、可愛くて中々気に入ったわ。」
「そう。確かにカインはどちらかと言えば可愛い方だと思うけど………。…………ジェルスは?どうだった?」
「あの子は血の気が多いみたいでね…………。カインと違ってあんまり……………。……………どうしてジェルスの事を?」
「ん?なーんか、もう一度戦いそうな気がしてね。聞いておこうかなって。」
「ふーん……………。でも、かなり強くなってたわよ?去年の貴女なら圧倒できる程にね。」
「あたし達は一年間ボーッとしてただけどでも?あたし達も強くなっているわ。」
「……………それもそうね。なら、ジェルスと戦っても、大丈夫かしら?」
「当然。」
「そう。期待してるわ。」
……………一年間でサーリッシュが強くなったとしてもジェルスは少なくとも互角までいってるんでしょうけど。手合わせして強さはよく分かった。カインやジェルスの強さはリメイカー幹部に追い付きつつある。ディスターやサーリッシュは幹部の中でも実力はそこまで高くないから恐らく追い付かれている。
「じゃ、あたしはレリカの所に行くから。ディスターに新人へのしごきを止めるよう伝えといて。」
「止めるとは思えないけど………一応伝えとくわ。」
サーリッシュが歩いてあたしから遠ざかっていく。あたしも歩いてレリカの待つ場所へと向かっていった。